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1104 乳vs乳

 さて、こうして何故か始まりました。


 サテュロス族vsミノタウロス族。

 恩返し権争奪、乳比べ対決。


 実に語弊のあるタイトル。

 比べると言っても、比較するのはバストの乳ではなくミルクの乳だ。


 日本語の難しさに今日も悩まされるぜ。


 サテュロス族及びミノタウロス族の押しかけ獣人たちは、みずからこそが聖者に恩を返そうと意気揚々。

『施されたら施し返す! 恩返しだ!』と鼻息荒い。


「恩返しの邪魔をする者はすべて叩き潰す!」

「それはこっちのセリフよ! 恩返しのためならば殺人も肯定される!」


 恩返しってそういうものだっけ?


 ともかくもヤツらのお陰で開拓地は今日も遅々として作業が進まない。


 開拓者どもはこぞってこの突発イベントの観客となって二大獣人種族の対決に首ったけだ。


 タイトルの匂いから察してポロリでも期待しているのだろう。邪なヤツらめ。

 開拓地の従事者ほとんど男だしな。


 そんな一連のカオスを俯瞰しつつ、埒が明かないから事態を進めていく。


 俺はもちろん司会進行兼、勝敗を判断する審判係だ。

 何故なら俺が聖者だから。

『聖者への恩返しを果たす』という彼女らの目的を鑑みれば。


 その隣でもう一人の司会進行役となっている妻、プラティ。


「さあ、始まりました! 時間無制限一本勝負デスマッチ! ダンナ様への恩返しを巡って種族の! 女の! プライドを懸けた戦いが始まる! 恩返しを果たせるか、それとも死か!?」


 無責任なマイクパフォーマンスで対決を深刻にしないで。

 死人どころか怪我人もなるべく出さない方向で行きたい。


「まずは趣旨を説明するわ! サテュロス族とミノタウロス族、どちらも生産する

ミルクは有名! その優劣を決めることが旦那様に恩返しするに相応しい者であることを決めると同意!……ということで味比べよ!!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」


 観衆が盛り上がる。

 なんで?


「そして優劣を決めるために必要なものは何か!? そう審査員よ! 舌が肥え、違いのわかる誰かさんが判断してこそ優劣は決められる!……なんて傲慢なの! それぞれ美味しいってことでいいじゃない! そもそもヒト様を審査するなんてそいつはどんだけ偉いのよ!?」


 どうしたのプラティ!?

 自分で説明して自分でキレてる!? 情緒不安定!?

 出産直後でホルモンバランスでも欠いたの? それでもさすがに出産から大分経過してるよね?


「というわけでそんな傲慢な審査員を紹介していきます」


 流れが最悪!?


「まずはウチの旦那様、聖者! 聖なる舌は僅かな成分の違いも感じ分ける! 旦那様の味覚を騙しとおせる術はないわ!!」


 最悪な流れから紹介した上にハードル顔上げしてくるな。


「審査員は複数人いないと成り立たないわ! そこで二人目! 我が農場に住み着いたサテュロス族から代表してパヌが参加よ!!」

「そんな勝手に定住したみたいな言い方しないでくれますか!?」


 と抗議するのは、豊かな乳房をした美しい女性。

 見慣れた姿は、我が農場に古くから住み着くサテュロス族のパヌであった。


「我が種族の若者たちが先走って……、本当に申し訳ありません」


 まあまあまあまあ。

 今回の争いにはパヌの同族が渦中にいるというということで彼女なりに忸怩たる思いがあるようだ。


 そもそもサテュロス族が今日恩返しに押しかけて来たのだって、遠因はパヌが農場に移り住むことになったきっかけの出来事だからな。


「パヌお姉さま! 聖者様の下をおたずねすれば会えると思っていたけれど見事予測が当たったわね!!」


 押しかけサテュロス族を率いていた女性が叫ぶ。

 それを受けてパヌは……。


「パイドラ……、アナタ年が経ってもやっぱり落ち着きがないわね。そんなノリで聖者様に失礼を働いていないわよね?」

「当然よ! 種族の恩人たる聖者様に失礼ぶっこくなんてあるものですか」


 今さっき、アナタに弾き飛ばされましたよね俺?

 アレは失礼に当たらないとでも?


 というかパヌはあの押しかけサテュロス族代表の女性と知見があるんだな。

 同族だから当然と言えば当然か……。


「はい、あのパイドラは私の妹分で……。農場に移り住むために里を発った時はまだほんの小娘だったのですけれど……」

「私もあれから成長して、ミルクもたくさん出るようになったのよ! 量質、そしてフレッシュさでもいまやパヌお姉さまに引けを取らないわ!」

「あらパイドラ? それは私からフレッシュさがなくなった……という意味なのかしら?」


 パヌの笑顔から和やかさが消えた。

 これは同族だからと言って審査の贔屓とかを心配しなくてもよさそうだな。


 という小話を一旦終えて、プラティが話を進める。


「もちろん審査員が二人だけじゃ全然足りないわよね! 続いて三人目の審査員を紹介するわ! スペシャルゲストよ!!」


 おおッ?

 なんか紹介の仕方が大仰だな? 聖者である俺をも上回るスペシャルな審査員がいると?


「よくよく考えてみて。ミルクをもっとも必要としている人は誰か?」


 急に謎解き!?


「ミルクとは元来、母親が子どもを育てるために分泌するもの。よって、ミルクをもっとも必要としているのは小さい子どもと言って間違いない」


 ふむふむ。

 それはまあ、そうだろう。


「そこで三人目の審査員には、ウチの子たちの中で一番ちっちゃなショウタロウが参加するわ! さあ、アナタたちのミルクでウチのニューフェイスを唸らせてみなさい!!」


 そう言って生まれたての赤子を掲げ上げるプラティ。


 なるほどそういうことか!

 言われてみれば確かに我が家の三男ショウタロウ! 今が一番ミルクを飲む時期!!


「いやー、一度にたくさん赤ちゃんが生まれてるからミルクの確保もけっこうな問題なのよねー。ジュニアやノリトの時はパヌたちの協力で乗り切れたけど今回オークボらの子どももいるからキャパオーバーなのよ。ということであの子らの押しかけはアタシたちにとってはタイムリー!!」


 それでプラティこんなにテンション高いのか。


 母親たちがそんな事情になっていたとは、気づかぬ俺も迂闊だった。


 こうなったからにはこれを機にたくさんミルクを購入して赤ちゃんたちのお腹を満たさなければ!


「ちょっと、まったー!」


 ん? なんだ!?

 着々と進んでいる審査員紹介に、突如とした介入が?


 何者が現れたかというと……ノリト!?

 ショウタロウがウチの三男なら、ノリトは次男!

 三男の独壇場に、次男が乱入!


「わたしにもできるはずだ、しんさいん!」


 なんで!?

 どうやらノリトは、己も審査員にと名乗りを上げたようだ。


「ぼくも子ども! 子ども! おっぱい飲むけんりがある!」


 子どもが権利を主張し始めた。

 長男三男と比較して、この次男はどうにも癖が強いな?


 それを見て母親であるプラティは……。


「ノリト……そんなこと言ってアンタ、若い女から直接おっぱいを絞れるチャンス! とか思ってるんでしょう?」

「ぎくり!」


 ……えッ?


「誰に似たのかアンタ、そういうところのある子どもだものねえ。おっぱい飲む時の目つきも他の子たちとはどこか違ってたし……。でももうアンタもおっぱい飲む年頃でもなくなったでしょう。審査員としては不適格よ、不適格」

「そんなおとな、ぼくがしゅうせいしてやるー!」


 図星を突かれたノリトはあえなく走り去っていった。


 ……あの子の教育には人一倍目を光らせてないといけなそうだな。


 長男ジュニアも来るかと警戒したが、彼の場合『メロンソーダの方がいいー』と言って無頓着だった。

 長男的にはそろそろ健康にクソ悪そうな着色料たっぷりお菓子のブームが来る年頃なのだろう。


 そうして審査員が揃った今、やっと勝負は本番に突入できる。

 長らくお待たせしました!


「……あ! ハイハイ、もう開始ね! 了解です! あ~、長いこと待った。始める前にストレッチしないと!」


 参加者さんが待たされすぎてくつろぎモードになってしまわれていた!?


「さあ今こそ我が恩返しを阻む者を殲滅してくれん! 我らを阻む者よ覚悟はいいか!?」

「ふふん、ほえ面を掻くのはそっちの方よ! サテュロス族四千年の歴史が編み出した搾乳神剣術で指先一つダウンするがいいわ!!」


 またバチバチと対決ムードを盛り上げて、ぬるまった空気を一から温め直してもらってすみません!

 次から今度こそ乳vs乳の戦いが始まるぞ!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 聖者の息子スケベ過ぎるだろ!?ノリトスケベ過ぎるだろ!?(おとワッカの例のアレ並感
[一言] >「誰に似たのかアンタ、そういうところのある子どもだものねえ。おっぱい飲む時の目つきも他の子たちとはどこか違ってたし……。 同先生の作品でそんなキャラがいたような気がするがきっと気のせいだ…
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