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1100 開拓地訪問者・エルフ編

 わらわの名はエルエルエルエルエルエルシーじゃ。


 ……間違えた。


 エルエルエルエルシーじゃ。

“エル”は四つ!

 数百年も生きながらまだ自分の名前に慣れんわい。


 それもまた致し方なし。

 我らエルフにとって“エル”の称号は神聖にして厳格なるもの。


 その名にいくつ“エル”が含まれているかで、その者のエルフ社会での『格』が示されるんじゃからな!!


 つまり我が名に四つも“エル”を持ったわらわは、エルフ族においてもハイクラスであるということがおのずとわかるわけじゃな。


 それもそのはずわらわはエルフより一段高等な存在!

 ハイエルフなのじゃから!!

 ハイエルフとは、森の清浄なマナを取り込むことによって超進化した、より高貴なるエルフ!

 寿命も通常のエルフより遥かに長く、数百年を生きることも可能!!

 さらには長生したエルフのみが使える自然魔法も自在に使いこなす。


 その強さ、存在の異様さから『準ノーライフキング』とまで謳われるほどじゃ!

 ……誰がノーライフキングじゃ!? あんな干からびた死体と一種にすんな!

 いやまあ……。


 そんなわらわも、数百年にわたる悠久の人生をそれなりに愉快に過ごしておる。


 最近もっぱらのブームは、エルロン宗匠による美麗高等作品を収集することじゃ。


 ……は?

 何だ知らんのかエルロン宗匠のことを?


 おっくれてるー!


 エルロン宗匠と言えば、その手から至高の美を生み出す。この時代を代表する天才と言って差し支えない。

 いわばエルフ国宝といってよい御方なんじゃぞ!!


 エルロン宗匠の作品はそれはもう『ミュヒャアアアア』として『メタッ』とした風情が心に染み入るほどじゃ。

 アレを理解するためにはやはり、森と共に百年二百年と生きて含蓄を積まねばまかり通らぬものよのう。


 左様に気楽な生活を送り続けて早三千年……いや三年くらいか?

 不老長寿を得ると時間の感覚も適当になっていかんわい。


 まあそんなある日に火急の知らせが入ってきたのよ。

 部下のエルフたちから。


「……なに? 聖者が俗世に現れたと?」


 そりゃまた意外存外予想外じゃのう。

 それってあの、わらわと既知のあるあの聖者でいいのか?


 わらわたちと聖者については、ちょっとした縁があってのう。


 ……。

 今からほんの数年前のこと。

 わらわの命は風前の灯火にあった。


 原因は、わらわの故郷たるエルフの森が枯れて消え果ようとしていたからじゃ。


 人族どもの扱う魔法は、大地のマナを著しく傷つける。

 大地のマナが枯渇すれば、それを養分に生い茂る草木にも影響は出るわけじゃ多大に。


 実際、度重なる人族どもの狼藉で大地は枯れ果て、その影響は我らエルフの住む森にも容赦なく襲来した。


 栄養不足で森の木々はやせ細り、それに加えて我らを服従させようとする人族の軍隊がやってきては森に火を放つ。


 そんなことの繰り返しでエルフの森は一時期消滅の瀬戸際まで追い詰められていたのじゃ。

 まあ、あのまま何事もなかったら確実に消滅しておったのう。


 しかしそんな運命を変える何事かが起こった。


 聖者の降臨じゃ。


 あやつは、特に理由もなくエルフの森の再生を申し出てきた。


 大地のマナを復活させ、木々を植え直し、かつて地平にまで広がっていたエルフの森をそのままに甦らせようと。


 最初聞いた時は何の夢物語かと思った。

 アホが来たと。


 しかし聖者は有言実行し現状、最盛期とまではいかずともゆくゆくはそれに届きそうなほど植林された木々は太く高く伸び、数え切れないほどの幹が青々と生い茂った。

 うっそうと茂る森林を好んで獣や虫どもが移り住み、益々生命が溢れる。


 ここまでエルフの森が隆盛を取り戻したのも、聖者のお陰と言って過言ではない。


 ……そんな聖者が、公の場に現れるとはのう。


 わらわもあやつとはそれほど面識があるわけではないが、そんな短い付き合いでもわかるほどに、あの男は厭世家。

 俗世と関わりを持つことをあからさまに嫌っておったはずじゃ。


 その聖者が表舞台に現れるとはな。

 なんぞやむにやまれぬ事情でもあったか?


 その辺りの事情を、報告に来た部下エルフに尋ねてみた。

 すると答えはこうじゃ。


「人族どもの行う開拓に手を貸しているとか……」


 なに? 開拓とな?


 それは耳にするにもおぞましい呪いの言葉が出てきたのう。


 開拓とは、我らエルフにとってはもっとも忌むべき邪知悪行だからのう。

 人族どもは『開拓』の名のもとに木々を切り倒し、森を削り潰していくんじゃから。

 我らエルフの大切な生活圏である、森を。


 我々が『開拓』と聞いたら、たとえそれがまったく関係のない土地のことでも

こぞって駆けつけ全力で邪魔だてしなければいかん。


 エルフは森の守り部なのじゃ!!


 しかしながら、その開拓に恩人……聖者が関わっているとなれば話は少々ややこしくなる。


 我らの森を甦らせてくれた聖者には、いつかどこかでその恩に報いねばとかねがね思っていたのじゃ。

 そんな聖者の邪魔をするわけにはいかんし、かといってエルフとしては開拓などという邪行を見過ごして勇なきなりとはいかぬ。

 なやましいのう。


 こうなっては、この目で確かめてみるしかないか。

 件の開拓地とやらに赴き、聖者の真意を見極める。

 もし申し開きもないほどに森に仇なすことならば、たとえ恩人だとしてもエルフの誅罰を受けてもらわねばな。


 大丈夫! エルフって基本、恩知らずじゃし!


   *   *   *


 というわけで噂の開拓地とやらにやってきたぞ。


 ふむ、よい森じゃな。

 生命力が溢れ空気も澄んでおる。

 このハイエルフであるわらわが快適に過ごせておるのが、この森の上等さの証拠よ。


 このように清らかで豊かな森が形成されるには、百年二百年では到底足りまい。

 それほどまでに貴重な森を、人族どもは平気で荒らし、破壊する。


 そのような暴虐を許さぬためにも、我らエルフがしっかりと見極めねばな。

 ここにいるという聖者の真意を。


 ……お、早速おったな聖者。

 幾人かの取り巻きを連れて、何やら騒ぎ立てておる。


「たーおーれーるーぞー!!」


 ミシミシミシ……と音を立てて木が倒れる!?

 我らエルフの友というべき森の木を!

 伐採をしておったか! 人族めやはり野蛮な連中じゃ!


 しかもそれに聖者も協力しておったとは!

 これは許さぬ! たとえ恩人といえども森の敵は必滅あるのみ!!


 ハイエルフの自然魔法をぶっ放そうとした寸前、聖者の大きな声が耳に届く。


「皆ー、倒す木を間違えるんじゃないぞー。慎重に選別してあるんだ。不足もないし余計なものもないんだからなー」


 聖者め、取り巻きどもに呼び掛けておるのか?


「森は、俺たち人間が生きていくためにも必要なものなんだ。だからテキトーに切り崩していいわけがない。伐採したあとのこの地域にも新たに植林し直して、再生森林として保護していくんだからなー」


 なんと聖者!

 そのようにしっかり考えて開拓を進めていたとは!


 さすが我らがエルフの森を再生させた功労者!


「人の生活も自然と共にあってこそ! 俺たちの開拓は最大限に自然を傷つけないことをテーマにやっていく! 伐採する木々も建材用を目的としたものを最小限に! いいな!!」


 よし!

 ならば、その作業には我々エルフも手を貸そうではないか!


 自然への負担を最小限に! それこそエルフの望むところじゃ!

 さあ、あの人族どもに合流するぞえええええええ!!


「うぎゃあああああッッ!? エルフが現れた!?」

「エルフは開拓者をわけもなく襲って首狩っていくというぞ!? 全員全力防衛体制! それぞれ自分の身を守れぇえええ!!」

「ぎゃああ、来るな首狩り族! 命ばかりはお助けぇえええッ!?」


 んむ? なんじゃ?


 開拓に勤しむ人族ども、わらわが姿を現した途端恐慌しおって。


 たしかにエルフは開拓者の命を狙ってきた歴史はあるけれども、わらわは自然を大切にしながら開拓を進めるそなたらの姿勢に心を打たれて協力を申し込むんじゃぞ。


 仲良くやっていこうではないか?


 だからな?

 いていて、いたたたたたたたたたたたたたたッ!?


 チマチマ石を投げてくるではない!

 地味に痛いじゃろうがやめんか! ぶっ殺すぞ!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[気になる点] ハイエルフは世界樹の側に居なきゃ死ぬんじゃなかったの? なのに開拓地にハイエルフが来たら設定が飛んでるよ┐(´(エ)`)┌ てか、そもそも聖者と嫁の顔が入った皿を前に配っていたが何故開…
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