1098 反省開拓者たち
オレはS級冒険者コーリー。
今回の事件は、まだまだオレがS級冒険者として若輩であることを白日に晒す結果となった。
腹黒い権力者によって踊らされて、目的を同じくする人々といがみ合い、あわや仲間割れで完全崩壊するところだったんだ。
聖者様の介入で何とか事なきを得たものの、そもそも聖者様のお手を煩わせること自体が大失態。
事の顛末を報告したら、ギルド本部のシルバーウルフさんからお叱りの書状が返ってきた。
長くしたためてあって原稿用紙四十四枚分もあった。
オレとしてはS級の称号を返上して、今回の償いにしようとしたが、それは止められた。
『安易に身を引くよりも、今回のクエストをしっかり完遂することで汚名返上せよ』と言われて。
失敗した者にもしっかりとチャンスを与えてくださるシルバーウルフさんに益々尊敬の念が増した。
それに大目玉をくらったのもあくまで現場で仲間たちを統率できなかったことにあり、元凶は官僚たちの暗躍する政治面にあったこと。
その思惑を現場まで浸透させ、未然に防ぐことはできなかったのはギルド側の責任として謝罪までされてしまった。
とにかく今は邪魔が入ることもなくなったので、すべてが順調に運ぶようになった。
もう驚くほど順調に事が運んでいく。
一番大きなことが魔族側との蟠りがなくなったので、協力して開拓作業を進められるようになったことが。
魔族側の開拓団と衝突するようになってからは、作業リソースの半分以上をそちらに持っていかれたので。
和解してからはマイナスは消滅して、さらに協力できることのプラスが加わったから、それはもう倍増どころの話じゃない。
堰き止めていた水が、堤防を開いた途端凄まじい勢いで流れ走るように。
オレたちの開拓作業もどんどん捗っていった。
もちろんただ協力できれば作業効率無限アップ! という話でもなく、もっともこの状況改善に寄与したのは、他ならぬ聖者様であろう。
愚かに争い合うオレたちを調停した聖者様だが、それですぐ帰ったりせず開拓地に残ってオレたちを指揮してくれた。
それが案外いい助けになってくれて、特に人族側と魔族側で利害がぶつかるとき、第三者として公正な判断を下してくれるのは大変に助かった。
聖者様が継続的に治めてくれなかったらオレたちは、また何かのきっかけでいがみ合うようになり、果てにはまた乱闘になっていたかもしれない。
それをしっかり押さえこんだのは、聖者様の指導力の高さという他なかった。
ただそれは聖者様自身の指導力や人柄だけによるところじゃなくて、聖者様が聖者様であることも同じくらい大きかった。
どういうことかって?
ここに来た開拓者たちは、人族側は冒険者……そして魔族側は探検家という、よく似た職業をバックにやってきている。
どちらも、この世界でまだ日の目を見ていない謎を追い求める職業だ。
そんなオレたちにとっては、世界のどこかに隠れ住む聖者もまた追い求めるべき謎の一つ。
人によっては一生を捧げる大テーマであったりもするんだ。
そんな聖者様だから、間近で見ると圧倒されるというか感動するというか。
とにかく平静ではいられないんだよな。
直接目にするだけでも信じられないし、お声がけされたら飛び上がる。
当然反抗するなんて想像にもできずに指示されればハイハイ従ってしまうんだ。
これが名声の力ってことなんだろうか。
S級冒険者であるオレなど遥かに超えるぜ。
オレたちだけでなく魔族側の、探検家を名乗る人たちにとっても聖者様の存在は大きいようだ。
彼らの聖者様を見詰める瞳がキラキラしていることにオレは気づいた。
これまでは探検家なんて、オレたち冒険者のパチモンぐらいにしか思っていなかったけれど、彼らはどんな仕事人なんだろうかと興味がわいてきた。
開拓の仕事終わりなんて一緒に釜の飯を食べて、酒を酌み交わすことも多いんで、その折に話を聞くのも難しくはなかった。
「……探検家! それは世界のロマンを探し当てる者たちのことだ!!」
酒盛り中に話を振ったので、酔いで口調も大味だった。
話をしたのはラッチャ・レオネスという、衝突時に一番先頭にいた男だ。
それだけに一目置いていて、彼の発言なら信頼に値すると思った。
ヒトの値打ちを一目で見抜けるかどうかもS級冒険者の重要な能力だ。
「探検家は、七つの海を縦横無尽に駆け巡り、その向こうにある大いなる謎を解き明かすことが使命! そのために大海を縦断横断どっちでもするぜ!!」
へぇ~、海。
どうやら探検家は海を主要な活動フィールドに定めているらしい。
すると地上はどうなんだろう?
ダンジョンの探索とか管理は?
「ダンジョンをどうにかするのは魔王軍の仕事だろう」
なるほど。
魔国では、ダンジョンの管理を国が率先して行ったために、彼ら夢追い人の興味は海の外へと向かっていったのか。
人間国では、国の管理が杜撰だったからこそ民間相互扶助としての冒険者が発足していったんだもんな。
国の環境で、ロマンチストの在り方も変わっていくなんて面白い話だ。
冒険者には、この世でまだ誰も見たことのない秘宝を探し出さんとするロマンと、国が頼りにならないから自分たちのことは自分で守ろうという相互扶助の精神。
この二本柱が並び立って冒険者業界を発展させてきた。
探検家はロマン一本で大洋に繰り出し、まだ見ぬものを見つけてくることに情熱を燃やしていたんだな。
たとえばそう、聖者様のような。
「その中でもこのオレ、ラッチャ・レオネスは聖者探索の第一人者として業界でも有名人だったのよ! 何しろ一度この目で聖者をしっかりと見た男だからな! これは探検家業界広しといえどもオレだけだぜ!」
えッ?
それはこないだの?
「違う! 聖者がこの開拓地に降臨する前にオレはあったことがあるんだ! それは……そう、あの日もオレは大海で相棒サンイメルダ号に抱かれながら……」
なんか語り出した。
「オレたちは凪に捕まって絶体絶命だった。いいか、航海でもっとも恐ろしいのは大嵐よりも津波よりも、凪だ。風がなく波も立たなきゃ船は進めない、立ち往生しかないわけだ」
そんな中で時間だけを浪費し、積み込んでいた食料や水も無駄に消えていく。
風が吹き出すのを祈る中、何も変わらない状況でジリジリ過ごすのは精神をもやられる苦境であるらしい。
「あの日も凪で、しかも今までにないほど長く続いてこっちの精魂が尽きそうだった。実際に食料も底を尽きかけ、このままじゃ干物になるか正気を失って海に飛び込むかの二択ってところだったぜ」
どっちもデッドエンドですなあ。
しかしそれくらい凪の海は地獄だってことなんだろう。
ダンジョンで遭難し、武器も防具も失って帰り道もわからない状態とどっちが絶望的だろうか。
「オレも弱気になって、いっそ早めに死ねばオレの肉を食って乗組員たちは生き延びられるかと思ったぐらいだぜ。そこへ救いの神が現れた。……いや、救いの聖者が」
そこで聖者様登場。
聖者様は陸から遠い大海にまで現れたんだそうな。
もちろん海上なのだから、いかに聖者様といえども身一つで現れることは無理だろう。
聖者様は船に乗っていたという。
しかしその船が……。
「すべて鋼鉄でできた船だった! 船体も、船内も鏡のように輝く白き鋼でできた船だ! それでいて巨大! しかもさらに異様なことにその船には帆がなかった! 帆がなかったら風を受けることができないどうやって進めというんだ? それなのに聖者の鋼船は、風など何の関係もないと言わんばかりに大海を進んでいた。事実オレの船は凪で一寸も動けなかったんだから風が関係ないのなおさらだ!!」
一気にまくしたてるラッチャ・レオネスさんは、当時の興奮を思い起こしているかのように見えた。
実際相当な衝撃だったんだろう。
海の常識に精通している人だからこそ、すべてが常識外れであることに気が付き、そして衝撃を受けたんだろう。
「結局オレたちは聖者の船にけん引してもらうことで無風海域から脱出し、無事生還することができた。あそこで聖者に出会わなかったらオレは今日生きてここにないだろう」
この口ぶりの慣れた感じ……。
きっと出会う人出会う人に何度も繰り返して話してるんだろうな。
「あの日から聖者との再会はオレの生きる目標になった! 再び聖者にあって何としてもあの鋼船の謎を説いてもらう! それを目標にオレは海上中で聖者を探し求めたのよ!!」
なるほど、この人もロマンを追い求めてきたんだな。
そう思うとオレも冒険者、ロマンを求める者として親近感が湧きいずる。
そういうことなら聖者様に直接聞いてみようじゃないですか!
今まさに目の前にいるんですから!
「うむ……いやオレ自身もそう何度思っているのだがな。いざ聞ける状況となると物怖じするというか……! こんなに簡単に聞けていいのか? というか……」
やっぱり謎の解明は、多くの困難を乗り越えた末に……と思って違和感が抑えられないんだな。
わかります、その気持ち!!
でも目の前に謎本人がいるんなら突撃しない手はない!
間に困難が挟まっていようといまいとお宝の価値は変わらない!
さあ行きましょう!
「いやちょっと待って!? 心の準備が! うわあああああああああッッ!?」
そうしてラッチャ・レオネスさんの手を引いて聖者様に突撃していくオレだった。
冒険者はどんな時でも前へ向かってがむしゃらに進んでいくもの!
次回へ続く!!







