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109 乳なら何でもいい

 バターは乳製品の一種だ。


 つまり元はミルク。

 牛の乳。


 牛乳は様々な食品に原料として使われていて、様々に形と名前を変えて料理に登場する。

 バター、チーズ、クリーム、ヨーグルト。

 俺としても是非導入したい食材なのだが、今日に至るまで実現しなかった。

 何故か?

 別に故意に後回しにしていたわけじゃない。


 他の食材同様ゲットの機会を模索していたものの、ついに見つからないまま今日に至ってしまった。


 たとえばミルクは牛から出るもの。

 だから牛乳という。


 卵を産み出すニワトリ型モンスター、ヨッシャモに倣って、ミルクを出す牛型モンスターはいないかと捜索したこともあったが、ついに見つからなかった。


 ならばと魔国か人魚国から既製品を輸入できないかと考えてみたが、結論はよくなかった。


 まずミルクそのものを輸入したいとする。

 ただでさえ足の早いミルクは、食料保存の技術がまだまだ未熟なこの世界ではすぐに腐ってしまう。

 そうでなくとも魔国からここまで運搬するには、転移魔法以外ないのだが、我が開拓地に設置された転移ポイントを利用できるのは、座標コードを知る魔王さん以外にいない。


 魔王さんに牛乳を直接運搬させるの? 無礼じゃないの? という話になって、自然立ち消えになった。


 それ相応の業者に座標コードを教えて委託するのもなし。

 魔国では、我が農場への移動手段というか存在自体が極秘扱いになっているそうで、一般業者に知らせるなどもっての外、ということだそうだ。

 仮に知らせたとしても、一般の酪農業者が高位の転移魔法を使えるわけがないし。


 ちなみに人魚国サイドへのお願いは、発案の段階で却下された。


 代わりに『海のミルク』と呼ばれている牡蠣をアロワナ王子からたくさんもらった。

 生で食ったが幸い当たらなかった。

 美味しかった。


 しかし事態の進展には何ら寄与しなかった。


 そんなこんなで今日に至るまで、我が農場にミルクはもたらされていない。


「しかし、いよいよ本気でとりかかる時が来たか……!」


 精霊たちからバターをおねだりされたのが、いいきっかけとなった。

 俺たちはこれより、何が何でも牛乳をゲットする!


「いや、牛乳の恒常的な供給を実現するためにも、乳牛をゲットする!!」

「「「おおお~~~ッ!!」」」


 俺の決意表明に、周囲から拍手が鳴り響いた。


「バター! バター!」

「ばたたたたたたたたたた!!」


 バターを心から求める精霊たちも、喜びで興奮していた。


 さて。

 ではどうやって乳牛をゲットしようか?

 決意はあってもノープランな俺である。


 いや、実のところ案がないわけではないのだ。

 一つだけ考えていることがある。


「魔王さんに頼んで、乳牛を送ってもらおうというのは、どうだろう……?」


 牛乳を運び込めないんなら、その元になる乳牛ごともって来ればいいじゃない。

 魔国でも畜産、放牧はやっているそうだし、相応の代価を支払えば魔族の頂点魔王さん、何かしら取り計らってくれるだろう。


「ちょっと待って旦那様?」


 そこへプラティが発言し……。


「別に乳なら何でもいいのよね?」

「は?」


 素っ頓狂なことを言い出した。

 なんだその甚だしく誤解を招きそうな発言?


「ミルクは牛から出るもの、というのは固定観念だわ……!」


 元来、お乳は哺乳類ならばどんな生物からでも出るもの。

 その中で一回分の量とか品質の問題で、牛の乳がもっとも効率いいということで産業として選択されただけのこと。


 俺が元いた世界にも、牛乳の他にヤギの乳や馬乳なんてのもあったそうだし。


「その固定観念を捨てて、より選択肢を広げれば、いいものがみつかるかも? ということだな!?」


 その精神で、もう一度ダンジョンのモンスターを洗い直せば、牛じゃないけど美味しいミルクを出すモンスターが見つかるかも!?


「そうなのよ旦那様! ただ、アタシは既に目星をつけているわ!」

「なにいッ!?」


 何て手際がいいんだプラティ!

 では早速、美味しいミルクを出すかもしれない未知の生物を探し当てに行こう!!


 魔王さんから乳牛を売ってもらう案は、いつの間にか霞んで消えていた。


              *    *    *


「というわけでヴィールさん」

「あ?」

「ミルク出してください!!」


 プラティが頭を下げて頼む相手は、我らが仲間、ドラゴンのヴィールのところだった。

 もっとも今彼女は人間形態で食っちゃ寝中だった。


「……ご主人様、このアホ人魚はついに頭がイカれちゃったのか?」

「そうじゃない……」


 ……と思いたいけれど。

 この仕様はどうにも……。


「何言ってるのよ! 私は知ってるのよ! と言うか、ついに突き止めたのよ!」

「何を?」

「ドラゴンから搾り出されるミルク。それこそ竜乳といって世界最高のミルクだってことを!!」

「えええええええええええッッ!?」


 全然知らんかったそんなこと?

 っていうかドラゴンってミルク出すの!?


 ドラゴンって……、何と言うか爬虫類だよね、見た目的にどう見ても。

 哺乳類しかミルク出さないから哺乳類じゃないの?


「……竜乳は、世界最高の珍味に数えられ、世界中の美食マニア垂涎。それを旦那様が調理してくれたら、口にしただけで死ぬような超美味しい料理に!!」


 買い被り。

 ただ、たしかにドラゴンの体から出たものなら何でも超高級品ってイメージになるよなあ。


 ならば、仮にドラゴンから本当にミルクが搾れるとしたら。

 普通の牛乳とは比べ物にならないほど美味な上に、一口舐めれば不老不死になったり、いかなる武器も通さない鋼の体になったり、全パラメータが二倍三倍になったり……。


「ヴィール」

「おう、ご主人様からもこのアホに言ってやってくれ……」

「俺からも頼む、ミルク出してくれ」

「あれえええええええッッ!?」


 俄然興味が湧いてきたの。

 ドラゴンから採れる幻の竜乳。俺も一口舐めてみたい!

 プラティと一緒に拝み倒す!


「お願いヴィール! アナタのミルク出して!!」

「人間形態になれるんだからミルクだって余裕で出せるだろう!?」

「そうよ! その人間形態のアナタの、まるで平原のようになだらかで、あるのかどうかもわからない鉄壁の……!」


 ぺったんこな。

 ヴィールの……


「「ごめんなさい」」

「謝るなッ!!」


 やっぱり無理。

 ヴィールからミルクを搾り取るのは。


 恐らく竜乳を搾れるドラゴンもいるんだろうけれど、その中にヴィールは含まれない。


 当てが外れて、話は振り出しに戻った。

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