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10 収穫

「バ・ニシンGは魚型モンスターだから、肉体に保有しているマナも多いの。それにアタシが魔法を加えながら調整していくんだから、通常の肥料より何百倍も効果が出るのは当然よ!」


 プラティって実は凄いヤツなの? と思った最初の瞬間だった。


 とにかく呆けてばかりもいられない。実ったからには収穫しないといけないのだ。

 最良の時期を逃せばそれだけ味が落ちてしまう。


 いまだ寝ぼけ眼のプラティを急き立てて、せっせと収穫していく。


 けっこうな範囲に広がった畑が一斉に収穫期を迎えたんだから、それこそ目が回るような忙しさだ。

 元々海で生活していたプラティは農業などまったくの未経験らしく、収穫作業はほぼ役に立たなかった。


 結局のところ『至高の担い手』を発揮した俺の独壇場で、日が南中へ登るころには収穫した野菜でいっぱいになった箱がいくつも並んでいた。

 箱は、小屋を建てた時の端材で試みに組み立ててみたものだ。

 早めに作っておいて本当によかった。


 全部を収穫し終えたわけではないが、ここで一休み。

 さすがにこれは一日で全部終わる量ではない。


「へや~、やっと休める。疲れた~」


 プラティは慣れない作業で余計に消耗したようだ。


「陸人って、こんな面倒くさいことして食べ物を得てるのね。ホント理解しがたいわ」


 そう言ってプラティは収穫物の中から気まぐれに一つ、野菜を拾い上げた。

 それはトマトだった。

 真っ赤に熟して美味そうだ。


「ねえ、これって何て野菜?」

「トマト知らないの?」


 人魚であるプラティは地上の知識が乏しいのだろうか?

 いやそれ以前に異世界だ。

 前の世界に当たり前のようにあった野菜も、こちらでは存在しないのかもしれない。


 何しろ俺が土を手に取って念じたら勝手に生えてきたものだし……。


「これ味見してみてもいい?」

「お、おう。いいぞ」


 カボチャやジャガイモならともかく、トマトならそのままいっても大丈夫だろう。


 プラティは大きく口を開けてトマトに齧りつく。

 シャクッと音を立てて、口の端から真っ赤な果汁を垂らしながら二、三度咀嚼すると……。


「う……!」


 ?

 ど、どうした?


「う、う、うまあーーーーいッッ!?」


 想像以上の反応が返ってきた。


「何これ!? 美味しい! 美味しい!! 美味しすぎる!? 地上人はこんな美味しいもの食べてるの!? それともアナタの作った野菜が特別なの!?」


 喜んでくれたようで何よりだ。


 トマトの味に感動したプラティは、他の野菜も味見しようとタマネギやら大根にまで手を伸ばそうとするから慌てて止める。

「これは火を通さないと食べられない」と説明するのに大変だった。


 ここで思い出したが、俺の元いた世界で作られる農作物は研究が進み、品種改良を何度も重ねられ『より美味く』を実現した製品だという。


 一概に比較してみないとハッキリ言えないが、見た感じ中世ヨーロッパ程度の文明到達度となるこの世界とでは、作物の出来にもかなり差があるのではなかろうか?


 俺の『至高の担い手』によって異世界へと渡来したこの野菜たち。

 もしかしたら革命を起こすレベルの存在であるのかもしれない。


 とにかくプラティがもっと寄越せと煩いので、本格的に食事にすることにした。

 つまり収穫物を早速料理してみようということだ。

 ただ調味料も調理器具もまだまだ不足している現在、そう大した料理はできそうにない。


 精々切り分けた野菜たちを鍋に放り込んで、ごった煮するのが関の山だった。

 味付けも塩ぐらいしかない。


 それでもプラティは「美味い美味い!」と掻き込んでくれた。

 作った側としては嬉しい限りだ。


 やはり生活の質を上げるためにも足りないものがたくさんある。

 調理器具は今のところ、王都から買い込んできた鍋と包丁ぐらいのもの。

 それに加えてフライパンや、贅沢をいえばオーブンなんかも欲しいところだ。


 調味料も多種多様に欲しい。

 砂糖や胡椒は植物から作れるそうなので、『至高の担い手』を通して得ることが可能だろう。

 スパイスとかも欲しいな。

 胡椒もスパイスの一種だし、あとハーブ。植物系は『至高の担い手』で無尽蔵に製造オッケーなので、また土を直接手に取って念じてみよう。


 今の俺にはプラティもいる。彼女の調合の腕はたしかで、魔法薬だけでなく調味料もお手の物だろう。材料さえ調達できればさぞかし美味しい調味料を調合してくれるに違いない。

『至高の担い手』を利用すれば自分でも作れるだろう、とどこかからツッコミが聞こえてきそうだが、それは寂しい考え方だろう。


 異世界生活は大変だが楽しい。

 次々と欲しいものができて、やるべきことが明らかになる。


 食材も野菜だけではレパートリーの幅が狭いので、やっぱり肉も欲しいな。

 卵や乳製品も。

 さすがにそれらは『至高の担い手』を通して畑からニョキニョキ生やすわけにもいかないので、何か別の手段を取る必要があった。


 まあいいさ。


 期限や締め切りがあるわけでもない。

 じっくりゆっくり一つずつ取り込んで達成していけばいい。


 とりあえずは残りの収穫を、プラティと協力しながら片付けていくとしよう。


              *    *    *


 それから早速ハーブ、スパイス類の育成に取り掛かった。

 最初にした時と同じように開墾して畑を広げ、土を直接手に取って念を込める。


「スパイス育て……! ハーブ育て……! 胡椒、ナツメグ、ターメリック、トウガラシ、セージ、バジル……!」


 意外と、ハーブの種類をたくさん言える俺。


 プラティの魔法魚肥がまだ残っているので撒くと成長超早い。

 あっ、という間に収穫できた。

 収穫物はまとめて彼女に一任したが、目を輝かせながら調合していた。


 異世界の薬草類が相当珍しいらしい。


 他にもサトウキビを育ててみたので、色々試しながら精製して砂糖を作ってみるとしよう。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
[一言] 質問です 玉ねぎと大根は火を通さなくても食べれる物ではないのですか?
[一言] 1~10話まで一気に読ませて頂きました 高い評価を得られている作品は やはり文章力が高くて とても読みやすいですね! 私もなろう投稿はじめたばかりなので とても参考になりました! 今後…
2020/10/10 10:26 退会済み
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