1094 開拓地騒乱
ふっふっふっふっふ……!
我こそは人間国の陰の支配者ラワジプータなり!
これまで築き上げてきた人脈や権力財力によって黒幕たらんとしてきたが、これから攻め入る聖者の農場の神器秘宝が手に入ればさらなる影響力が発揮できるのは必定!
人間国どころか世界の黒幕になることだって夢ではない!!
ぐわっはっはっはっは!
笑いが止まらぬわ!
『リテセウスの小僧を躓かせてやろう』と軽い気持ちで仕掛けた陰謀。
まさかこんな形で話が大きくなろうとは!
既に一旦出した命令状に、聖者とやらは案の定『拒絶』を示してきおった。
計算通りじゃ!
これで気兼ねなく兵を出し、武力で蹂躙することができる。
さすればあとは略奪あるのみ!
聖者の農場から金目のものも、役立ちそうなものもすべて奪い尽くしてくれよう!
リテセウスへの言いわけなど何とでもなる!
ヤツが新人間国の命令に逆らった反逆者であることは、書面に明らかなんじゃからな!!
さあ、もう既に開拓地には我が兵が迫っておるぞ!
協力者である魔族ダンパールの手勢も加えた、総兵力五千の大軍団が!!
……ん?
もうちょい兵を増やせなかったのかって?
煩い!
ワシは元々文官で直接軍事には携われないし、それにあんまり兵数を大きくして動きが派手になったらリテセウスに気づかれるかもではないか!
こういうのは一気呵成に押し切るのが大切なんじゃよ!!
少数精鋭じゃ、少数精鋭!
それに、こんな片田舎ともいえん大辺境に隠れ住んでいる隠者ごときに、大した兵数もいらんじゃろう!
五千でも多いくらい。百人でもいればすぐさま方がついて農場のすべてはワシのものじゃ!
「ラワジプータ殿、くれぐれもお忘れなきように願いますぞ。農場から献上させた富や魔法のアイテムは、私とアナタで半々の山分けですからな?」
隣で魔族ダンパールがしつこく言って来おるわ。
わかっておる、わかっておる。
協力者である貴殿とはしっかり成果を分かち合わねばな。
……しかし、その協力者が途中で消息不明となってしまったらどうしようもないがの。
戦場で不測の事態はつき物じゃ。
わかっておるな、我が家子飼いの暗殺者よ。
戦況が進んで騒然としてきたら背中から……。
これで農場の富はすべてワシのもの。
さあ、楽しい蹂躙を始めようではないか!
* * *
到着した。
ここが農場か?
ただ手つかずの森が広がっているようにしか見えぬが?
「ここはまだ両国の開拓エリアです。聖者の農場は、この遥か奥にあると伝わっています」
そうかそうか。
ではこんな小汚い土地など無視して先に進むとしよう。
そうだ、開拓に従事している連中も、こんな辺鄙な土地で暮らしておるんじゃからそれなりに屈強なのじゃろう。
そいつらも農場攻めの軍に加えて兵力増強を図るとしよう。
開拓なんぞよりも、豊かな土地を襲って奪う方がヤツらも喜ぶことじゃろうて。
さあとるに足らぬ凡俗どもよ!
この陰の支配者ラワジプータが命じてやる!
共に聖者の農場へと攻め込み、逆らう者を殺し、宝を奪え!
「黙れこの侵略者!」
「聖者様に仇なすヤツらは、オレたちの敵だ! 来るなら来てみろ返り討ちにしてやる!」
「すべては聖者様の安全のために!!」
なんだなんだなんだ?
開拓者たちが聖者の味方をしているだと、なんでだ?
お前たちは国から命じられて開拓地へやってきたのだぞ。
ワシはその国を代表している者なのだから、その指示に従うのが当然ではないか。
「ウソつくな! 私利私欲で勝手に国の権力を動かしている悪党が!」
「仮に国からの命令であっても、平和に暮らす聖者様の土地を脅かすなんて理不尽な命令に従えるか!」
なんとッ!?
バレているのか? 本当はワシの独断で兵を動かしているということに?
いやだとしてもそれを証明する物証など何もない。
強気で通せばどうにでもなる。正義は我にありじゃ。
「黙れ、学のない平民どもが! 愚かな貴様らはワシら上級官吏に使われておればいいのじゃ! ワシの指示に従えないというのであれば、反逆者として討伐されることになるぞ!」
「おお、上等だやってみな!」「お前のせいで開拓者が全員離反したって、リテセウス大統領に報告するんだな!!」
んげぼッ!?
コイツら気づいているのか? ワシがリテセウスの小僧に何の報告もせず、独断でこの地に来ているということに?
そうだとしても浅はかめ。
報告などいかようにも歪めることができるんじゃ。
お前らの反乱も、十割お前らが悪いことにして伝えてやるわ。それでワシ自身には何のお咎めもなし。
いや、それどころかコイツらを突破して農場を制圧さえすれば、ワシの力は人間国も軽く凌駕する。
報告の必要すらないわ。
そうとなったら、ええい、しゃらくさい!!
生意気な反逆者など蹴散らして、聖者の農場へと攻め込め!
「善良な開拓者の皆さんに危害は加えさせない」
なんじゃ!?
反逆者どもの人垣からさらに何者かが現れたぞ!?
一瞬止まってしまったが、よくよく見ればその必要もないほどに平凡でこれといった特徴もない。
覇気も威厳もなく、ちょっと目を離したらそのまま見失ってしまいそうなほど存在が希薄。
なんじゃこんなヤツが前面に進み出て?
場違いではないのか?
「俺が、アンタたちの探している聖者だ」
なにぃ!? コイツが!?
随分と創造と違うが、まあ聖者本人が現れたというなら話は早い。
貴様は我が国から送られた命令状に従わず、無視した!
よって貴様を反逆者とみなし討伐する!
殺されたくなかったら今からでも遅くない、我らに恭順の意を示し、貴様の所蔵する宝を統べて差し出せ!
さすれば命だけは助けてやらんこともないぞ!
ファッファッファッファッファ!!
「『我が国から』? それは本当に新人間国が正式に出した命令状なのか?」
ファッ!?
何をそのような……!?
「仮にそうだとしても、俺は正式に人間国にも魔国にも所属していない。だからどちらからの命令にも従う義務を持たない」
い、今まではそうかもしれんが、お前の住む土地は人魔両国の開拓エリアに入ったのだ!
さすれば速やかに我らの統治下に入らねばならない。
当然の話であろう!!
「ウチの農場があるのは、開拓地の遥か先だ。予定エリアには全然入ってない」
えッ!?
「どんなに順調に開拓が進んだとしても、エリアが重なるのは百年後ぐらいになるだろう。それなのに予定で農場を取り込もうとするのは暴論だな」
そ、そんなこと聞いてない……!?
いや、百年後だろうが千年後だろうが、開拓地に入る予定なら生者の農場は我が領地じゃ!!
グダグダ屁理屈言っておらんと、さっさと従え!!
「やれやれ、まったく侵略者の口ぶりだな。そんな連中を理屈で諭すのは不可能、ならば実力でもって自己防衛するしかない」
お?
何だ抵抗するのか?
こちらの五千の兵に勝てると思っているのかのう、だったらやってみるがいい!
人間国の陰の支配者が、どれだけ恐ろしい相手か思いすることになるであろう!!
「抵抗するには理由がある。……それを証明するために今までの問答が必要だった。そこでやめておけばアンタらも痛い思いをせずに済んだのにな。だがもう遅い。火蓋を切ったのはアンタらだ」
何をごちゃごちゃと?
もう喋る必要などない。黙ってワシらに蹂躙されるがよい。
「アンタたちも勉強していないな。攻め込まれたら自衛する力がこっちにはないと思ったのか? あまりにも自分たちに都合よく考えていないか? だからこういう目に合う」
ん? なんだ?
空から大きな影が……?
その影がさらに大きくなって……?
地表に近づいて……?
わかった、これは空から何かが舞い降りてきているのだ。
浮遊しながら。
元の物体が巨大だからこそ、地面に映る影も本体が近づくほどに大きくなってくる。
そしてその巨大物体の正体とは?
そいつが完全に地に降りたってわかった。
ドラゴンだ。
ドラゴン!?
なんでドラゴンが!?
こんなのワシの予定にはないぞ!?
「聖者の存在が公になったのは、聖者の下僕を名乗るドラゴンが戦場に現れてから。そんなことも知らないのか? 聖者に戦いを挑んだら、聖者に従うドラゴンがどうするか、それぐらい言わなくてもわかるよな?」
知らない!
そんなこと考えたくもない!
くそうズルいぞ! やり直し! やり直しを要求じゃぁああああああッ!!






