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1085 遅ればせながら春の訪れ

 今日も平和な俺んちです。


 いつの間にか冬も明けて春となっていたので元気に農作業。


 長男ジュニアに加わり次男ノリトも元気に庭を駆け回るようになって大賑わいです。

 三男ショウタロウもプラティのおっぱいを飲みながらすくすくと大きくなっている。


 今年も農場は平和に平常運転です。


 冬にしっかり畑を休ませた分いい野菜ができそうだ……!

 今年は何を植えようかな?

 モロヘイヤなんかどうだろう?

 などと考えていたところ……。


「我が君」


 オークやゴブリンたちが駆け寄ってくるではないか。


 どうした、キミたちも今年製作の野菜について意見の具申でもあるのかね。


「開拓地へ偵察に行っていた者たちが戻ってまいりました」


 偵察?

 開拓地?


 彼らから告げられるまですっかり忘れていたので、思い出すのにけっこう苦労した。


 そうだそうだ。

 冬のうちにそんな話が舞い込んできたことも会ったんだ。


 魔王さんとアロワナさんとリテセウスくん。


 人魔人魚の三族代表者が雁首揃えて訪問してきたのだから強烈に印象に残っている。

 話したことは今の今まで忘れていたが。


 彼らの話によると人口増加に対応して開拓作業を進めており、その一番の候補地が農場に近いということ。

 農場の存在は一般の人には秘密にしてあるため、存在がバレたりとかトラブルの原因になりかねないためあらかじめ確認を取りにいらっしゃったのだった。


 そんなにも気を使ってくれるなんて魔王さんたちも律義な人たちだなあと思ったことを覚えている。


「その話は我らも聞き及んでいたため、農場に危害があってはならぬと定期的に偵察に出ていたのです」


 キミたちそんなことをしておったのか。


 周辺と言っても、開拓が予定されている土地って物理的な距離は遥か向こうでしょう。

 その絶望的な間断は、実際にその距離を道端の木の実や草をはみながら踏破した俺自身が一番わかっている。


「一般的な人間なら数ヶ月もかかる距離ですが、ゴブリンたちの脚力を持ってすれば一日かからないので」


 ……そうだった。

 農場に住むゴブリンやオークたちは突然変異した進化種で、普通のゴブリンオークとは比べ物にならない能力の持ち主だった!


 でもまあ結局人間たちにとってはやっぱり徒歩数ヶ月の距離だから、やっぱり関係ないんじゃない? とも思った。


 開拓作業が進むとしても、農場のあるエリアまでやってくるのは何十年と先になるだろうし、それ以前に満足して開拓をやめてしまう可能性だってある。

 俺はそう思って、魔王さんたちが訪問してきた時も笑って『大丈夫ですよ』と言ったんだ。


 オークやゴブリンたち、農場のことを気遣ってくれるのは嬉しいが、気にしすぎも体によくないぞ。

 ストレスは胃に来るからな。

 社畜時代に俺が培った実体験だ。

 異世界にやってきたからはそういうこともなくなったけれど。


「我々の務めは、農場と仲間と我が君とそのご家族を御守りすること。そのためにはどんな手間暇も厭わぬ所存」


 皆……!!

 そんなに俺たちのことを想ってゆえであれば無下にはできない!


 報告を聞こう!

 偵察の結果一体どんなことがわかったのかな?


「戦争が起きています」


 なんて!?


 戦争?

 どうして?

 この世界ではとっくの昔に戦争が終わって、それ以降は皆が協力して『戦争はもうしませんそう』という方向性で一致しているじゃないか!


 それなのに!?


 偵察から帰ってきたゴブリンくんは語る。


「いや、いつもならそんなこともなかったんですよ。開拓にやってきた人たちは真面目で働き者で、毎日木を伐ったり土を耕したりして人の住める環境を着々と整えていました」


 うむ、極めて真っ当な開拓生活だったようだな。

 俺たちも農場初期の頃は似たようなことに一生懸命取り組んだものだ。当時を思い出してジンとしてくるぜ。


「だから我々としても警戒するほどのことはないんじゃないかと最近は思っていたんです。それが急に様子が変わりだしまして……」


 ゴブリンの説明をさらに聞いてみる。


 今日も様子を窺いに行くと、いきなりムードは険悪真っただ中だったそうだ。

 飛び交う怒号、強い言葉。

 ギスギスとした雰囲気が肌にまでまとわりついて来たらしい。遠くから観察していたゴブリンの肌に。


 不穏な空気は収まることなく逆にエスカレートし、ついには手を出し乱闘にまで発展しかけたらしい。

 しかし双方の中にもまだ理性的な人はいたらしく、なんとかお互いの陣営をなだめて、その場はいったん解散になった。


 しかし最後の捨て台詞に『次会った時は戦争だからな!』『皆殺しにしてやらあ!』と残して。


「めっちゃ険悪じゃねえの」


 想像してたより二、三倍は険悪だった。

 死人怪我人は出ていないというのでそれだけは幸いだったが、このままの雰囲気だといつ出たっておかしくない。


 一体何が原因でそんなに揉め散らかしているんだ?

 前日までは平和だったんだろう?


 より詳しくゴブリンたちに聞いてみる。


「争っているのは人族と魔族……といった様相でした」


 人族と魔族?

 たしかに魔王さんたちは、人族魔族共同での開拓作業をすると訪問した時に言っていた。

 だから両族揃っているのはわかるが、なんで争い合っているんだ?


 協力しているなら仲よく一緒に開拓作業に打ち込んでいるんじゃなかったのか?


「それが最初の方から人族も魔族も協力し合ってはいませんでした」


 ゴブリンから説明を受けるに、人族は人族、魔族は魔族でそれぞれ独自に開拓を進めていたらしい。


 そもそも農場が一番奥にあるこの辺りの未開地は、人間国魔国のちょうど中間、そして脇辺りになるので、人族も魔族も来ようと思えばまあ来れる。


 肥沃な土地柄なのにこれまで人の手が入らなかったのは、国境と近いがために戦争に巻き込まれる可能性があるから危なかったんだろうなあ、とふんわり思う。


 余談はさておき、そういう位置条件なので人族も魔族もそれぞれの母国から独自のルートで入植し、開拓を始めたらしい。

 それぞれ勝手に。


 そこまで聞いて俺はなんでだろ? 首をかしげる。

 人族と魔族で協力しながら開拓を進めると魔王さんたちは言っていたのに、なんでそれぞれバラバラになっているんだ?

 現場で何らかの行き違いでもあったのか。


「そのような状態で開拓が続いていき、先日ついに互いの開拓エリアがぶつかり合ったのです。それぞれが自分たちの主権を唱え、折り合うことがなくついには衝突に……!」


 なるほどそういうことか。

 騒動までの経緯は説明のお陰で理解できたが、それでハイ終了とはいかない。


 一大事じゃないか。

 人族と魔族が開拓するための土地を巡っていがみ合い一触即発。

 争いとは大抵土地の奪い合いから送るものだというのを今まさに思い出した。


 どうしよう、一刻も早く止めなくては!

 このままでは人の血が流れる最悪の事態になりかねないし、何より反目しているのが人族と魔族というのも最悪だ。


 これじゃあまるで、数年前まで行われていた人魔戦争の再現じゃないか。


 せっかく戦争終結し、二つの種族も仲よくなって再スタートを切ったのに。

 これをきっかけにまた戦争勃発なんてことになったら?

 戦争が終わってからまだ半世紀も経過していない人族と魔族。お互いの根底に憎しみの心が残っていないとは言い切れない。


 せっかく平和になって、多くの人々が笑ってご飯を腹いっぱい食べて、今夜の寝床の心配をしなくていい生活を送れるというのに……。


 ……俺は決めた。


「皆、準備をしてくれ」

「ですがそれは……!?」


 仕方がない。

 魔王さんかリテセウスくんに相談するにしても時間がかかる。


 その間にも危うく保たれた均衡は破られるかもしれないんだ。


 俺たちが動くしかない。

 現場までハイスピードで迎える俺たちしか。


 平和のために、いざ出陣!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
[一言] またヴィールをブッこもう。それで方は付く。
[気になる点] ん~…案の定きちんとした取り決めはなされてませんでしたか。 最低でも『この辺りは人国が、この辺りは魔国が担当します』程度の簡単なライン決めしとけば、こんな無駄な争いも起きなかったものを…
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