1084 冒険者、大地を行く
こうしてオレことコーリーは、開拓地へと赴いた。
そこに至るまでにも色々あって、話が決まってから幾人かが入れ代わり立ち代わり、オレにクエストを辞退するように勧めてきた。
彼ら曰く、開拓なんて従事しても何の実績にもならないし経験にもならない。
せっかくS級にまでのし上がったんだから、有名なダンジョンを攻略したり、お宝アイテムを探し出したりした方ずっと華々しい功績になる。
能力アップにもなるぞ、と。
彼らは親切で言っていることは充分にわかっていたから丁重にお断りした。
オレは二代目シルバーウルフだ。
その名前を引き継いだからには、自分自身の功績より全冒険者のためになるための冒険をしていきたい。
今回引き受けた開拓クエストは、そんなオレの方針にピッタリ適ったクエストだ。
全身全霊で取り組んでいくぜ。
もちろん開拓クエストに挑むのはオレ一人じゃない。
他にも多くの人たちが同行し、その中の少なくない割合の人たちが話にあったE級C級辺りの傭兵からの転向冒険者たちだった。
シルバーウルフさんの推測通りに彼らはクエストの打診を受けた。
これを断ったら冒険者をクビになるとでも思ったのだろうか? 冒険者にクビという制度はないんだけどな。
ただ、シルバーウルフさんの推測とは違うところもあって、彼らはきっとプライドを傷つけられて不満がっている……と思われていたがそんなことはなかった。
不満そうな表情など少しも見せず、むしろ意気揚々と開拓地へ入った。
どうしてそんなに明るいのかと疑問に思ったが。
「はあ、別に戦地替えなんて傭兵時代じゃよくある話だったけぇのう!」
「お偉いさんの気紛れなんてどこでもいっしょだっぺぇよ!」
「それでも魔法弾の雨降る要塞に突撃しろとか言われるよりずっとマシやけん! ここなら天国みたいなもんたい!」
「はっはっは、そんなこと言いよるモンが油断して真っ先に死ぬっちゃ! どんなに楽か場所でも危険のないとこなんてないっちゃね!」
と陽気そのものだった。
彼らは転向した冒険者の世界には馴染めなかったものの、傭兵時代のバイタリティでどんな過酷な環境でも生きていけるようだった。
さすがのシルバーウルフさんでもまったく畑違いな元傭兵たちのマインドを読み切ることはできなかったらしい。
彼らは不満で反抗して来るなんてことはもちろんなく、むしろ一致団結して開拓作業に取り組んでいった。
これも元傭兵としての杵柄だろうか、力を合わせ心を一つにしての連帯作業はまるで一つの生命であるかのように捗って淀みがない。
個人主義が基本の冒険者からしてみれば余計に衝撃的だった。
開拓クエストに参加した元傭兵は年配の人が多く、長年この傭兵の流儀に必死となって従っていたからこそ、冒険者になってからの変化に対応できなくなったんじゃないだろうか。
開拓なんて作業はとても一人でできるものじゃない。
皆の団結が不可欠だ。
彼らの能力はむしろここでこそ大きな意味を持ち、開拓作業は驚異的なスピードで進んでいた。
一応指揮担当となっているオレ自身も彼らから学ぶところが多く、現場での連携はもちろんのこと、休憩中に聞く彼らの傭兵時代エピソードも面白くて参考になった。
魔族との戦いで局地的に勝ったり負けたりしたこと。
無能司令官のトンチンカンな指示で危うく死にかけたこと。
四天王と遭遇して一瞬のうちに吹っ飛ばされたこと。
グレイシルバやビル・ブルソンといった伝説的な傭兵の武勇伝……。
それらの話は、オレの知識を広めたくれただけでなく生死を分ける戦場で、どういうヤツが生き残れるかの教訓も示してくれた。
多分、冒険者だろうと傭兵だろうと生き残れる人間の種類は同じはずだ。
死は誰に対しても平等であるのだから。
途中経過も欠かさずギルドへ送ってはいるが、想像以上に好調なのはギルド側にとっても意外らしく、ちょっとした騒ぎになっている模様。
シルバーウルフさんからも喜びを伝える返信が来て、それによると開拓に散々反対していた老害首脳部たちもアテが外れて黙り込んでいるらしい。
何から何まで思惑通りに進んでくれていいことだ。
「でもなあ隊長。こうやって調子のいい時ほどヤバいことの前触れだったりするんだぁ。油断することだけは努々あっちゃなんねぇ」
とオレの傍にいる元傭兵の仲間が忠告してくれた。
彼らはきっと、同じような流れで何度も死ぬような経験をしたのだろう。年長者の意見には素直に従っておくべきだった。
そして実際にトラブルは訪れた。
* * *
「何だって!? 他の開拓村とイザコザに!?」
他の開拓村ってどういうことかよと思ったが、要するにオレたちとは別に開拓を行っている一団がいるらしい。
しかも魔族だ。
そう言えばいつかどこかで聞いた気がする。
『この開拓事業は魔族との共同で行う』と。
どこだっけ?
「ウチらが開墾した土地に割り込んできできただよ!」
「そんで『ここはオレたちの土地だ! 出ていけ!』などと抜かしやがる!!」
「せっかく苦労して慣らした土地なのに、アイツら奪い取ろうっていうのけ? そんなの追い剥ぎみてえなもんだよぉ!!」
と仲間たちも怒り心頭だ。
彼らももう、苦労と長い時間をかけて切り拓いてきたこの土地を愛し始めていた。
オレもまた同様だ。
オレは真っ先に駆け出して行って、相手ともめているという場所へ向かった。
現場には確かに魔族がいた。
そして元から現場にいたのであろうオレの開拓仲間たちと激しい口調で言い争っている。
内容は途切れ途切れしか聞こえないが『ここはオレたちの土地だ!』『いいやオラたちのだ!』といった感じ。
「一体何事だ!!」
オレが到着して、こちら側の人々はあからさまに安堵した感じだった。
長い期間かけてオレも現地指導者としての信頼を得ることができたんだ。
オレは、敵意と怒りを充満させる相手に向き合う。
「オレは、こちら側の代表だ。状況は大まかに聞いている」
こちらが代表者だと知ると、相手側の魔族は一瞬怯んだ気配を出した。
「よし、魔族側はこの探検家ラッチャ・レオネスが代表して話をしよう!」
「お前が代表!?」「なんで!?」
向こうは何だかまとまりがなかった。
それはそれとして……。
「探検家? 何?」
オレは思わずそのフレーズに反応してしまった。
冒険者として、似たようなニュアンスのワードが耳に触れてしまうと、つい。
「何だ気になるか? それはそうだろう七つの海を駆け巡り、誰も見たことのないお宝を発見する、それが探検家!! こんな夢を追う職業は、この世に二つとあるまいよ!!」
ふーん。
冒険者と似たような職業があるんだなあ。
まあでも冒険者にはダンジョンを管理することで地域の安全性を保つという仕事もあるから、冒険者の仕事の一部と似ているのか。
「隊長、オラ聞いたことあるだよ。魔族の方に探検家っつーヤツらはたしかにいるけど、ほとんど誰も知らねえマイナー職だそうだ」
「規模と言い知名度と言い、冒険者には足元にも及ばねえだよ。そもそも冒険者ギルドはあるけれど探検家ギルドなんとものは欠片もねえし」
元傭兵の冒険者さんたちよく知ってるなあ。
やっぱり年長者なだけ色んな事を知ってるんだな。
相手側が『ぐぬぬ……!』とうなっているのをさておいて。
「魔族側も開拓を進めているということは、なんか小耳に挟んだ気はする。しかしこの一帯はオレたち人族側が先に進めている。魔族側は速やかに別の方面を開拓してもらいたい」
「何を言ってんだ! ここはオレたちが開墾する予定だったんだぜ! ここがないと今までやってきた開拓作業の多くが意味なくなっちまうんだ!」
それは大変なことだが、事情はこっちも同じだ。
わかりましたと引き下がることはできない。
そんなことになれば以降、同じような衝突が起こるたびにこっちが譲らなくてはならなくなる。
それは冒険者なら誰もが知っている教訓だった。
「何だと! 戦争で敗けた人族が偉そうに! もう一回敗けさせてやろうか!」
「何言ってるだ! 戦争で勝ったのは魔王軍の兵隊さんだべ! テメエらじゃねだろうが!!」
「こちとら傭兵として実際何度も死にそうになった身の上だべよ! そん時の雪辱果たさしてくれるて言うなら遠慮なくご馳走になるだ!」
「戦場の恨みは戦場で晴らすだよー!!」
いかん、開拓仲間たちもヒートアップしている。
普段飄々とした彼らだが、やはり傭兵として生死を潜り抜けた過去を持ち、その過去に飲み込みきれない何かもあるんだろう。
それが今、せっかく開墾した土地を横取りされるかもしれないという憤懣と共に地の底から湧き上がるんだ。
たとえ冒険者としての階級は上でも、若輩者のオレにはその悲憤を抑え込めるとは思えない。
「最後の警告だ。ここは人族が切り拓いた人族の土地だ。大人しく出ていけ」
「くっそぉおおおお……、こっちこそ探検家の意地に懸けて、冒険者なんぞに敗けられるか! 世界の謎を解き明かせるのはオレたち探検家だ!!」
引き下がらないか、仕方ない。
どうしても避けられない困難がある時は正面から立ち向かう。
それもオレたち冒険者の流儀だぜ!!






