1083 ギルドマスターの采配
引き続き二代目シルバーウルフこと冒険者コーリー。
あのあとシルバーウルフさんから言われたのは以下の通り。
「普通ならば断わられる案件だからな。この開拓事業、先にもいったがまっとうな冒険者のクエストからは完全に外れた内容だ。作業は地味だし、クエスト達成して得られる利益も期待できない。開拓地にはダンジョンと違って眠っているお宝もまずないだろうからな」
まあ、ないとはいえませんが可能性は限りなくゼロでしょうね。
たまたま開拓先に古代遺跡が眠っていた!……とかでもなければ。
「成果を上げている冒険者ほど難色を示すだろう。『オレはそんな日陰仕事にありつくほど落ちぶれてない!』とか何とか言って」
うーん……。
オレなりの冒険者人生で得た経験から推察するに……ありそう。
冒険者って無頼であるからこそ誇りを持って生きている人が多いからな。
重要なクエストを宛がわれることこそ高評価の証。逆に木っ端クエストなど引き受けるくらいなら食い詰める方がマシとか言う人も多くいる。
問題は、重要か重要でないかを判断するのはギルド側ではなく冒険者各人だということ。
ギルドからどんなに『重要なんです! ホントに重要なんですコレ!』と言われても冒険者たちがそうでないと判断すれば頑なに受けてくれない。
想像に易いだろうが冒険者というのは、本当に面倒で扱いにくい人種なんだ。
その典型がゴールデンバット。
そして例外がシルバーウルフさん!!
シルバーウルフさんは現役の、下積み時代から自分以上に仲間を……そしてギルド全体の利益を考えて、皆の嫌がる地味なクエストを引き受けてきた。
そんな姿勢をギルド側から評価されてS級冒険者に取り立てられた。
そんなシルバーウルフさんをオレは尊敬しているので、同じように汚れ仕事だろうが日陰仕事だろうが喜んで引き受けさせていただきます!!
「だから勢いだけで進めるなッ!……参ったな、拒否してごねるヤツは当然だが、何も考えずに引き受けるのも扱いが厄介だとは……!?」
シルバーウルフさんは威厳を正して言う。
「いいか、本来ならこの話はキミに持っていくべきではなかった。キミはS級冒険者に上がりたてで評価はまだ定まっていない。周囲から見れば能力未知数だからな」
そんな新参のオレが、開拓のような地味で、しかも一見難易度も低くて誰でもできそうなクエストを宛がわれれば、必ずそれを穿って見てくるヤツらが出てくる。
『あのコーリーとかいうヤツはS級冒険者になってまで開拓なんていう日陰クエストを引き受けさせられたんだ』
『きっと階級なんか見掛け倒しで、本当は大した実力もないに違いない』
とかなんとか。
「わかってるじゃないか!!……我々も、キミがそんな背負うまでもない苦労を背負うのは不本意でな。当初はこの話ピンクトントンに持っていくつもりだったんだ」
ピンクトントンさん!?
S級冒険者の一人にして、傭兵からの転向組という異色の経歴の持ち主。
たしかに開拓クエスト受注者を元傭兵たちが占めるなら、同じ経歴を持ったピンクトントンさんが率いるに適任だ!
「でもほら……彼女も、例のあのベビーラッシュで懐妊してただろう? 私も大分あとに知って驚いたんだがな」
オレも驚きました!
出産祝いをゲットするために大急ぎでダンジョンに潜ったりして大変だったです!!
「ウチの妻と同様、子育てにかかりきりで、とても『新たにクエスト受けてください』などとは言えない。……しかも知ってる? ピンクトントンさんとこの新生児、四つ子なんだってさ」
ハイ知ってます!!
だから誕生祝いを用意するのも大変でした!!
「イノシシ獣人としての生命力なんだろうな。ウチも夫婦双方獣人だもんで生まれてくる前は双子か三つ子かとけっこう混乱したんだが。まあもちろんたくさん生まれてくるに越したことないしめでたいんだが……!」
子どもの数に比例して子育ても大変ですよね!って話。
父親だったブラウン・カトウさんも一緒に、子どもたちとの日々は戦争だとのたまっていた。
「まさかカトウくんがピンクトントンとなあ……! 意外なようであり腑に落ちるようでもあり。だから同時にカトウくんにもクエストを依頼できない理由にもなってなあ」
カトウさんの子煩悩ぶりは、もう冒険者業界では有名ですよ。
一時期は逃げ回ってたとか言う噂もあったけれど、あんなにもお子さんたちを可愛がる姿を見たらデマなんじゃないかなって思った。
「実際カトウくんには打診したんだけどな。子育ての主力は母親でもあるんだし、父親側のカトウくんなら引き受けられるキャパはあるんじゃないかと。しかしその考え自体を怒られた」
『子どもが生まれたばかりなのに単身赴任させるとか鬼ですか!?』って言われたらしい。
「同時に『異世界にも育休制度が必要です!』とかまで言われてな。まったくわけがわからん。あれこれしていくうちに育休導入をギルド運営側で検討することになって、却って仕事が増えた……!」
シルバーウルフさん。
ドンマイです、シルバーウルフさん。
「そんなわけでクエストの打診先が絞られていってな。ゴールデンバットのヤツも引き受けるはずがなかろうし……」
はい。
言わずもがなですね。
「そんなわけで一番新顔のキミにお鉢が回ってきたわけだが……、さっきも言ったようにキミに背負わせるには酷なこともある……!」
はい、オレが開拓クエストを引き受けたことで穿った見方をしてくる連中ですね!?
かまいません! オレはそんな悪評に敗けたりなんかしません!!
「強いな……これが若さか……! しかし困難な要因はそれだけじゃない。同行する元傭兵たちも問題になるだろう」
さっき話に上った、冒険者への転向に失敗した人たちですね。
「彼らにも彼らなりにプライドはあるだろう。開拓クエストの打診を受ければ、きっと自分たちは切り捨てに遭うと思って態度を硬化させるはずだ。そんな状態で現地へ行かせたとして、指示通りに動くかどうかは出たとこ勝負ってところだな」
開拓クエストを受けるかどうか、は不安じゃないんですね。
「彼らは受ける。自分たちの立場は崖っぷちとまではいかないが、それに近いことを自覚しているだろうからな。終戦まで生き抜いて来た連中だ、生死の境を嗅ぎ分ける能力は高かろう」
なるほど。
相手の心境を読み抜いているなんて、さすがシルバーウルフさん!!
「だがそれでも、一片の不満もなく受けてくれるかどうかは別問題だ。コーリーくんキミは現地指揮者として、他分野で経験豊富だった……プライドと不満で充満した荒くれ者たちを従えて働かなくてはいけなくなる。加えて新顔S級として舐められる危険性を抱えながらだ」
シルバーウルフさんの抱える不安がオレにも見えてきた。
なるほどこのクエスト、ダンジョン攻略とはまた別のあぶなさが爪を研いで待ちかまえているというわけだ。
「本当なら本当に、ピンクトントンやカトウくんのような経験豊富な人材に頼みたかったのだが……あとゴールデンバット」
「それでも、S級を指揮者に据えるという考えは変わらないんですね」
シルバーウルフさんは頷いた。
「ギルド幹部からも意見があったよ。無理してS級をトップに据えるまでもなく、A級かB級辺りから適当に人選すればいいのではないか、と。彼ら自身、この開拓事業を見くびっているんだ。『S級を出すまでもない些末事』だとね」
「シルバーウルフさんはそう思わないわけですね?」
シルバーウルフさんは再び頷いた。
「私は開拓クエストにS級冒険者の指揮が必要不可欠だと思っている。開拓だろうと何だろうと、人の手が入らない未知の領域で行われるのは事実。しかもダンジョン攻略より遥かに長い期間継続してだ。千のダンジョンを踏破した私でさえ予想できないトラブルが起きる可能性も充分ある」
シルバーウルフさんの表情は真剣だった。
冒険者の頂点に到達するまで生きながらえたこの人の、生存本能を窺わせた。
「さらに多くの人間が開拓事業を軽く見ていることも問題だ。さっき言った冒険者たちの反応はもちろん、大統領の意見に反対している人間国首脳部のこともある」
そうか。
開拓事業は王様? がメインで推進してるんだけど、それに異を唱える人がけっこういるって言ってたもんな。
「私は、この開拓事業が人類の未来に必ず必要になると思っている。このまま何もしなければ、今ある街や村から人が溢れ返り、大きな混乱をもたらすだろう」
オレもそう思う。
赤ちゃんがたくさん生まれて人が増えたのは事実なんだ。今はまだ小さくて、食べるものもおっぱいだけだからいいが、いずれ成長してもっと体が大きくなったら?
さらにその子たちもいずれ結婚して子どもを生むだろう。そしたらさらに人が増えて、食べ物が足りなくなる。
「そして人間共和国には今も、リテセウスくんを操り人形にして私腹を肥やしたい人間が多数いる。そんなヤツらにとって開拓事業が付け入る隙となってはいけないんだ」
意見が割れている以上、その案件の成否が対立する人たちの勝敗になるからな。
開拓事業が失敗したら、そのままリテセウス大統領の汚点となり、彼に敵対するヤツらの声が大きくなってしまう。
「開拓事業の指揮者に最高位のS級冒険者を付けるのは、私なりの援護射撃でもある。事業のトップに最強冒険者を宛がえば、それだけで重要性のアピールになり、世間も認めてくれやすくなる。リテセウスくんとしても反対意見を黙らせるいい材料になるだろう」
そして無事開拓を成功させれば、人類全体レベルでの不安が一つ取り除かれ、リテセウス大統領にも箔がついて政治がしやすくなる。
いいこと尽くめの展開だ!!
シルバーウルフさんは冒険に対して、そこまでグローバルな視点でクエストを扱っているのか!
さすがシルバーウルフさん!!
S級冒険者として高い意識と広い視野を培っていたが、それがギルドマスターとしても見事に駆使されているわけだな!!
そこまで重要な意味を持つポジションに抜擢してくれたなんて、絶対に期待に応えなくては!!
シルバーウルフさん! オレこのクエスト受けます!
見事に開拓を成し遂げて、世の中をよくしたいと思います!
「ここまで経緯や意義を話してきても返答は変わらないか。まあ同じYESでも意味がわかっているかそうでないかで違うからな」
シルバーウルフさんは一人呟くと膝を打ち。
「よし、S級冒険者コーリーに開拓クエストの指揮を任せる。これはキミにとっても大きな成長の機会になるだろう。困難を食らって、誰からも認められる立派なS級冒険者になってこい!」
オレのS級冒険者としての最初の試練が始まった。






