1081 探検家、大地を行く
引き続き探検家ラッチャ・レオネスだ。
あれから喫茶店のマスターに絞られて大変だった……!
開拓地での出世払いを約束し、どうにかこうにか解放してもらったオレは、そのまま魔王城へと駆け込む。
魔王城生活科窓口に申し込むとまだ何とか募集枠に空きがあった。
結構人気で、オレが申し込みをした直後には枠が埋まって締め切りになったそうだ。
危ない危ない。
その後、厳正な審査をされ出身、思想、職歴、人間関係、志望動機を尋ねられて何とか許可をもらいオレはこうして開拓地へとやってきたのだ!!
* * *
おおおおッ!!
ここが新たに開拓される土地か!?
何もないなー、木と草ばかりだ!
まあこれから開拓するんだから当然なのだろうけれど。
オレを含めて開拓のためにこの地にやってきたのは数十人程度。
いきなり全員を投入しても大多数の生活を賄いきれないため、開拓を進めて居住地が広がるほどに逐次人員を追加していく算段らしい。
第一陣は、それこそ手つかずの自然……厳しい環境の中で生き抜くことが求められる。
屈強さ頑健さ、さらにはいかなる困難を前にしても、決して折れない心が必要だった。
それらすべてを備えている!
そう判断されたからこそ開拓隊第一陣に抜擢されたオレ!
フッフッフ! 魔国側も見る目があるではないか!
その期待、見事に応えてみせるので覚悟するがいい!!
そうしてオレが加わった第一次開拓隊だが、その面子には見知った顔もチラホラあった。
オレの同業だった探検家たちではないか?
こんなところで会うなんて奇遇なこともあるものだな?
なんて思っているとかつての探検家仲間の一人が言った。
「別に奇遇でも何でもねえよ。この開拓隊に編成されたのは、まあ半分ぐらいが探検家崩れだぞ」
半分!?
いやそれ以前に“探検家崩れ”とか言うな、俺がその一人に入ってるみたいじゃないか!
「何言ってんだ、所有船が老朽化で廃棄されて、次の船も買えずに海に出られないヤツが探検家崩れ以外の何だよ?」
ぐぬぅううううッッ!?
痛いところを突きやがって、さては論破使いか!?
「しかし、そういうことは実は探検家業界で頻発しているんだ」
「ここ最近色んな発見が出てきたからな。龍帝城に魔島、本当ならそれら未知の領域の発見は探検家業界を賑わすものだが……」
「全部魔国側からの発表だからな。お上による成果発表ほどフリーランスをしらけさせるものはないぜ」
それは……そうだな。
オレたち探検家は大概が個人で活動しているから、最大多数派というべき国にお株を奪われたら立場ないぜ。
「お陰で多くの探検家が情熱を奪われてな。業界全体が下火傾向だぜ」
「人によっては海運とか別業種に転向したりしてな。しかもそれが案外儲かるらしいぜ」
「人魚国とか魔島とかの取引が活発になってるからな。探検して一獲千金を狙うより遥かに確実大儲けできるって話よ」
「そっちの方が遥かにロマンをくすぐられるよなー」
なにぃ!?
それって夢やロマンよりも、金銭利益を優先したってことじゃねえか!!
探検家にあるまじき背信、堕落だぜ!
そんなヤツら探検家の風上にも置けない!
そう思わないか皆!!
「そして海運業に転身する財力もない連中は落ちぶれて、こっちに来たと」
「業界自体が下火になって、探検業もやりにくくなったからな。人が抜けて、業界人口が少なくなればそれほど相互扶助も薄くなるもの」
「オレら零細こそが、そのあおりを真っ先にくらうよなー」
そうして食い扶持を失った探検家崩れの多くが、糊口をしのぐことを求めて開拓事業に飛びついたと……。
……ええい! しみったれた話をそれ以上するな!!
考え方を変えるんだ!
この誰もまだ踏み入ったことのない開拓地! 人の手が入れられず、自然のままであり続ける!
ある意味秘境!
そんな場所こそオレたち探検家のロマンくすぐるんじゃないか!?
「言われてみれば確かに……!」
「実はオレもそれを求めて応募したんだよな!」
「この木々が生い茂るばかりの奥に、何かとんでもないものが隠されているかもしれねえ!!」
そうだ! その意気だ!
陸であろう海であろうと、どんな形でもオレたち探検家のスピリッツは消えない!!
開拓もしっかりやりつつ、ついでに世界中が驚くような大発見をしてやろうぜ!!
「そうだ!」
「うおおおおおおおおおッッ!!」
「「「「「「「えいえい、おー!!」」」」」」」
こうしてオレたち、元探検家組は一致団結して気炎をブチ上げたのだった。
他の開拓者から見れば『何してるのこの人たち?』『ヤバいヤツら?』などと引き気味ではあるものの、いいじゃないか。
これから打ち込む事業にモチベーションがあることは!!
こうしてオレたちの、新しい探検のステージ!
開拓事業が始まった。
* * *
それから数ヶ月。
開拓は順調に進んでいる。
オレたちがやってきた開拓地は、当初木々の生い茂る森で、その森林地帯もどれほど広がっているかわからないぐらいだ。
その木々を伐り倒し無駄にせずに材木として家を建てる。
余った分はしっかりと材木業者がやってきて引き取って行く。
切り拓いた土地は幸いにも平らで傾きもなく、農地とするにはピッタリだった。
元々森林になるぐらい栄養に恵まれた土でもある。
何を植えても逞しく生い茂った。
ということで開拓そのものはすこぶる順調だ。
オレたちも大変ながらやった分だけ成果の上がる作業に充実感マシマシだった。
毎日食う飯が美味い。
飲む水すら美味い。
あえて贅沢を言わせてもらえば、あとは切り拓き進めている森の奥から古代遺跡でも出てきてくれれば言うことないのだが。
そうすればオレたちの胸のかがり火を燃やすロマンも満たされるからな。
しかし、順調に思える事業にこそ思わぬトラブルが起こるもの。
オレたちの下にも想像だにしない凶報が舞い込んできた。
「は? 他の開拓村とイザコザ?」
他の開拓村って何だ?
ひとまずオレたちが切り拓いた土地には既にいくつかの家屋が建ち、畑も広がっていっぱしの集落らしい体裁は整った。
つまり開拓村だ。
しかし今受け取った報告だと、我々の築き上げた村の他にも開拓村があるようじゃないか!!
「そうだぞ、知らんの?」
なにぃーーーーーーーーーッッ!?
初耳だが、だったら教えてくれよ!
「開拓自体はいくつかのチームに分かれて行われているんだ。我々の村はその一つにすぎん。魔族側・第四開拓村だな」
第四!?
じゃあ少なくとも他に三つはあるってこと!?
そして“魔族側”というのは!?
「開拓隊は魔族側だけじゃない。人族側からも出されているってことだ。この開拓地がちょうど魔国と人間国との中間近くにあってな。ならば協力して開発を進めていこうという話になったんだ」
「しかし人族側の開拓村! 協力とは名ばかりでオレたちの邪魔ばかりしてきやがる! 今日も開拓予定だった土地を遮って、ヤツらが先に開墾を始めてきやがった!!」
なにッ! そんなことをしたらオレたちの開拓村を広げられなくなるじゃないか!
なら別の方に広げればいい?
たわけめ! 地理的にも効率的な配置というものがあるんだぞ!
いい場所を取られたら、不便でアメーバみたいな醜い形の村ができてしまうに違いない!!
「くっそぉ……! やはり人族とは争い合う運命らしいな!」
「戦争に敗けたことをもう忘れたか! 人と魔の上下関係を改めて教え込まねばならないようだな!!」
仲間たちは血気盛んで今にも爆発しそうだ。
今まで開拓につぎ込んできた苦労を思えば、その怒りは真っ当だ。
オレだって、こんなところでまで勝手なことをする人族を許すことなどできない!
探検には障害が付き物!
その障害を実力で排除してこその探検家だ!!
皆武器を取れ!
みずからの探検は自分たちの手で守らなければならないのだ!!
少々お休みをいただきまして、次の更新は10/30(月)になります。