1072 ざまぁを司る神
と、時止めーッ!?
なんでそんな能力をクロノスが使えるんだ!?
アイツは汚くイモ臭い農耕神だろう!? そんな能力バトル最強候補の一つに挙がるような技を使えるなんておかしい!!
『私がタルタロスに幽閉されている間、何もしていないと思ったか。同名の時間を司る神がいて、その繋がりで権能を操れるようになったのだ』
『神性ってすぐ分裂したり集合したりするからね』
落ち着き払って解説してんじゃねえハデス!?
ぬぐぅううッ!?
しかしこの主神ゼウスの神力を持ってすれば時間だって簡単に吹き飛ばすことができるんじゃないか!?
いやダメだ、作用してくる側のクロノスが余以上の主神であるからこそ、力技で時間停止を強制させられる!?
『どんな気分だゼウスよ? 一目散に逃げようとした瞬間に時間を止められ、体が動かなくなったのは? 例えるならば、十秒しか息を止められない人間が十秒きっかりに水面から顔を出した瞬間、ガシッと、足首を掴まれ水中に引き戻された気分というのはどうだ?』
『しかしお前は全然可哀想とは思わない』
『ホントにホントに』
ぐおおおおおおッ!?
動け! 動くのだ我が体よ!!
この大神ゼウスの思い通りにならないことなんてあっていいのかぁあああ!?
『パパ、パパ、コイツまだ心底反省してませんぜ?』
『もっと絞ってやりましょうよ。コイツがこれまでしたこと考えるとまだまだ足りないよー』
ぐおりゃあああハデスにポセイドス!!
貴様ら何を腰巾着みたいにしておるかあああ!!
三界神としての誇りはないのか!?
『それをお前が言うのか?』
『誇りどころか品性まで足りない』
コイツぉおおおおッ!
待ってくれクロノス……いや父上!
これまで色々あったけれど、余とアナタは父と子。
血を分けた家族がいがみ合うことなど悲しいこととは思わないか?
ましてや一方的にブチのめすなんて、そんな酷いことはしないよな?
父親が愛すべき息子を!!
そんなことをしたら嫌な気分がずっと残るぜぇ~?
『……なるほど、たしかに親が子をブチのめすなんて、それは虐待だ。非難されるべき行為だ。後味が悪いだろうし、心も痛むことだろう』
そうだろう、そうだろう!
これから余もアナタのことを父として尊敬していくから、お互い仲よくしていきましょうよ!
若い頃にはできなかったから余もたくさん父上に甘えたいなー。
『私もハデスたちも不本意ながらお前の親族だ。肉親ゆえにお前の断罪に手心を加えるかもしれないし、そんなことあってはならない。なので今回特別に、まったく無関係の神にお越しいただいた』
へ?
無関係の神?
『お前を断罪するために。彼の神は、お前とは何の関係もない。血縁もない。この世界に所属してすらいない。あくまで公正に、少しの余りも不足もなく、お前を裁いてもらうためだ』
そして現れたのは……。
なんだ?
こちらの世界とはまったく違う服装の……。
男の神?
『菅原道真公。別世界の神だ。ここ最近、あるきっかけで親しき友になったのだ』
『クロノス殿と親しくなったことで自然、こちらの世界の神事情にも詳しくなってな』
すました顔で見知らぬ男神は言う。
なんかそんな落ち着いた態度がムカつくな? まあ男は大抵全員ムカつくんだけどな存在が。
『学問を修めず、自分のやりたいようにしかせぬこの世界、ゆえに荒れている。この元凶……神の長ゼウスにはかねてより一言物申さねばと思っていたところよ』
『頼みますぞ道真公! このアホに、公正に知的に生きることが何なのか教えてくださりませ!!』
お?
時止めによる拘束がなくなった!
自由に動けるぞ!!
そうなった以上はこんなとこに一秒だっておれるか! この主神ゼウスは不利とわかってボサッと突っ立っているほど鈍くさくないのだ!
あばよ、とっつぁん!
縁があったらどこかで会おうぜ!
『逃がすか阿呆め!』
うぎゃーッ!?
結界!? 閉じ込められた!?
これでは逃げられないじゃないか!?
『冥神と海神、そしてクロノスパパが協同して張った結界だ。いかにゼウスといえどもそう突破することは不可能であろう』
『しかし、そちらの菅原道真公をどうにかできれば結界を解いてやってもかまわんぞ。さあどうする? ここまでお膳立てされてもまだ尻尾を巻いて逃げるか神の王?』
むきぃ挑発的な物言い!
やったらあ、あのよくわからん男神をブチのめせばいいだけだろう?
どこの神か知らんが明らかに貧相なヤツ、オリュンポスの王にして主神クラスのこのゼウスに勝てると思ったか!?
格の違いを教えてやる!
……。
……ちなみにご本拠ではどのようなポジションで?
『私は天神地神においては御霊神と呼ばれる分類に属しておる。元々人であったモノが、生前の徳から神の座に上がったという扱いだな』
はぁーーーーーーーッッ!?
元人間!?
そんなの神の中じゃ最下級じゃんプププ!
クロノスもこんな下級神をぶつけてくるなんて、タルタロスでの幽閉中に耄碌しちゃったかなー?
『人間上がりの神をとことん見下してんなゼウス。ウチの世界にだってそうした経歴の神はいるのに』
『ヘラクレスとかな。下手すりゃゼウスよりネームバリュー高いのに、何でそう言った系列をまとめて見下せるんだ?』
煩いぞハデスにポセイドス!
お前らこそこんな弱神を差し向けて、ちょっと疎遠な間にこの主神ゼウスの力を忘れたか!?
ならすぐさま実演で思い出させてやる!
食らえ必殺の主神雷霆パーンチ!!
『学問パンチ!!』
ぐえぼふッ!?
『学問キック!!』
んごぼえッ!?
『学問アイアンクロー!!』
ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!
痛い痛い痛い痛い!?
『学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問学問ッッ!!』
やっだーばぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?
『どうだ? これが学問の力だ』
絶対違うと思う!
このゼウス、オリュンポスの神として浅学だけれども、これが学問の力でないことはわかるよ!
しかし一体どういうことだ!?
こんな人上がりの下級神に何故、この主神ゼウスが圧倒される!?
私は主神だぞ!
この世界のすべての神の中もっとも強くもっとも偉大!
神のトップに立つ存在だ!!
それがこんな、どことも知れぬ辺境世界の下級神に、何故圧倒されるんだ!?
『たしかに、私より高位の神はいくらでもいる。私など八百万の神々に中に入れれば下位であろう。しかしな、我が国にはこのような言葉があるのだ。……主人公属性というものが』
主人公属性!?
『正しい者が悪しき者と戦う時、実力以上の強さが伴いありえないはずの勝利を掴む。この菅原道真は、その第一人者だ。政敵から貶められ、無実の罪を着せられ、敗北のまま世を去った私は怨霊として復活し、自分を貶めた者たちに制裁を加えた! まさに奇跡!!』
その奇跡の力を、今なおこの神は備えているというのか?
だから主神クラスの余にも余裕で圧倒できると?
『天神ゼウスよ。お前の行いはあまりにも見苦しく、道に外れる。この道真に宿る勧善懲悪の神性が、無限大のパワーをこの身に宿す。その力の前に、神の位など関係ない。懲らしめられる悪党とは大体、身に余る権力を振りかざす者たちなのだから!!』
ヤバい。
感覚的にヤバいということが即座にわかる。
この神は、余が知るどの属性の神とも違う。
こんなハチャメチャな神が、この世界の外の、どこか別の世界にあるというのか!?
大丈夫なのかその世界!?
いや、こんなでたらめな神を擁している世界だからこそ、世界それ自体がハチャメチャでデタラメということでは!?
『では、せっかくなので見せてやろう。この菅原道真による勧善懲悪の極みを。平安京の政敵たちをことごとく祟り殺した。この私の恐ろしき怨霊の姿を見せてくれよう』
ん?
菅原道真とやら、いつの間にやら腰に巻いたベルトのデザインがやけに近代的で、全体的なコーディネートから浮いている。
そのベルトから、なんか音が鳴った。
――ファイナル フォーム ミチザネ!!
その音声と共に道真の姿がみるみる変わっていき、恐ろしき魔神の形相へと成っていく。
全身の肌が鉄のように黒光りし、燃え上がる髪の毛、五体のそこかしこから雷光が弾け、怪しい輝きを放つ。
『……大政威徳天。京を震撼させし大御霊の姿、その恐ろしさを身をもって知るがいい』






