1068 反逆の勇者
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「死ねや! うおりゃぁあああああああッッ!!」
『ごべぇええええええッ!?』
堪忍袋の緒が切れたモモコさん。
女神アテナに向けて聖剣の閃光をぶっ放す。
議論に集中していた女神アテナは、反応もできずにモロに閃光をひっかぶった。
『ひぎぇええええええッ!? ごぼっぶッ!? 何々!? なんなのいきなり!?』
女神らしならぬ汚い悲鳴を上げるアテナ。
しかし聖剣の閃光をまともにくらって怪我らしい怪我もしてないのは腐っても神か?
『モモコちゃん!? いきなり何するのよ討論中に手を出すのはご法度よ!!』
「煩いわぁ!! アンタの吐き出す暴論の方が直接手ぇ出すよりよっぽど暴力よ!! 己という存在のドス黒さにさっさと気づけ!!」
怒髪天を衝く勢いのモモコさん。
それもそうだ、この討論とは名ばかりの女神アテナの主張は、聞くに堪えないほどの身勝手残忍なるものだったのだから。
「なんで人間が! アンタの都合で戦争しなきゃならないのよ! たしかにこの世界はつい最近までずっと戦争してきたわ! それも終わったの! そして平和な世の中で新しい道を進もうとしているの! 神様ならそれを見守るのが当然じゃない!」
『平和なんてクソよ!!』
凄いこと言いきった。
まあ戦争を司る神様としては当然の主張かもしれないが。
『平和は大事だぞ』
そんなことなかった。
同じく戦争を司るベラスアレス神が真逆のことを仰っている。
『戦争は人類史のクライマックスよ!! もっとも派手に! もっとも注目を受け! もっとも未来永劫語り継がれる戦争こそが至上の人類美でもあるの!! その戦争が起こってほしいと願うことの何が悪いの!?』
戦争の陰惨な部分からガンガン目をそらしておいてよく言うわ。
人類側から意見を言わせてもらうと、当然ながら戦争よりも平和の方がいいです。
自由を制限され、命と財産を脅かされる戦争よりも、皆で穏やかに過ごせる平和の方がいいに決まっている。
もちろん人間色んなヤツがいるから『戦争大好き!』『諸君私は戦争が好きだ』とか言う人もいるかもしれぬ。
そんな人々を否定もしないよ。
ただ戦乱殺し合いがしたければ、ソイツらだけでやってほしい。
関係ない、考えの違う人を巻き込まないでほしい。
そしてそれは神に対しても言えることだ。
『生意気言ってるんじゃないわよ! 人は神が生み出したのよ! さすれば人は、神の名誉のために血を流し、命を投げ打って当然じゃないの!!』
『人のために神が働くんだぞ』
どっちの発言がどの神のものであるか指定するまでもない。
『とにかく! アナタたち人間は神の命に従って敵を滅ぼせばいいのよ!! ジハードよ! 特にモモコちゃん! アナタは魔族に対抗するために召喚された勇者なんだから、そのお役目通りに魔族を殺さないとダメよ!!』
反論するアテナ女神。
もう誰一人として彼女に同調する人はいないというのにそれでも論を曲げないのある意味凄い。
『勇者の名のもとに魔族と戦い、神の敵を討ち滅ぼす。アナタはそのために異世界から呼ばれたのよ? ちゃんと役目を果たしてくれないと困るじゃない?』
「勝手に呼んどいて何余所の言い草は!?」
すべてそれに尽きるんだよな。
相手に断りもなく別の世界から呼び出しておいて自分の思い通りに動けというのも都合がよすぎる。
『そのためにスキルだって与えたのよ。この女神アテナから直々に能力を授かったんだからそれら万能に活かしなさい?』
「産廃クソスキル押し付けといて恩着せがましいのよ! 何ならそのスキル、アンタに向かってぶっ放してあげましょうか!?」
聖剣をかまえるモモコさん。
彼女のスキルは、自分と同等それ以下のレベルの相手を一撃死させるという。
『自分より弱い相手ならスキルなくても倒せるだろ』という上に『一撃死』という加減も何もない効果に使い勝手は最悪だ。
それを神に向かってぶっ放すと言ってるんだから、『神でもぶっ殺すよ』と言ってるようなものだった。
『あーはぁん? 即死スキルを、この神に? 使ってどうするっていうの? そもそもスキルを与えたのは私、スキルの大元ってことよ?』
「ぬぐぅ?」
相手の言わんとしていることがわかってか、呻きを上げるモモコさん。
『「女神の大鎌」は、自分より強い相手には通用しないスキル。それを人から神に振るおうっていうの!? 下等種が上位存在に向かって? どういうことかわからないのかしら? ぷぷぷぷぷー!!』
心底バカにしたような表情でモモコさんのことを見やる。
自分が圧倒的優位に立っていることを信じてやまない表情。
そしてモモコさん自身も……。
「ぐッ……!?」
女神の言うことを正しいと認めてしまってか忸怩たる表情だった。
俺は、そんなモモコさんの肩に手を置いて、言った。
「大丈夫、撃ちなさい」
「えッ?」
「諦めたらそこで試合終了だよ」
かつてこの世界の一部の人間は、秘術を使いこことは別の世界から人を呼んだ。
自分たちの手足となって戦わせるために。
相手の都合もおかまいなしにある日突然。
そしてその背後には、地上世界を目論む天上の神々がいた。
モモコさんも、否応なしにこの世界に呼ばれ、勇者としての戦いを強いられた被害者だ。
それに対して文句の一つもぶっ飛ばす権利がある。
「俺のギフトでキミのスキルを強化しよう」
「えッ?」
俺が造形神ヘパイストスから授かった、スキルを超えるギフト。
それは手に触れたものの潜在能力を100%以上引き出すというシロモノ。
故に俺に触れられたスキル『女神の大鎌』は、進化を果たし最強以上の処刑用の刃と化す。
「スキル『女神殺しの大鎌+∞』! いけぇええええええッ!!」
『へッ? ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!』
放たれる聖剣の閃光。
どうやらその閃光に、スキルの特性が付加されたようだ。
さっき同様に閃光に飲み込まれた女神ではあるものの、打って変わってメチャクチャダメージを負って皮膚などが焼けただれる。
そのまま閃光の奔流に押し流されて、どこぞへと押し流されていった。
『……恐ろしい神殺属性よ。北欧はフェンリルの牙に匹敵するのではないか?』
というベラスアレス様。
『アテナめ。自分が神の立場にいるからと言って絶対に侵害されないとでも思ったか。浅はかなことだ。戦いを追い求めるなら、自分もまた戦って殺されることを覚悟すべきなのにな』
同族が吹っ飛ばされたというのに至って冷静であった。
そりゃそうだよな、同じ神と言っても全然同情できない相手なんだし。
『勇者モモコよ、そして聖者よ。前の世界での生活があったそなたたちを有無を言わさず召喚し、人族の先兵として戦わせんとしたのは紛れもない罪、このベラスアレス、オリュンポス十二神序列六位として心より詫びようぞ……』
深く頭を下げるベラスアレス神。
アナタに謝られてもなあ……という気持ちもある。
「え? え? 聖者も?」
戸惑うモモコさんはさておいて……。
たしかに異世界召喚でまったく関係ない人々を戦場に誘った元凶は天界の神々であろう。
しかしながらすべての神が悪であったわけではない。
むしろ人の運命を弄ぶ極悪な神はごく一部といったところだろう。
そんな真邪神を差し置いて、これまで陰ながら人類のために奔走してきたであろうベラスアレス様に謝罪されても……。
『それでも身内の落ち度に知らぬ顔はできぬ。そなたらの心が少しでも晴れるならこの頭、下げずにおれようか』
いつだって思慮深い人が損な役回りをひっかぶるものですな。
でもどうしよう?
悪は滅びた(?)けれど、そもそもの主題でもあった討論会が少しも進んでいない。
増えすぎた人口をどうするか問題。
『そのことならば既に結論が出ている。アテナのヤツがかたくなにごねていただけで。本当はもう解決策が浮上しているのだ』
な、なんだってー!?
ではこの討論会に一体何の意味が!?
『それはもちろん、アテナのヤツを説得するために。あれでも世界の運行を司る重要な神の一柱なのでな。システム的にもヤツの了承を得るという段階を踏まぬと征かぬのよ、面倒なことに』
それは面倒極まるシステム……!
『でもまあそなたらがアテナをフッ飛ばしてくれたがゆえに、承認は得たとされた。これで万事は解決だ。ありがとう』
えッ? そうなんです?
どうして?
『そりゃあ、負けた者が勝った者に従うのは当然だからな。これでこの世界は益々良い方向へ向かう。ありがとう聖者よ、ありがとう勇者よ。そなたらはまこと、この世界を救ってくれた』
そういわれても、『うぅ~ん?』と釈然言ってない様子のモモコさん。
実は俺もよくわかっていなかった。
ここから先……一体世界にどのような変化が起こるのだろうか?






