1067 美しき戦争
書籍版15巻、明日発売です!
よろしくお願いします!!
さあ急遽始まりました。
神々による討論会。
今回は戦神アテナと軍神ベラスアレスさんが何故か地上まで降りてきて、それぞれの主張をぶつけ合います。
討論の内容は『増えすぎた人口への対処』。
先日のベビーブームによってここ異世界の総人口は倍増と言っていいほどに跳ね上がった。
人が増えすぎれば当然のように土地も食料も足りなくなる。
待っているのは凄惨な結果。
それを避けるために神々が何かしようということは当然と言えるかもしれない。
しかしそのために持論を提唱した神が何やらきな臭い。
戦争を司る女神アテナ。
果たして彼女はいかなる手段をもって、人口増加に対処しようというのか!?
「えー、本日の司会進行を務めます聖者です。よろしくお願いします」
「えッ!? アナタが聖者!?」
なんか隣でモモコさんが驚愕している。
「本日討論に参加いただくのは、青龍の方角からベラスアレスさん。そして白虎の方角からアテナさんでお送りいたします」
『聖者よ、討論のための場所を貸し与えてくれることと調停役を務めてくれること、まことに感謝する』
ベラスアレス神よりまず感謝の言葉。
こちらに気を使ってくれることがよくわかります。
『はん、人類に媚を売って情けないことねベラスアレス! そんなことだからヘパイストス同様オリュンポス十二神に加入してるかどうかいまいち曖昧なのよ!!』
あぁん?
俺たちのベラスアレス神になんて口の利き方だ?
しかもついでとばかりにヘパイストス神までバカにしたな? 俺がもっとも世話になったあの神様を!?
『ひぃッ!? なによこの人間!? 女神であるこの私を脅そうっていうの!?』
『威圧で神をビビらせる人間はそうおらぬ。聖者に調停役を頼んだのはそういうことと、これからの討論に公正な評価を下してくれると期待したからだ』
そんな、期待を寄せられると照れちゃいますぜ。
ベラスアレスさんにも日頃お世話になっておりますので、頼られたとあっちゃ応えないわけにはいきません!!
というわけで本日、討論会の舞台となった農場であった。
住人たちもチラホラ、降臨した神に引き寄せられ見物にやってくる。
冬でやることもないしな。
『ふふん、では早速私の主張から展開していきましょう! もっとも私の理論が完璧すぎて、私が喋るだけで終わってしまうかもしれないけれどね!!』
うるせぇさっさと喋れ。
むしろ喋らずに帰ってほしいくらいなのに聞いてやってるんだからできるだけ簡潔にまとめろ。
再確認……議題、増えすぎた人口をどう調節するのか?
『戦争で減らせばいいのよ!!』
はい却下。
と言いたいところだが議論も始まったばかりなのでとりあえず一通り聞いてみる。
『簡単なことよ! 増えすぎたものは減らす! 理に適っているわ! ニンゲンどもが生まれ過ぎたというんなら、生まれた分だけ殺して調整を図るのよ! そのためにもっとも適した手段こそが、戦争!!』
女神アテナは嬉々として語る。
『人間たちが無限の殺し合いを行い続けるのは戦争! それによって人口の加増は抑制され、常に適切な分量をキープする! そもそもこの世界では数年前まで戦争していたのに、それを急にやめちゃったから人口増加に歯止めが利かなくなったのよ!!』
「…………」
待て待て待て待て。
まだ殺すな。まだだ。
『やはり人類に戦争は必要なのよ! ネズミのごとく無造作に増え続ける人類には、それを管理調節するための神のシステムが必要なの! それが戦争! 戦争こそ神が人類に与えた至極の福音なのよ!!』
『それは違うぞ』
ああ、やっとこのボケ女神に異論くださるのはベラスアレス神。
同じ戦争を司る神ではあるが、論は真っ向からぶつかり合う。
『アテナよお前の論は前提から間違えている。人類が生み殖えることを悪そのものように言うが、むしろ人口が増えるということはいいことではないか。数は力。多ければ多いほどその種族が繁栄しているということだ。それを否定してなんとする?』
『増えすぎることも問題だと言っているのよ。それを微調整するのに戦争ほど便利なツールはないと言っているのだわ!』
相変わらずヤベェことを平気でほざくアテナ女神。
ま、戦争の女神様なのだからある意味真っ当なのかもしれないが。
そして同じく戦争を司る男神の意見。
『勘違いするな。たしかに戦争は人類史から切り離せないファクターではあるが、あくまで一側面に過ぎない。戦争が人類の本質ではないのだ』
『え? 戦争は人類の本質よ?』
『人類は争いながらも、営み、思索し、研究して進歩してきた。そうして文化文明を築き上げてきたのだ。それこそが人類の本質であり、他の生物とまったく違う点だ。人間以外の生物で文明を進歩させる能力を持ったものはない』
『その文明を進歩させてきたのも戦争でしょう? 「必要は発明の母」。新しい技術はいつだって、たくさんの敵を殺すために生み出されてきたのよ!』
『違う。そういうことはよく言われるが、実際に新発明が生まれるのは大抵が平和な時代の、文化文明が爛熟した時期だ。むしろ戦争は文明を後退させる。戦乱が人から自由を奪い、また大量虐殺によって稀なる才能まで葬られることになるからだ』
な、なんか議論ぽくなっている……!?
本当に討論会だったのか?
『アテナよ、たしかに戦争は大量の命を奪う。それが人口調節に一役買うという考え方もできるかもしれん。しかし結局のところ真実は、戦争とは災厄でありあらゆる事象の後退でしかないのだ』
『な、なによ!? アナタだって戦争の神だというのに戦争を否定するの!?』
『戦乱を司りし軍神であるからこそ、戦い争うことの禍々しさを誰より理解している。軍神とは、戦争という災いから人々を守り、一人でも多く生還させることが務めだと理解している。避厄の神であるのだよ我々は』
『違うわ! 私は、戦争という人類史上もっとも眩しく輝くハイライトそのものの化身なのよ!! 数多くの英雄が活躍し、吟遊詩人に語り継がれる戦争! その戦争を支配し、同様に美しく華麗なる存在として全人類から称賛されるのよ!』
女神アテナは陶酔気味に言う。
『戦争は美しい! 戦争は絢爛だわ!! 歴史の中でもっとも強烈に語り継がれるのは戦争なのだから!! その戦争が引き起こされるのを人類は喜ぶべきよ! 自分たちの生に輝きを与えてくれてありがとうと!!』
『人の生の輝きとは。ただ懸命に生きることそれのみだ。その「懸命に生きる」という行為の中に闘争も含まれるというだけだ』
『その中でもっとも強い輝きを放つのが戦争だと言っているのよ! 今の世界は、停滞の闇に覆われているわ! せっかく何百年も続いてきた戦争が終結し、美しい輝きを失っている! だからこの私が! 女神アテナが! 新たなる輝きを与えようと言っているんじゃない!!』
アテナが唾飛ばして激論している。
己の正義を振りかざしたくて堪らない様子だ。
『大体ずっとおかしいと思っていたのよ! 前の戦争で人族が負けたことが! この戦神アテナは、人族についていたのよ! この私は勝ちいくさを司る神だというのに、その私が応援する人族が負けちゃおかしいじゃない!!』
『勝敗に絶対はない。アテナお前まさか、先の戦争の結果が不満だからこそ蒸し返そうとしているのか?』
『悪い!? 私は戦勝を司る女神なの! 戦争の美しさ、誇らしさを担っている神なのよ! そんな私が敗戦を背負わされるなんておかしいから、もう一度戦争を起こして正しい結果に決め直すのよ!! そのついでに人類は多く死んで適切な人口に調節される! 一石二鳥でいいことづくめじゃないのよ!!』
悪いことだらけだわ。
コイツ結局は自分の欲求を満たすために戦争を引き起こしたかったのか?
『現状、この地上は安定している。賢君が戦乱を終わらせ、あらゆる力と知恵を進歩のために使おうと世界中の意思が結集している。この安定を神の気紛れが乱してはいかぬのだ』
『私は戦勝の神なのよ! その私が敗戦を舐めさせられたなんて屈辱受け入れられるわけないじゃない! 私が勝つために、人類がもう一度ぐらい戦争したって許されると思うでしょう! 敗けいくさを司るみじめなアンタにはわからないでしょうけれどね!!』
『戦いに勝敗はつきもの。そして過酷な側に身を置かれるのは敗北した側であることも当然だ。神の助けを必要とするのは、困難に陥ったものである者であることも道理。だから私は弱く、虐げられる者どもの守るために敗けいくさの神となった』
『詭弁よ! 弱者敗者なんぞに神の加護を受ける資格はないわ!! 勝者のみが神から愛される! すべての人類が神に愛される資格があるとは思わないことね!!』
『だからお前は戦争の正の側面しか見ないというのか? 負の側面を丸ごと無視し、戦争の美しく輝かしい部分だけをこと上げて、みずからを飾り立てようと?』
『それこそが戦争の女神じゃないの! このアテナが降臨する戦争には、勝利だけがあればいいのよ! ゆえに私の守護する人族が敗けた先の戦争はやっぱり間違い! 誤りを正すためにももう一度戦争すべきなのよ! ねえ!!』
『ねえ』と言われましても。
アテナの視線がこっちを向く。
『戦神アテナの名において命じます! 人類よ、今再び武器を取って戦乱を引き起こしなさい!! 安心しなさい今度こそは私が万全のサポート体制でアナタたちを勝利に導いてあげるわ! 過度に肩入れしてはいけないなんて神々のルールもこの際無視して! 我が必殺のアテナアークで敵対する魔族も人魚族も消し飛ばしてあげる!』
……。
『そして今度こそ人族は世界の主となり、この女神アテナはその主神として未来永劫崇められ続けるのよ! この私こそもっとも美しく強い女神! 黄金のリンゴは私にこそ授かるべき! ポセイドスのヤツにももう一回敗北の屈辱を味あわせてやるわ! ホーッホッホッホッホッホ!!』
我が意ばかりを執拗にまくしたてる女神アテナ。
やはり彼女が戦争の女神ということもあるが、戦争のことしか頭にないようだ。
さて、どうすべきか。
既に俺の隣にいる人が、わなわなと体を震わせていた。
自分で抑えきれない憤懣を押さえつけるかのように。
その人は……勇者モモコ。
「モモコさん、大丈夫?」
俺が聞くとモモコさんは無言でただ頭を左右に振った。
言葉を発するだけでも、心の奥に抑えこもうとしたものが噴出しそうで大変なんだろう。
「いいんだよ、我慢しなくても」
その俺の一言が、彼女のタガを外したようだ。
プチンと、何かが切れた音がした。






