1066 終末まで生討論
「先生、ご足労ありがとうございます」
『いえいえ』
まずノーライフキングの先生にお越しいただいた。
実際は大分前から農場に到着していて農場学校の生徒らと雪合戦に興じていたようだが。
そんな先生を目撃したモモコさん。
「ヒィ!? 何この骸骨のバケモノ!?」
おや? ノーライフキングを御存じない?
世界二大災厄と言われて恐れられる超越者だというのに。
まあ、普通に生きていたらノーライフキングと接触するなんてほぼほぼないか。
俺たちの感覚がおかしいんだろうな。
そんなレアな先生に、今日もお願いする。
「いつも都合のいい時に働かせてしまいすみません……」
『いえいえ、ワシにとっても半分趣味が実益ですからの。それに今回の件は、全人類にとって重要なこと。ワシも気合いを入れて参加させていただきますぞ』
そんな俺と先生のやや真剣なやりとりにモモコさんも『え? 何々?』と困惑する。
先生はかまわず杖を振り上げ……。
『天に座する神々の同胞、三番目と六番目の序列に就く雄姿。おぞましき戦乱と、輝かしき戦記を司るモノたちよ、降臨なさりたまえ……!』
久々にちゃんとした詠唱を聞いた気がする。
そんな先生の訴えに応えるかのように空が輝きだし、一条の光が駆け下って、そこから滑り降りるように神々しい姿が現れた。
姿は二つ。
一方は煌びやかな鎧に身を包んだ美しい女神。
もう一方は筋骨隆々で、眼光も鋭い逞しい男神だった。
戦いの女神アテナ。
軍神ベラスアレス。
それが今日、農場に降臨した二神の正体だった。
「えええーッ!? アテナにベラスアレス様、どうして!?」
それを目の当たりにしてモモコさんは驚愕していた。
あれ知り合い?
一方だけならまだしも両方とも?
「アテナは、私がこの世界に召喚された時にあった神よ! 私にスキルを授けてくれたの!」
スキル。
そういやそんな話があったなあ。
でもモモコさんスキルなんて持ってたんだ?
そんな便利なもの持ってるなら、こないだのオークボ城でも濫用しまくればよかったのに。
「そうは言っても私のスキル、使い勝手が悪いのよね。クソほど」
クソほど?
女性からそんなスラングな言葉が出るほどに、微妙な性能だってこと?
「自分よりちょっと強い相手までなら一撃で即死させられるってスキルなんだけど。そもそも自分より弱い相手ならそんなスキルなくても倒せるし、いまいち使いどころが限定されるのよねー。まあアンデッドとか簡単に殺せない相手とか? 体がガスとか不定形で物理攻撃が聞きづらいヤツには便利なんだけどさー」
そもそも『問答無用で一撃死』という効果が大振りすぎて却って使えないとも言うモモコさん。
そりゃ、スキル使ってデッドオアアライブしか結論が出ないんなら、たとえば先日のオークボ城みたいな親善試合的なイベントじゃ絶対使えないもんな。
たかがスキル一つであるが、一旦口を開くと止めどもなく愚痴が流れ出てくる。
相当不満をため込んでいたのだろうか。
しかしまあ、スキルがなければレベルを上げる、という言葉もあるし……。
『何よ! 私が直々に授けたスキルよ! 不満でもあるっていうの!?』
そう抗議の声を上げるのはアテナ女神。
煌びやかな鎧を着けて、ゴージャス感が目に痛いほどだ。
「そうよ不満があるのよ! っていうか今の主張にそれ以外の解釈があるわけ!? ないでしょう! 少しは理解力を働かせなさいよ!!」
神に向かってなお臆することのないモモコさん。
何気に凄いな。
彼女が従順になる相手はひょっとしていないのか?
「それに比べてベラスアレス様! あの時はお世話になりました!」
いた。
腰を低くする相手が。
今回同時に呼び出された二神の一方。
軍神ベラスアレスに対してモモコさんは尻尾を振る飼い犬のようだった。
「人間国が戦争に敗けて路頭に迷っていた時に、助けてくださったのがベラスアレス様なのよ! 私が地上でもやって行けるように修行をつけてくださり、さらに聖剣を授けてくださったの! アテナの産廃スキルなんかより数百倍役に立ったわ!」
『なんなの、その絶賛! むきぃいいいいッ!!』
随分派手な不満の表し方をするなあ、この女神……と思った。
『このベラスアレス! ズルいわよ私の眷属を取り込むなんて! どうせ美味しいエサでもチラつかせたんでしょ? まったく敗北を司る軍神は浅ましいわ!!』
などと好き放題言われるベラスアレス伸。
この逞しい男神は、威厳を崩すことなく今回初めての発言。
『敗戦を受けて大変な者たちにできる限りの援助を模索しただけだ。戦争とは、勝てば勝ったなりに手間暇かかるものだが、敗けた時にこそ一層の面倒が降りかかる。そんな時こそ助けてやらねばならんのではないか。困った時に頼りにならずして何が神か』
聞く限り男神たるベラスアレスさんの主張の方がすこぶるまっとうに思える。
絢爛な女神と、重厚たる男神。
二神の対比は、眼に痛いほどはっきりしたコントラストだった。
『ははーん、何よ神が敗北者の尻拭いなんてダサいことする必要ないでしょ? 敗者は死ねばいいのよ。美しき勝者にのみ神からの栄誉を得られるのよ』
そして主張も恐ろしく対比的だった。
『戦神アテナ、軍神ベラスアレス。天界神に所属するこの神々は、同じく戦争を司りながらその在り方はまったく別物です』
と先生が解説してくれる。
『戦神アテナは戦争の華やかさ、派手さ、勇猛さを司る女神です。同時に知恵や知識も司り、戦略といった側面もアピールする女神でもありますな』
さらに軍神ベラスアレスさんのことも解説。
まあ俺はベラスアレス神とは面識があるので知っているが。
『反対にベラスアレス神は戦争の陰惨さ、無惨さ、戦争の負の側面を司る神ですな。戦争は凶事。引き起こされれば必ずや大量の命が亡くなり、悲劇が散発し、文明は後退する。その事実を保障する神でもあります』
『ふん、負けるヤツは弱者なのよ。弱者に救われる権利はないわ。戦って勝つという成果を果たした者にこそ神に愛される資格があるのよ』
さも当然のように言い放つアテナ女神に、居合わせた農場の住人たちはドン引きの姿勢を見せた。
神にはやべぇヤツと、とんでもなくやべぇヤツがいて、この女神はとんでもなくヤバい方だということが一目にてわかった。
「あ、あの……この二人の神様のことはわかったけれど、そんな神様を地上に下ろして、一体何をしようというの?」
『いいところに気づいたわね! さすが我が眷属!』
モモコさんの疑問に、わかりやすく食いつく女神アテナ。
『今日我々は、重要なことを決めるために地上へと降りてきたのよ。この世界の明日を左右する運命の決定! それをこの女神アテナに委ねるなんて他の神々もよくわかっているみたいね!』
「え? え? 一体何を決めるっていうの?」
趣旨を知らされていないモモコさんは、ただひたすら困惑する。
これ以上戸惑わせるのも可哀想なので俺が解説することにした。
「ほら、こないだ子どもがたくさん生まれたでしょう? ベビーラッシュってぐらいに」
「そうね、あまりに周りの人たちが妊娠出産するんで、何かの陰謀かと思ったほどよ!!」
陰謀はちょっと飛躍しすぎかと思ったが、要するにそういうことだ。
昨年のクリスマスから端を発し、この世界でたくさんのカップルが子どもを授かる事態となった。
子どもが生まれれば人口が増える。
人口が増えて起こることと言えば……そう、世紀末のアニメによくある問題だ。
『そう、人類は増えすぎればロクなことがないのよ! 人が増えすぎたら住む土地も、生産する食料も足りなくなる! 足りなくなれば奪い合いが起こり戦争よ!!』
女神アテナが意気揚々と話す。
『大規模な戦争になれば、人類そのものが滅びかねない危険なものになりかねない! 私たち神は、人類が滅びぬように正しく導かねばならないの! だからこの人口爆発に際して取るべき対策を決めねばならないのよ』
女神アテナさんには提案があると?
俺がそう尋ねると女神は得意げに答えた。
『もちろん、簡単なことよ! 人口が増えすぎたなら減らせばいいのよ!』
などと言いだす。
『戦争よ! 戦争を引き起こして増えすぎた人口をいい感じに削減するのよ! まさしく戦争の女神たるこの私のグッドな提案! 人類の危機を救う天界最高の女神に相応しいわ!!』
『その考えには反対だ』
すかさず反論を述べたのは軍神ベラスアレス。
『戦争はあらゆる施策の中でも最低の下策とも言われる。手を尽くした最後に取るべき手段が戦争だ。そんな凶事に安易の手を出すことを私は天界の一神として容認できぬ』
『煩いわね! 負け犬の神の意見なんて聞いてないわよ! 輝かしい戦勝を司るこのアテナの言うことすべてが優先されるべきなのよ!!』
などと言い合いをはじめ、騒々しい限りだ。
「こ、これは……!?」
この様子を眺めるモモコさん、固まる。
そうこれは……。
クリスマスベビーラッシュによる急激な人口増加に際し、その対応を巡って戦争推進派のアテナ女神と穏健派のベラスアレス神による討論会……!
神の朝まで生討論だ!!






