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1059 聖剣の呟きEX

 我が名は鏖聖剣ズィーベングリューン。


 冥神ハデスの生み出せし七聖剣の一振りである。


 我ら七聖剣は互いに滅ぼしあう定めにある。

 争い合って、勝って、負かして、へし折った相手の霊性を喰らい、我が身を高める。


 すべての聖剣を滅ぼした先に完成するのが究極の聖剣……真聖剣だ。


 我ら聖剣の戦いは、その先に究極聖剣を生み出すためにある。

 戦って戦って戦い抜いて、最後に残った一振りのみが真聖剣へと進化する資格を与えられるのだ。


 もちろん、その資格を得るのはこの鏖聖剣ズィーベングリューンだ。


 他の聖剣すべてをへし折って、必ずや我が身を究極へと進化させよう。そう奮っていた矢先に、我が覇道は阻まれる。


 天界に所属する神……軍神ベラスアレスが我が身を天界へと連れ去ったのだ。


 それは真聖剣完成を阻む天界神の策略。

 七聖剣のうち一振りでも欠ければ聖剣たちによる争いは決着せず、従ってすべての聖剣を喰らい尽くすこともできずに真聖剣は完成しない。


 地味ではあるが非常に効果的な一手でもって真聖剣の完成は数百年も先延ばしになった。

 私もその間、天界に所蔵されながら随分と歯痒い思いをしたものだ。


 しかしそんな苦節の末ついにチャンスが巡ってきた。


 何を思ったか私をかどわかした張本神ベラスアレスが、おのずから私を地上へと戻したのだ。

 我が身を人の子に託して。


 どういう気紛れかと疑ったが望外の僥倖。

 この機会を生かさぬわけにはいかない。


 天界神め、みずからの首をみずから絞めたな?


 こうして解放された以上この鏖聖剣は止まらぬ。

 このまま一気呵成に私以外すべての聖剣をへし折り、食らい尽くして。

 真聖剣への進化を完了してしまおう。


 今まで停滞していた数百年の遅れを取り戻すぞ!!


 そんな私の所有者として選ばれた相棒が、モモコなる異世界からの来訪者だ。

 この世界の住人ではなく、まったく別の世界から召喚されたらしい若き女。


 女ではあるが能力は高く、その瞳には覇気が宿っている。

 我が相棒とするに相応しい使い手と見た。


 私とモモコの力が合わされば、出遅れした聖剣戦争も必ずや巻き返し、頂点に立つことができよう!

 ゴールはすぐそこだ。


 ……と思ったのも束の間。

 思った以上に険しい道のりに敗北したり回り道したりでさらなる年月を積み重ねてしまった。


 最近は女子プロレスだとか抜かして私を置いて素手で戦うことも増えたモモコ。

 もう私には真聖剣への道のりは閉ざされたと思ったが、今日ついにチャンスが巡ってきた!


 あれなるは我が同類!

 七聖剣が一振り、怒聖剣アインロートではないか!?


 数百年の時を越えてやっと同胞に出会えた!

 嬉しい!


 やはり私は一人ではなかったんだ!

 志を同じくする仲間はいたんだ!!


 ……と、おっとおっと取り乱してはいけない。

 我々は仲間でもライバルと書いての“仲間”だった。


 最終的にはどちらかが滅び、真聖剣となる勝者へみずからを贄と捧げる運命。

 ならば私こそが捧げものを受ける勝者!


 さあかかってくるがいい怒聖剣アインロート!

 長き間保留となっていた勝負の決着をつけようぞ!!


『あらー? ズィーベングリューンじゃん久々~』


 何ぃ? その声は?


 邪聖剣ドライシュバルツ!?


 もう一振り、私が倒すべき宿敵がここに!?


 しかし一体どういうことだ!? 聖剣は出会えば戦い、どちらかが壊れる運命!

 それなのにお前ら、どうして一緒にいながら戦わずに仲よく並んでいやがるんだ!?


 お前らもお前らの使い手も、聖剣の存在意義を何と心得る!?

 真聖剣となるべき使命を忘れたか!?


『いやー、そんなこと言われても決着が遅れに遅れた最大の原因から言われても説得力ないわよねー?』


 ぐぬぬぬぬぬッ!?

 それは……やむにやまれぬ事情があったからで……!


 真打ち登場は最後になってという定番もあってだな。


『まあバトルロイヤルものになると大抵一人はいるわよね。最初は隠れて他の連中が潰しあうのを待とうなんて小狡いことするヤツ。でもそういう小賢しいのに限って真っ先に脱落するっていうのもセオリーなんだけど』


 私はそんな姑息なことは考えてない!


 私が聖剣の争いに遅れたのは……本当に私の意思とは関係なく無理矢理遠ざけられたのだ!


『別に早く参加しようと遅れようと関係はなかったけどね。聖剣たちの争いは結局うやむやで決着も見ないまま無期限中止になっちゃったし』


 無期限中止!?

 何を言っておるんだ!?

 戦うことが宿命の我ら聖剣が戦うことを放棄してどうする!?


『そりゃー、そう言われるのは正論だけど考えてもみなさいよ。私たちは何のために戦うわけ?』


 そりゃー、我ら聖剣は冥神ハデスによって創り出された。


 冥神ハデスは魔族の守護神。

 然らずんばハデスに作られた聖剣は、魔族を助けて人族を撃ち砕くために戦うのだろう?


『でももう人族は敗北したじゃない、魔族に?』

 

 あっ。


『だったらもう私たち聖剣も戦う必要なくない?』


 そういえばたしかに……!?


 私だって使い手モモコと一緒に世界各地を回ってそれなりに情勢把握はしている。

 それによれば人魔の戦争はとっくの昔に終結している……しかも魔族の勝利で!


 大変おめでとうございます、というべきところだが納得いかんぞ!


 人族を打ち倒すには、我ら七聖剣のうちのどれかが真聖剣にならねばならんのではなかったか!?

 なくても倒せる! とかそういうオチだったのか!?


『いや、真聖剣は完成したわよ。そのお陰で人族の張り巡らせた忌々しい神聖障壁は破壊され、魔族側の反撃が可能になったの』


 どういうこと!?

 真聖剣は、聖剣が最後の一振りになるまで戦わないと完成しないという認識でおりましたが!?


『私の主がね、折られたゼックスヴァイスとフンフヴィオレットを打ち直して真聖剣として復活させたのよ』


 もうどこから突っ込んでいいかわからない意味不明な言動やめてくれませんか!?


 折られた聖剣が復活!?

 真聖剣になって!?


 信じられない話も限度を決めてしてもらいたいもんですが!?


『そしてこの私も、今の主に使われることでほぼ真聖剣と遜色ない性能にまで際立ったわ。私の主は手にしたもののポテンシャルを限界以上まで引き出せるから当然よね』


 益々わけがわからん!

 自分以外の同類をすべて滅ぼしてでも最強無二の存在になろうとした私の覚悟は一体!?


『そしてあっちのアインロートは、真聖剣とも別次元の存在……納豆聖剣となったわ』


 なっとうせいけん!?

 あまりにも想像を超えた展開に思わずオウム返ししかできなかった!!


 なんだよ納豆聖剣って!?

 どういう珍展開があればそんなキテレツなる存在になることができるんだ!?


『四振りの聖剣をへし折って、もっとも真聖剣に近かったアインロートなのに。ウチの主が現れたのが運の尽きだったわねー。アイツの今の主がダイエットするのに付き合っていくうちに、アイツも納豆の影響を強く受けて、納豆の象徴たる聖剣に生まれ変わったのよ!!』


 何言ってんだコイツ!?

 コイツ自身も何言ってるかわかってないんじゃないか!?


『よくわかったわね! その通りよ!!』


 威張って言うことか!?


 そう言うことだアインロートよ!?

 ハデス神の命を受けて地上へと放たれた我々が、その使命を放棄して納豆とかわけわからんものに取り込まれていいのか!?


『すべては納豆、納豆はすべてを解決する……!』


 ダメだコイツ!


 ……。


 まあ、そうだよな!

 魔族は人族に勝利して平和になった今、我ら聖剣も無理して争わなくていいよな!!


 平和が一番!

 ビバ平和!


 私も争いから解放された今、聖剣であることを純粋に楽しんでみようかなあ!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] コミカライズの唯一の不満点が聖剣の呟き削られた所でなぁ
[一言] めでたしめでたし……? だが安心していいのだろうか。納豆の女王って貴方の持ち主のすぐ近くにいるんですよ?
[一言] 限界以上にポテンシャルを引き出された納豆菌は強い
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