1055 がま剣法
第三関門にてイレギュラー。
ガチの斬り合いが発生している!?
「ふんッ! やッ! は!」
「ふぉおおおおおおおおおおおッ!!」
迎え撃つは人魚王アロワナさん。
世界を三つに分けたうちの一つ……大海・人魚国を治めるいまや世界の大重鎮だ。
それに挑むのは正体不明の女の人。
恐らくは冒険者か何かと思われる。
しかしながらアロワナさんの猛攻に耐え凌ぎながら、同時に果敢に反撃までしてのける。
あの女の人の戦闘技量の高さが窺える。
アロワナさんは世界トップクラスの使い手であることは言うまでもないのに。
ならばそのアロワナさんと互角に渡り合えている事実は、彼女もまた世界トップクラスであることの証明だ。
「うーむ、この世界にまだこれほどの猛者が埋もれていたとは……」
魔王さんも激戦を目の当たりに感心しきりだ。
そうこうしているうちにまず痺れを切らしたのはアロワナさんの方だった。
「ここまで打ち合っても崩せぬとは! 見かけによらず武芸達者と認めるしかないようだな!」
「判断が遅いわよ! このまま押し切ってやるわ!」
そして相手の女性は相変わらず強気だ。
「このまま終わると思っているなら甘い考えだぞ! 決め手に欠ける以上こちらも新たな札を切るより他なし!」
「何ですって!?」
「我が手にある至宝は神槍トライデントのみにあらず! 海神より賜りし超兵器に勝るとも劣らぬものは、聖者様より賜りし究極の盾だ!!」
「えッ? 聖者?」
そう言ってアロワナさんが取り出したのは、丸く半球を描いた亀の甲羅だった。
正確には亀甲を用いて作った盾。
あー、アロワナさんあの盾まだ持っててくれてたのか。
そう、ウチで作ったんだよね、あの盾。
「そ、そのヘンテコな盾……聖者が作ったモノだっていうの?」
「ヘンテコとは無礼な! この亀型モンスター、ロータスの甲羅を素材にして作られた亀甲の盾は、甲羅が象る半円形の曲線によって、あらゆる攻撃をそらして受け流す! この防御の前にあらゆる攻撃は無意味!!」
実際アロワナさんが盾をかまえた途端、あの女の人による剣撃はすべていなされ、難なく捌かれてしまった。
聖剣による攻撃ですら防げるのか。
凄いな、あの盾。
「この亀甲の盾であらゆる攻撃を受け流しながら、この神槍トライデントで確実に敵を刺し貫く! 海神ポセイドスの武器と瓜二つのこの槍に、貫けぬものはない! 絶対防御と必殺攻撃! この二つを併せ持った時こそこの人魚王アロワナの武は完成するのだ!」
矛盾!!
「さあ、レディよ! この完璧な布陣を見てなお挑む勇気はあるかな!? それともこの最強の構えを突き崩す策でもあるかな!?」
「足を攻撃」
「んなぁ!?」
ああ、あの女の人!
迷わずアロワナさんの足を狙って地面スレスレに聖剣を振り回す!?
絶対防御と自慢する亀甲の盾だが、さすがに手に付けたまま足元までカバー範囲は広げられない。
その届かぬ範囲を狙って、執拗に剣を突き入れ続ける女の人!
なんか絵面的に狡さを感じるんですが?
「おのれ卑怯な! 正々堂々同じ目線の高さで戦わんか!」
「足を狙っちゃいけないなんてルールはないですぅ。勝てばそれが正義なんですぅ」
悪役のお手本みたいなセリフ吐いてる。
しかしこの攻撃は、通常以上に効き目抜群だ。
何故かというとアロワナさんは人魚族。本来は海中で魚の下半身をもって泳ぎ回る種族であり、地上を歩く二本の足は持たない器官だったはずなのだから。
ゆえに“足を守る”という動作にどうしてもアロワナさんは不慣れ。
水中であれば全空間を泳ぎ回りながら空中戦のような感覚で、尾びれも盾の防御範囲に仕舞える。
しかし地上では“地面の上に立つ”“足という本来持ちえぬ部位”という慣れぬことばかりに苦戦を強いられるのだった。
「ここだ勝機の突き!」
「ぐわぁああああッ!!」
それまでタップダンスを踊るように何とか回避していたアロワナさんだが、ついに姑息な聖剣の切っ先が、アロワナさんの足首を掠めた。
痛みにバランスを崩して倒れ込んだところへ、さらに聖剣が突きつけられる。
「勝負ありよ!」
「くッ……!?」
さすがに首元に刃を添えられては人魚王と言えど負けを認めざるをえまい。
あの女の人……アロワナさんに勝ってしまったぞ!?
かなり姑息で、見ていてスッキリしない戦い方ではあったが結果は明白だ。
アロワナさんも、地上で修行した時期があったはずなのだが、足という弱点克服は徹底できなかったようだ。
きっとあそこまで姑息に徹する相手に、武者修行時代出会えなかったんだろうな。
ある程度実力もひっ迫してないと、あの姑息戦法も通じないんだろうし。
……そこそこ実力を備えた卑怯者ほど厄介な相手はいないってことか。
「さあ、これで第三関門クリアよ! 少しずつ魔王に迫っているわ! 首を洗って待っていなさい!!」
結局あの対戦が第三関門ということになっていた。
他の出場者は普通にアトラクションに打ち込んでいるというのに。
あの女の人だけが異質だ。
このままではオークボ城の趣旨が歪められかねない。
ここは運営側が率先して、あの女性をどうにかすべきか?
「待ってください」
ん?
この声は……第四関門からか?
「彼女は僕に止めさせてください。ちょうど僕の受け持ちにこれからやってくることですし……」
そこに陣取るのは……。
……おお! リテセウスくん!!
人間共和国初代大統領のリテセウスくんではないか!!
そう、彼もまた農場留学生時代からのオークボ城常連出場者だ。
活躍の様子はまったく語られなかったがな!
その経験を活かしてサポート役として参加してくださった。
魔王、人魚王と続いて人間大統領まで。
三大種族の元首全員が参加しているなんてどんだけイカれたイベントなんだろうか。
彼の受け持ちは第四関門のサポ-ト。
そこに例の彼女が、突き進んできた。
「今度はアナタを倒せばいいわけね?」
「そういうことです」
違いますよ!
その戦闘民族的思考は、本イベントの趣旨から大きく逸脱しておりますよ!
リテセウスくんも!
そんなに素直に受けて立とうとしないで。
キミの素直さは学生時代からの美点ではあったが!
「僕にはわかるよ……お姉さんアナタは、勇者でしょう」
何?
「よくわかったわね。私は勇者、勇者モモコよ!」
なんだってー?
勇者というと、かつて人族が戦力とするために召喚した異世界人のこと……!?
モモコという名前も、俺にとっては懐かしさを感じさせる響きだ。
「何故か見ただけでわかったよ。僕も勇者だからかな」
「なんですって? じゃあアナタも召喚されて……!?」
「違う、僕はそれよりも前のタイプの勇者なんだ」
そう、この世界における“勇者”という称号の意味は時代によって異なる。
かつてこの地上に神が好き勝手に出入りしていた時代、神々は自分の生み出した子どもであるはずの人類と恋愛を楽しみ、その間に子女を設けた。
神との混血となった人類は当然のようにより強い力を持ち、特別な称号で呼ばれるようになった。
それが勇者だ。
そのうちあまりにも好き勝手やりすぎた神々に規制が入り、地上へ自由な出入りができなくなった。
神と人類との間に生まれた半神たちも神界に引き上げられて、神々との混血という意味での勇者は地上から消え去った。
「でも僕は先祖返りらしくてね。血の中に眠っていた神の因子が大きく目覚めた。そういうのを旧勇者と呼ぶらしいんだ。アナタたち異世界から召喚された勇者は、旧勇者が消え去ってから、その代わりにするためのものらしい」
「代わり、ですって……!?」
「天界の神々は地上を支配したいから、侵攻のための戦力を必要としたんだ。神々は、地上の人類へみだりに力を与えることも禁じたから、外の世界から召喚した異世界人ならルールを掻い潜れると思ったんだろう」
「だから、神は私たちに力を与えて……」
……リテセウスくん、割とヘビーな内容をスラスラ語り聞かせてない?
召喚された当人にとってはショッキングだと思うんだが。
「神々の都合で勝手に呼び出されたアナタたちは被害者だと思う。しかし神から与えた力を悪用し、この世界の平和を乱すのならば僕は、新人間国を預かる身として黙っているわけにはいかない」
「私だってこの世界のためになりたいと常に思っているわ。心配無用よ」
よかった……。
異世界から召喚された勇者の中には、神から与えられたスキルで好き勝手なことをするヤツもいるというので不安にはなる。
「でも旧い世代の勇者っていうのは興味あるわね。新しい勇者である私とどっちが強いか、白黒ハッキリさせてみない?」
そしてなんで彼女はそんな少年マンガみたいな思考なんだ?
色々話はあったけど結局対決はするのかという方向で展開は進んでいく!?






