1052 勇者参戦
オークボ城にモモコ参戦!
大乱闘クラッシュブレイクよ!
「大乱闘はダメですよモモコ。競技はルールに則ってしませんと」
セレナから注意を受けてしまったわ。
そうね、ルールを守って楽しく競技!
っつーことで早速出場申請を出したわ!
意外とアッサリと受理されて午後の部に出場が決定!
もっと色々聞かれるかと思ったのに拍子抜けしたのは、かつて人間国が戦争に敗けた直後、勇者の私もお尋ね者として逃亡生活を強いられた名残りからかしら?
「もちろん通常は、もっと厳重な身元チェックが行われますがね。指名手配犯とかを出場させるわけにもいきませんし」
受付をしているゴブリンさんが言った。
……ゴブリンの受付?
「ただアナタの場合は、まあ特別と言いますか……。身元に間違いはないことが一目でわかりますからね」
え?
それって……!?
私が勇者だからってこと?
やはり勇者ともなると社会的信用度が段違いってわけね! 世界を救う英雄だもの!
『この人怪しくないよ』って皆から保証されてるんだわ!
それとも女子プロレスでの知名度がここまで伝わってきたのかしら?
それもまた誇らしいけれども……!
「いいえ、アナタのその首からぶら下げている看板……」
え?
この『豆』と書かれた看板?
「レタスレートさんが着けさせたんでしょう? あの人の監督下にあるなら、まあ大丈夫ってことで……」
そんなに信用高いの、あの元王女!?
な、なんだか腑に落ちないけれど……まあアッサリ出場できたってことなら得よね。
得は、素直に受け止めておかないと……。
それじゃあ早速会場入りよ。
スタート地点はどっちかしら?
「モモコ、そっちはオーク割り競争のアトラクション会場ですよ」
セレナが注意してくれたおかげで迷わずに済んだわ。
……“オーク割り競争”なるアトラクションが謎すぎて興味を引かれたけれど、今や私は、城を落とさんとする一人の戦士!
妥協もせず脇目もふらず、天守閣に向かってひた走るわよ!
そんでスタート地点に辿りついてみる。
豆屋台から眺めていたのと同じ、お堀の前からスタートだわ。
うーむ、やはり観客からの視点と選手からの視点じゃ受ける印象がまったく違うわね。
あの遥か向こうに霞がかっている天守閣。
『たどり着けるものなら向かってこい』と煽ってきているかのようだわ!!
その挑戦受けて立つ!
私は勇者モモコなのだから!
……と内心メラメラ闘志を燃やしていた私。
そのせいか気づくのが遅れてしまったんだけれども、なんだか様子がおかしいわ。
いや、別に不穏と言うほどでもないんだけれど、何となく違和感があるのよ?
観客として眺めていた午前の部と、こうして選手としてスタートラインに並んでいるこの午後の部で何か違うというか……?
間違い探しでもしているかのような、ささいな差異よ?
それが何かというと……。
「あッ、魔王様」
魔王!?
セレナの声を受けて視線を向けると、たしかにそこには午前中に見た、中年太りの魔族さんがいる!?
アレが魔王で間違いないわよね!
今なお印象はただの福々しいオッサンなんだけれど!?
そんな魔王さん、私たち午後の出場者を見て不敵に笑う。
「ふっふっふ……、今年も現れたな。身の程を知らぬ子羊たちよ」
何ですって!?
今、聞き捨てならないワードが出てきたわね! 誰が癖のないラム肉ですって!?
「発足当初は一日一回の開催であったオークボ城も、開催を重ねるごとに形態を変えて一日複数回の開催になった。すべては出場者の申込数が年を追うごとに増えるゆえ……」
好評を博しているのね。
出場者数が多すぎて複数回に競技を分けることで人員の整理を狙ったってことだわ。
でもなんで唐突にそんな『オークボ城の歩み』を語り出すの?
「主に『午前の部』『午後の部』に分かれたオークボ城。その二つは大きな特徴で分かれた。それぞれに象徴的な特色を持つのだ」
いつまでつらつらと語り続けるのかしら?
魔王も校長先生と同じで、とりとめのない話が長いのね。
「『午前の部』には、あらかじめ予約申し込みをした出場希望者が参加する。何日も前から準備を重ね、肉体を作ってきた入魂参加者だ。そういう者たちは毎年参加する常連で、オークボ城に挑戦する意気込みも一般的な参加者とは違う」
午前中に見てきた人たちね。
たしかにまあ競技に懸ける真剣さというか……ガチンコ具合が違うなーとは思ったけれども……?
「それに対し午後の部は、基本的に当日参加受付の『飛び入り組』だ。時間的なタイミングでどうしてもそうなるが、午前の競技を見て興奮冷めやらぬ観戦者が『自分も』と思い参加してくる。手に汗握る競技を見て、自分たちも体を動かしたくなった手合いであろうな」
バスケ映画に感動して、自分もバスケをやりたくなったみたいな……?
そういうこともありそうよね。
軽音楽部のアニメを見てギターを買っちゃった人のエピソードを私も聞いたわ!!
「しかし、そういう者に限って困難への備えはおざなりだ。このオークボ城の恐ろしい難関を軽視し、迂闊に飛び込んで痛い目を見る。……事実、これまでのオークボ城で競技中の負傷者は、実に七割以上が午後の部に出る! 統計的に!」
な、なんですってー!?
「関門突破をするだけの体力も筋力も備わっていない素人の方々の無謀なる挑戦! それをむざむざ受け入れて怪我をさせてしまうのを看過できぬ! そこでとられた対策が我々ということだ!」
どういうこと!?
魔王さんが出てくることの脈絡が、私たちにはさっぱりわからないわ!!
「ここから天守閣に至るまでの各関門には、我を含めたオークボ城の常連参加者がついておる! それらベテランの指導、補助に合わせて各アトラクションに挑戦塩てほしいのだ、さすれば怪我なく安全に、オークボ城の神髄を楽しめるというわけだ!」
なるほどつまりそれは……。
サポート役!
初心者たちをトラブルから回避できるように立ち回るインストラクターというわけね!
「ちなみに無償だ」
ボランティア!
「さすが魔王様……民草の安寧を守るためにこんなところでなお労を惜しまぬなんて……!!」
セレナが崇拝の気持ちでもって魔王さんを見上げているわ。
それもそうか。
セレナは魔族でしかも魔王軍の軍人さんでもあったんだから。……いつの間にか軍縮の波に押し流されてリストラになってたのよね。
そんなセレナだからこそ、魔王さんは神のごとき存在。
キラキラした目で眺めるのも納得だわ。
「午後の部のオークボ城コースには、我を始め多くの常連参加者がスタンバイしている。皆、飛び入り参加者たちの安全と体調を鑑み、善意で補助役を買ってでてくれている」
うん?
「素人の午後組の参加者たちは、意地など張らず謙虚な気持ちで、ベテランの指示に従うように。そもそも、この場で何かやってみたくなったというミーハーな心地で飛び入りすることが怪我の元。毎年オークボ城に信念を懸けているベテラン参加者に従っておけば何の心配もない。羊飼いに導かれる羊たちのような従順さで競技に臨むように」
……。
どういうことかしら?
ちょっと魔王さん、さっきからアナタの言動ほんの少しばかり失礼なんじゃなくって?
そりゃ私だって、当日にオークボ城の様子を見て参加したくなったクチよ。
計画性もなく行き当たりばったりの行動よ。
……ミーハー呼ばわりされるのも致し方ないとも言えなくもないわ。
しかし!
出会いは常に突然なのよ!
オークボ城という何とも面白げなイベント! 出会ったからにはすぐさま飛び込み満喫したい!
即断即決は褒められるべき特性と思うのだけど、どうかしら!?
それをあの魔王は。
面白半分の冷やかし客扱いは心外極まるというものだわ!!
……。
こうなれば……。
この勇者もモモコが、玄人が真っ青になるような華麗なプレイでオークボ城をクリアしてみせるわ!
RTAよ!!
そうして私を素人と侮った魔王さんをギャフンと言わせてみせるのだわ!!
勇者の名に懸けて!!






