1050 いつの時代にも似たようなものはある
冬の勇者モモコよ。
寒い季節に入って世の中は農閑期ってヤツ。
皆様は手透きかもしれないけれど、その時こそ名エンターティナー・モモコの独壇場よ!
……え? 勇者じゃないのかって?
今は勇者とエンターティナーを兼任しているのよ。
人を笑顔にする点では同じ! ってね。
そんな私だけれど今年は、母体となるプロレス団体が実質休止に追い込まれて、あわや路頭に迷うピンチ!
そこへ救いの神として現れたのが、例の王女様レタスレートだった。
なんか冬場に大盛り上がりなイベントがあるので手伝いしろだって、暇ならさ。
元王女の誘いに乗るのも何だか癪だけれど、生活がかかってるなら仕方ないわ。
乗ってやろうじゃないの、その儲け話に!!
ということでやってきたのは、人間国のとある場所。
ここで例年イベントは執り行われてるんだってさ。
そこで私たちは何をやるのかしら?
私たちのような綺麗どころを捕まえてやることは決まってるわよね!
ラウンドガールとかレースクイーンとか?
キャーッ!
人前で水着みたいな格好とかはしたないわ!
もしかしたら今まで封印していた私の美しさが露出と共に解放されて、それに気づいた紳士たちからの求婚が殺到するかも!?
「プロレスの時のコスチュームも似たような露出具合だったではないですか。その時も特に言い寄る殿方はいませんでしたが?」
やめてよセレナ!
冷静に現実を諭してくるの!
そうだとしてもところ変われば見る目も変わってくるかもしれないでしょう!
そして実際に現場へと乗り込んでみたら……。
「さー、いらはいいらはいいらはい! 豆が安いよ! めでたい日には豆でお祝いだよー!!」
元王女様のレタスレートは、豆を売っていた。
あまりにも予想通り過ぎて逆に驚くわ!!
売店のようにしつらえられた一角に、大群のお客さんが雪崩れ込んでくる。
凄まじい人波だわ!
アイドルコンサートもかくやという具合に!
何故か皆、元王女の売る豆を求めにくる!!
「豆と言えば縁起物! 魔を祓い、一つ一つに生命が宿っている! その豆を一粒食べれば病気を消し去り寿命が延びる! 二粒食べればもっと病気を消し去り寿命が延びる! そもそも栄養満点! 食べて損があるわけがない! お母さんが食べてもお子さんが食べても万事オッケーよ!」
また流暢な売り文句で客を呼び込む呼び込む。
コイツ、手慣れてやがるわ。
「豆のままだと食べにくいなら豆腐、豆乳、味噌、おから、様々なバリエーションがあるわ! 特に豆乳は栄養満点さらに液体だから赤ちゃんに飲ませるのにも打ってつけ! 離乳食にオススメよ!!」
「納豆もオススメですよ」
レタスレート元王女の小気味よすぎる売り文句に人々が吸い寄せられて買っていく。
私たちに与えられた仕事は、売り子だったわ。
要するに買い求めに来たお客さんに求められた分だけの豆を計って、袋に入れて、適切な料金と引き換えに渡す。
セレナはあっちで豆腐の量り売りをしているみたいだわ。
どちらも凄まじく忙しくて息つく暇もないわ!
なんという押し寄せる人! 私たちのプロレス興行と比べ物にならないじゃない!
なんなの!?
豆って、この世界じゃこんなに大人気なの!?
「正確には豆じゃなく、オークボ城というイベントが人気なのでしょうね」
クソ忙しい中でも律義に解説してくれるセレナ!
いい人ね大好きだわ!
「数年前から突如として起こった年に一度のイベント。しかしながら類を見ぬほど盛況でマニアまでいるということです。お陰で毎年必ず開催され、来場者数は万単位だと……」
凄いじゃない。
この元王女が出店してる豆屋台は、その大久保嬢? とかいう祭りにあやかって、こんなに千客万来なわけね。
この豆屋台だけじゃなく、左右には色んな出店が並んで売り上げを競っているようだし……。
「うおおおおーッ! このトリ女と豆王女のコンビがー! 今年こそウチのゴンこつラーメンが売り上げトップに立ってやるのだー!! テメーらを下してなぁあああああッッ!!」
「今年も私たちが勝者確定よ! って言うか毎回アンタどうしてレギュレーション違反にならないのよ!? 劇物でしょうがそのスープはぁ!?」
ライバル店らしきものと鎬を削って、その相乗効果によって盛況を博している。
脇の売店ですらここまで熱いなんて。
メインの大久保嬢とやらはどれだけ物凄いイベントなの!?
「気になるなら見に行ってもいいわよ」
とレタスレート王女、私たちの興奮を察知したのかやってきた!?
「えッ、でも売り子の仕事が……!?」
「どっちみちオークボ城の本戦が始まると客は引いていくのよ。当然と言うべきだけど、皆オークボ城を観戦しに来てるんだから、私たちはその盛り上げ役に過ぎないわ」
たしかに……。
皆ここで買った豆をボリボリしつつ観戦するのか……。
「むしろウチら売店は開戦直前の今辺りが忙しさのピークね。あとは終わったあとお土産目当てで賑わうから、その時に手伝ってくれると助かるわ。だから本戦中はアナタたちも見物を楽しんでくるといいわよ」
レタスレート王女……!?
人使いの荒い鬼かと思いきや、こんな心配りのできる御方だったなんて……!
「もちろん、私の育てた豆をボリボリつまみながらね! ハイ持っておいき!!」
バン!
と一抱えほどの大きな袋に入った煎り豆を渡された。
これ持って遭難したら多分一ヶ月は生き延びられる。
そうね……こういう人よね……改めて確認するまでもなかったわ。
「……モモコ、せっかくの好意ですし、見に行ってみましょう。実は私も一度は見てみたいと思っていたんです。遠く魔都にまで届くほど評判のオークボ城というのを」
セレナまで浮足立つなんて。
ここに来るまでまったく興味がなかったけど大久保嬢とやら、想像以上にマーベラスなイベントのようね。
話の種にもなるし、ここは一つ見分してあげようじゃないの。
この勇者モモコがね!!
* * *
観客席は人だかりで、あわや人の頭しか見ることができないかと思ってたけれど、レタスレート王女から穴場を教えてもらって絶好のポジションから見ることができた。
「ここからならオークボ城の全景を見渡すことができますね。さすがレタスレート王女! 関係者はいい情報を持ってます!!」
セレナが異様に興奮気味。
大久保嬢ってそんなに一大イベントなの?
私は会場? の全景を見渡してもまだどんなことが行われるかまだ具体的に想像つかないのに。
そういえば私、この大久保嬢ってのに一回誘われたことがあった気がするわね?
でも断ったんだったわ。
あの時は聖者の農場探しに全力を注いでいたし、その跡はプロレス興行にかかりきりになっちゃったのよね。
我ながら前しか見ない性格だわ。
それで前しか見ずに走り続けてもなお、聖者の農場は見えてこないんだけど。
「……あッ、始まりましたよ!」
どうやら大久保嬢なるイベントが火ぶたを切ったようね。
思った以上に広大なフィールドの、一番下からたくさんの人が駆け出してくる。
一人一人が群がって、遠くから見ていると黒い一塊が押し寄せてくるかのようだわ。
まるで映画で見た戦争のシーンみたい。
……はッ!?
もしや大久保嬢って、オークボ城ってこと!?
お城を攻めるイベントなのね!
だからフィールドの奥に名古屋城みたいな天守閣があるのね!
やっと納得したわ!
そして城攻めに押し寄せる人たちはやがて、一つの壁にぶち当たった。
壁というか……障害?
地面を寸断するように掘り刻まれたお堀に、細い橋がかけてある。
脚一つ乗せるのが精いっぱいのあの細さは……橋というより平均台ね。
落ちたら真っ逆さまのお堀の上を、ちょっとバランスを崩しただけで踏み外しそうな細い平均台を伝って渡る。
アレはまるでアスレチックのようじゃない!?
そしてその平均台を渡り終えた後は、なんと坂から転がり落ちてくる巨大な大岩!?
参加者たちは果敢に駆け上り、大岩をよけつつ坂の頂上を目指していくわ!
これもまるでアスレチック!
そうか!
オークボ城というイベントは……!
SAS○KE!!
オークボ城はSA○UKEみたいなイベントのことだったのね!?






