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104 春

 冬が去った。

 ということは春だ。


 雪解けの水が川を伝って海へと流れ込んでいる。


 耐え忍ぶ季節が去ったことに、我が農場の住人たちは喜びに満ち溢れていた。


 しかしまあ、春が来たってことは、こう考えていいのかな?

 俺が異世界に渡って一年が過ぎ去ったと。


 思えば冬到来前、好き放題にしまくったからな。


 畑を拓くのはいいんだが『至高の担い手』やらハイパー魚肥やらで際限ない種類を際限なく育てていった。

 月何回収穫したのかわからん。


 しかし、それだけたくさんのことができたということは、俺がこの土地にやって来た時期は春頃だったということだろう。

 ここで作業中、多少暑い期間があり、そこからだんだん涼しくなっていったような記憶もある。

 そして今日、新たなる春。


 一年か……。

 本当に色々したな一年。


 ここは、この一年でしてきたことを振り返って、これからの一年どうしていくかの材料とするか。


 過去の一年で作ったもの。

 まずはなんといっても畑だ。

 何しろここは農場だから。


『至高の担い手』で苗を作り、ハイパー魚肥で成長促進する禁じ手コンボで好きなものをガンガン量産。増える住民に即してどんどん面積を広げていって、正確な広さは俺にも把握できていない。


 ヘクタール……、ってどの程度の範囲かもわからないし。

 一応区分けした畑を一枚として、今は八十枚ぐらいあるかな?


 最初の開墾と、種植え、――といっても『至高の担い手』持ちの俺が土を触るだけの作業だけど――、を俺がやって、残りの管理はゴブ吉率いるゴブリンチームに任せてある。


 一部は特別なエリアとして田んぼがある。

 米が食いたい俺が無理して開墾して、そのためにわざわざ水路まで引いたんだが、収穫した米は皆に好評で、田んぼを拡張する案も出ている。


 と言うか餅をもっと食べたいからもち米を増産しろという要求だが。


 畑関連についてはこんなものか?


 だがウチの農場は恵まれていて、近くに海もあれば山もある。

 両面を山海に挟まれていながら耕地にできるほど広い平地があるというのもまた恵まれた話だが。


 山も海も自然の恵みの宝庫だ。

 無論時には恐ろしい天災をもたらすこともあるが、畑からの収穫が芳しくない時は、どちらかに入って食料採種すればいい。そう思うだけで随分心の余裕が出てくる。


 実際、飢えはしなくとも畑のものとは違った味を求めて、山や海に入ることはしょっちゅうだ。


 特にヴィールの山ダンジョンもあり、美味しいモンスターのお肉を求めてオークボたちが、よくダンジョンに入る。

 運動不足解消や気分転換を求めて人魚のランプアイやエルフたちもダンジョンに入っているようだ。


 それはもちろんノーライフキングの先生が管理している洞窟ダンジョンも同様。

 ウチの住人たちが侵入すると、先生は孫が遊びに来たかのように喜んで、適度な難易度のモンスターを差し向けてくれる。


 ダンジョンで獲得できる素材は、イノシシモンスターの美味しい肉を代表に、洞窟ダンジョンでのみ産出する貴重な鉱物マナメタル。

 他にも様々にあるが、有効利用できるかどうかは俺たちの腕次第。


 ヴィールは、より多彩な素材を獲得できるようにダンジョンを改造して広くしたが、そこに俺がさらに手を加えて面白い形にしてみた。

 その件については後に詳しく話そう。


 次は建築物関係。


 その中心は何と言っても俺の寝起きする母屋だ。

 最初はお屋敷とか呼んでいたが、他にも建物が乱立するようになり区別のため母屋と呼ぶようになった。


 農場の主人である俺や、その妻であるプラティが寝起きしている。

 他、あとから増築した区画に、魔族コンビのバティやベレナ、人魚トリオのパッファ、ランプアイ、ガラ・ルファなどの部屋がある。

 被服担当のバティの作業場もそちらだ。


 あと、前に魔王ゼダンさん夫妻が寝泊まりしていた離れはそのままとってある。

 今でも二人が遊びに来た時は、そこに泊まってもらおうと大事に保存中だ。


 その他にモンスターチームが住むモンスター長屋がすぐ傍に。

 モンスターチームも十人から百人に増員したので、建て増しされた長屋の規模もけっこうなものだ。


 普段彼らも仕事のない時は、自室でトレーニングしたり、集まってゲームに興じたり、自主的に鉢植えの植物を育てたりと思い思いなことをしているようだ。

 文化的だなあ。


 一番のニューフェイスであるエルフたちにも寝床を建ててあげようとしたが、彼女らは拒否。

 森の民として、屋根の下では寝ないプライドがあると言うのでひとまず引き下がった。

 普段は、作業場で雑魚寝したり、森の中でハンモックを広げて休んだりしていた。


 でもそのうち、プラティたちが着ている可愛いパジャマが気になりだした。

「自分たちもああいう可愛いのが着たい!」と言って被服担当のバティに押し掛けたところ……。


「ああぁ? アンタらは野宿して一晩のうちに泥まみれにするでしょうが!」


 と断固拒否されたという。

 仕方なく、母屋近くの適当な土地に自分たちで小屋を建て、そこで寝るようになった。


 そこまでして可愛いパジャマが着たいのか……!


 女の子のオシャレ心が種族のプライドに勝った。

 ちなみにエルフたちが建てた小屋はログハウス風だった。


 住居に関してはそんな風だが、もちろん他の目的で造られた建物も他にある。


 その際たるものが、人魚チーム管轄の醸造蔵。


 味噌醤油漬物と言った発酵食品がここで作られている。

 こういった作業は、薬学魔法を使う人魚族の独壇場。


 我が農場で、主人の俺を除けば最古参がプラティになるため、この醸造蔵もかなり初期に作られた施設だ。

 これまでホントお世話になった。


 プラティと醸造蔵があったおかげで、俺は比較的早めに故郷の味を取り戻すことができた。


 他にも、収穫した農作物やダンジョンで狩った肉を保存する食糧庫もある。

 薬学魔法で中の温度を低めに保ってあるので、まさに巨大な冷蔵庫といった感じだ。


 建築の際にかなり奮発して、母屋に匹敵するぐらいの規模にしたがその判断が本当によかった。

 畑とダンジョン、それに海から大量に得られる食物を、何とか収めきれている。


 冬を難なく乗り越えることができたのも、大量の備蓄をこの食糧庫に収めることができたからだ。


 これまでは普通に管理していたが、元盗賊のエルフたちが住人に加わったため警備体制を強化しようという案が挙がった。

 俺としては共に生活する仲間を疑いたくはなかったが、用心にランプアイが侵入防止用のトラップ魔法薬を仕掛けたところ、見事にエルフたちが引っかかって爆散していた。


 捕えて話を聞くと、小腹がすいてつまみ食いしたかったらしい。

 ……それぐらいなら言えば簡単な料理を拵えてやるから素直に言いなさいという話で収まった。


 さらにガラ・ルファが管理する酒蔵。

 このほどビール製造に成功したため、今年からもっとも注目されるであろうことが期待される区画。


 酒は人生を豊かにするが、酒は飲んでも飲まれるなと言うことで、管理は厳重にしておこう。

 ガラ・ルファは、まだまだモチベーション旺盛。ビールの量産体制を確立する傍ら別種の酒製造にも挑戦したいらしい。


 米が出来たので日本酒や焼酎も作れるだろうし。ウイスキーやウォッカって何から作るんだっけ?

 ワインはまだまだ遠いな。だって、材料となるブドウどころか果物自体生産してないからなウチ。

 ……。

 フッ。

 それももうすぐ終わりを告げるがな。


 他にも、毎朝健康な卵を産んでくれるニワトリ型モンスター、ヨッシャモの鶏小屋や、金剛絹を吐き出す金剛カイコを飼うお蚕部屋。


 細かく見るとまた色々な施設ができたものだ。

 数え上げるのも大変だな。


 窯も、料理するもの陶器を作るもの、炭を焼くもの色んな種類があるし。

 ガキヒトデを利用したトイレも、今ではすっかりお馴染みだ。……あ、陶器を焼けるようになったので、便器を焼いて洋式に変えたんだぜ! これは皆から大好評!


 それから、それから……!


 ……あ。


 そういえば。


 まだ風呂を作ってない!?


 何たる不覚!

 田んぼやら陶器窯の方に意識が行ってて、つい忘れてしまっていた。


 よし、今年の目標が決まったな。


 今年こそはお風呂を作るぞ!!

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