1045 守護する精霊
それから一~二時間ほど、大地の精霊チームと産土神チームに分かれて熾烈なスポーツ合戦が行われた。
「スーパーノヴァですー!」
『ライトニングクラッシュだべー!!』
なんかよくわからない必殺技が応酬している。
試合結果は一二四七対一二四七で同点。
こんだけ互いに点取られまくったら、それはもう泥仕合では?
しかしそれでも双方、手ごたえのある試合だったのか最後には充実感を持って固い握手を交わした。
なんだこれ?
『ふむ……これは、引継ぎが上手くいったようだな』
「引き継ぎ?」
監督然としている菅原道真公。
腕組みして満足げな表情だった。
なんぞこれ?
『産土神たちは試合を通して、生命の誕生にまつわる守護と加護の力を、大地の精霊たちに伝えたのだ。いまやあの子らは充分に産土神としての権能を備えておる。この世界で人々のお産を助けることができよう』
マジですか道真公!?
あの試合にそんな意味が!?
ただ単にサッカーボールをバットで打ち出して、ホームランになったのをタッチダウンでしかるのちにジャーマンスープレックスホールドしただけにしか見受けられませんでしたが!?
「ひっ、ひっ、ふーですー」
「ひっ、ひっ、ふーですー」
これは!
大地の精霊たちが既にラマーズの呼吸、一の型を習得している。
まだまだ医療体制が充分整っていないファンタジー異世界。精霊たちが枕元になって呼吸を合わせてくれるだけでも充分な効果が出るのではあるまいか。
「われ、あらたなるちからを得たですー」
「めぶくタネのために、ふりそそぐ慈雨となるですー」
言うこともなんかそれっぽい。
『大地の精霊は、この地上、土と木があるところどこにでも現れるし、冥神ハデスの神気が込められればいくらでも増えて世界中に溢れかえるだろう。まさに助産を手伝わせるにはピッタリだ』
満足げに頷く道真公。
それを見て、この世界のお産の女神エレテュイアさんは感涙した。
『これで……これで未曽有の繁忙期を乗り越えられる……! 休みも取れる! サビ残も免除ぉおおおおおッッ!!』
やっぱサビ残か。
まあいい。
それにしても家でお馴染みの大地の精霊たちにそんな大役が任せられるなんて……。
誇らしいと思う反面、どこか心配でもあるな。
「だいじょぶですー!」
「このせかいのために、ふんこつさいしんで働くのですー!!」
「めっしほうこうですー!!」
実に頼もしい口ぶりであった。
『はー、オラたち結局、来た意味なんもなかったべなー』
『サッカーしただけだったなー』
『当日来られねえんだから、どうしようもないべ』
『お産は産屋で起きてんだ、出雲で起きてんじゃね』
産土神たちも口々に、助けになれないことを悔いている口調だったが、それで充分だ。
だが失望しないでくれ。
キミたちがやろうとしていたことは大地の精霊たちに引き継がれ、きっと望む成果を上げることだろう。
神無月が終わったらまたこっちに来て、俺たちの成果を見届けてくれ。
『よっしゃー、今度はコールドゲームで勝つベー!』
『33‐4だべなー』
『ワンターンキルだベー』
しかし情熱が殺気立っている。
ひとまず産土神たちにはお礼を言って、元の世界への帰途へついてもらった。
お土産も忘れずに。
それから少々の月日が流れ……。
* * *
この日がやってきた。
クリスマスから十月十日。
多くの妊婦が臨月を迎え、出産を今かと控える状態に突入している。
既に早産の場合には出産を終えた家庭もあり、少しずつ忙しなさを増していく現場にエレテュイア女神から『お願い! 早く来て!』とSOSが届くほどだった。
何故俺に訴える? という気持ちがないではなかったが。
俺は農場の一角に立ち、縦隊で居並ぶ大地の精霊たちと向き合っていた。
個人の話をさせてもらうと、プラティも充分臨月に入り、いつ生まれてもおかしくない状態。
でもとりあえずはまだ生まれる気配がないため、知らせてくれえればいつでも駆け付けられる距離にて、この未曽有の事態に配慮している。
向かい合っている大地の精霊たちは皆、一様に精悍な顔つきであった。
産土神から助産の加護を伝えられてから、それらをより上手く扱えるように訓練の連続だったから。
筋トレ。
走り込み。
座学。
大きな岩を剣で一刀両断にする修行、油まみれの柱を登る修行、ジャンプシュート二万本、重力百倍の空間で修行、呆れるほど単純で一瞬で済む最強呪文の習得修行……。
様々な修行を潜り抜けてきた大地の精霊たちは顔つきが違った。
俺、最後に総括を述べる。
「……ここまでよく頑張った。お前たちは、昨日までとはまったく違う。一人一人が一人前の兵士だ」
「れんしゅー頑張ったですー!」「れんしゅー量だけならナンバーワンですー!」「でもまける時はまけるですー!」
大地の精霊たちもモチベーション高く、今にも駆け出そうとうずうずしている。
もう待つ必要はない。
世界中の、キミたちの助けを求める妊婦さんたちのところへ行っておあげ。キミたちの大いなる活躍を祈る。
「いくですー!」
「よしいくぞーですー!」
「おーけー、れっつごーですー!!」
大地の精霊たち、空を駆け各地へと散っていく。
まるでタンポポの綿帽子が飛んでいくかのような情景だった。
俺はそんな情景を涙ながらに見上げていると、背後から声がかけられた。
「我が君! 奥方様が産気づかれました! 助産婦がついてお産の準備に入ります!」
ゴブリンの一人が報せに来てくれた。
とはいえオークボもゴブ吉も自分の子どもと奥さんに付きっきりなので、その他のオークゴブリンたちが一致団結して農場を守っている。
「すぐ行く」
俺は踵を返し、母屋へ向かって駆け出した。
心配はしていない。
今、この世界中のすべてのお母さんの下に、もっとも可愛くて頼もしい味方が駆けつけていることだろうから。
そして……
* * *
「いやったぁああああああああああああああああああッッ!!」
生まれた。
農場の聖者家、第三子無事誕生。
三度男の子であった。
元気に生まれてくれたんならどっちだってよいさ。
「やった! やった! やった!」
「おっけーおっけーおっけーですー!!」
ウチのお産を担当してくれた大地の精霊を抱え上げ、その有難い援助を讃える。
「ちょっと、一番頑張ったのはアタシなんだけど?」
「私だって頑張りましたよぅ……!!」
お産したプラティ本人と、助産婦を務めたガラ・ルファからクレームされた。
すまんすまん。
キミらの頑張りを無視してるわけじゃないから。
しかし元気な男の子が生まれてくれた。
早速命名しなければ。
……。
……。
…………閃いた。
今回とても頑張ってくれた大地の精霊たち。
そんなあの子らにちなんでショウタロウと名付けることとしよう。
精霊の『精』からとってショウくんだな。
あの精霊たちのように可愛らしく元気いっぱいに育ってほしいものだ。
「我が君我が君! オークボ殿の奥方も今にも生まれそうですぞ!」
「マリー様も同じく!!」
ええい、本当に畳みかけてくる。
いくら同時期の妊娠だからって同じ日に立て続けに産気づかなくたってよかろうに!
今は父親として大仕事を終えたプラティやショウタロウについてやりたいところだが、農場主としての責任もある!
ちょいとお待ちを!
今駆けつけるのでなあああああああ!!






