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1030 幼馴染妻の冒険

 四天王マモルの妻、アリアスよ。


 今日は私にとって勝負の時。

 ついに待ち望んだアスタレス妃との対面が叶うわ。


 マモルちゃんの妻として、あの人の役立つ振舞いをしなければ!!


 ……それで。

 やってきたのはどこかしら?


 マモルちゃんが言うには焼肉? というのを楽しむ会らしいのだけれど、それは具体的にどんなタイプの夜会なのかしら?

 茶会、晩餐会、舞踏会……。


 貴族の社交の集まりは色々あるけれど、焼肉会なんて催しは初めて聞いたわ。


 何をするための会なのかしら?

 名前の響きだけから察するにお肉を焼く会なのかしら?


 ……どういう会?

 悪魔崇拝の儀式とかではないわよね?


 想像するだけじゃ埒が明かないわ。

 魔王様も出席するからには怪しい集まりではないでしょうに、実際に出席して概要を掴むしかなさそうね!


 そしてやってきた焼肉会当日。

 私たちは転移魔法で会場へ向かうことになったわ。


 わざわざ転移魔法で?

 会場は魔王城だとばかり思っていたけど、そうでないばかりか魔都の外へ出るってこと?

 一体どこへ行くのかしら?


 転移魔法でとんだ先は何だかのどかな場所だったわ。

 建物が少なくて緑が多くて……。子どもの頃に行った保養地を思い出しますわね。


 こういうところに久々に来ると心落ち着きますわ。

 子どもを育てるならこういうところがいいかもねマモルちゃん。


「うん、そうだねー。って違う! いや静かな場所で子どもを育てたいのはいいんだが……!」


 いつにも増して情緒不安定ねマモルちゃん?


「違うというのは、そうしてのほほんとしている場合じゃないってことだ! この場には魔王様の御一家だけでなく人魚王や人間国のギルドマスター夫妻まで出席するとか! 高貴なる方々の心証を悪くすればダイレクトに派閥の立場も悪くなる! 些細なミスも許されないぞ!」


 たしかにマモルちゃんの言う通りね!

 情緒不安定になるだけの重大さがここにはあるわ!


 私はここへ遊びに来たんじゃない!


 煌びやかなる晩餐昼餐は貴族にとっての戦場!

 ドレスという鎧をまとってお世辞という剣を振るい、自家の利益を勝ち取りに行くのよ!


 特に今回は、明確な戦闘目標が設定されているからわかりやすいわ!


 目標、アスタレス妃にご挨拶!


 第一魔王妃にして魔族における女の頂点……アスタレス様にお目通りし認めてもらってこそ魔族の社交界での存在を認めてもらえるというもの。


 今までマモルちゃんが過保護でお近づきにもなれなかったけれど、これから母親になるからには強い女であらねばならない!

 逃げ続けるなんて許されないわ!


 ……ということでミッション一、まずアスタレス妃に接触!

 ミッション二、ご挨拶を述べて顔と名前を覚えてもらう!

 ミッション三、今までご挨拶に伺えなかった理由を当たり障りなく説明し、わだかまりを取り除く! その上でお父様のことを改めて謝罪!

 ミッション四、上手く打ち解けてアスタレス様との親交を勝ち取る!


 これでマモルちゃんの立場も安泰よ!

 さって、それでは肝心のアスタレス様を探さないと……!


 現場は思った以上に牧歌的だったわ。

 建物の外で行う……ガーデンパーティ風ね。


 しかも出席者が魔族に限らず、なんとも国際風味漂うパーティだわ。

 この中からアスタレス様を探し出すのは難しいかしら? いや簡単?


「ちょっと、そこのアナタ」

「はい?」


 戸惑っていたら声をかけられたわ。

 隣にいたマモルちゃんがヒックと喉を詰まらせた。


「あああああ、アナタ様はブラッディマリー様!?」

「見慣れない顔ねえ、農場のイベントには初参加かしら?」


 声をかけてきたのは、若く美しい女性だったわ。

 透き通るような白い肌に対して、髪の毛もお召し物も全部真っ黒だからコントラストが鮮烈だわ。

 肌の白磁ぶりもヘアーの黒艶ぶりもこの世のものとは思えないレベル。


 一体どなたなのかしら?

 肌の色から察するに人族ではないかと思うけれど、なんとなく気配がからただ者でないと察せられるわ。

 人をも超越したナニカのような?


 とにかく無下にしてはいけない相手と本能が告げてくるわ。

 本能からの警告に従いましょう。


「お声がけいただきありがとうございますわ。魔王軍四天王『貪』のマモルが妻、アリアスと申します」

「ニンゲンのくせに礼儀正しいのが来たわね。名乗られたら名乗り返すのがニンゲンたちの礼儀と言うから倣ってあげるわ。私はグィーンドラゴンのブラッディマリーよ!」


 グィーンドラゴン?

 人族の氏族名かしら?

 ヤバいわ、魔族の氏族や家名は頭に叩き込んではいたものの、さすがに人族まではカバーしきれないわ。


 こういう時こそ貴族奥義の一つ……知ったかぶりよ!!


「それはどうもご丁寧に、グィーンドラゴンの威名は魔族の間にも轟き渡っておりますわ」

「えッ! そうなのッ!?……い、いいじゃない魔族って私が思っている以上に優秀な種族ね!!」


 挨拶代わりのお世辞がうまくヒットしたわ。

 あとはボロが出ないうちに手早く切り上げて離脱! 知ったかぶった時の鉄則だわ。


「どどど、ドラゴンの女王と直接会話……!? あばばばばばばば!?」


 マモルちゃんの様子もおかしいし、この女性にはあまり関わりすぎないのが吉と、私の貴族センサーが判断しているわ。


「楽しく歓談したいところですが私、早急に挨拶しなければいけない方がおりますの。名残惜しいですがいったんここで失礼いたしますわ」

「挨拶? なら私にすればいいじゃない! 全生物の頂点に立つドラゴンの皇妃たる、この私にね!」


 やっべぇ、話通じない人なのかしら?

 言うこともいちいち大袈裟だし田舎から出てきたおのぼりさんって感じかしら。


「いえあの魔族には魔族の上下があると申しますか……」

「あッ、魔族ってことは魔王ね。魔王! 魔王~! ちょっといる~ッ!?」


 はあッ!?

 この田舎者! 何魔王様を名指しで呼び捨てになさってるの!?

 やめてくださいな、私たちまでとばっちりを食らうでしょう!?


 慌てるうちに時すでに遅し、なんと本当に魔王ゼダン様がやってきてしまったわ!


「何用かなマリー殿、アナタが我を呼ぶとは珍しい」

「この女性がアナタに用らしいのよ。なかなか見どころのある人で気に入ったわ。丁重に扱ってあげなさい」


 魔王様似なんて口の利き方するのぉおおおおッッ!?

 ヤバいわコイツ。想像を遥かに超える田舎者はそもそも貴族との相性が悪かったのよ!


 魔王ゼダン様も、魔王妃アスタレス様と並んで私たちと遺恨のある御方!

 そもそも我が家没落のきっかけはお父様がゼダン様の怒りを買いまくったからだし、ゼダン様本人だって充分要注意な御方なのだわ。


 その魔王ゼダン様と前準備なしでぶつかるなんて、私の社交しょっぱなから大ピンチだわ!


「ん? そなたは……?」


 魔王様が私を見て、不思議そうな眼付をなさっているわ。


「んー、ああ。マモルの細君殿か」

「はい、そうですわ!!」


 今明らかに、隣に立ってるマモルちゃんを見てから当たりをつけたわよねッ!?


 魔王様、そもそも私の顔を御存じない!?

 一時は妃候補にも挙がったというのに!?

 私自身魔王様には欠片ほどの興味もなかったけれど、自分にも欠片ほどの興味もないのは何となく腹が立つわ!!


「マモルは、細君を公の場には連れ出さないことで有名であったのに。珍しいこともあったものだな。そうか、マモルもついに父親となるか」

「ご、ご明察で……!」


 殿方には殿方のお付き合いがあるわ。

 魔王様のご対応はダンナ様であるマモルちゃんにお任せ、妻は三歩後ろへ身を引いておくわ!


「ここへ呼ばれているということは、妻が懐妊したということだからな。直系の跡取りができて貪聖剣の継承家系も安泰というわけか」

「その節はご慈悲を頂き、家系だけでなく派閥の存続までお許しいただけたのは感謝のしようもなく……!」

「よいよい、もう随分昔のことに何度も礼を言われても、こっちが恐縮するわ」


 魔王ゼダン様、お噂の通り大らかな御方ね。

 そのゼダン様をブチ切れさせたお父様がクソ過ぎるんだわ。なんであんなのが四天王やっていたのかしら?


「かつては最悪であった『貪』の派閥も今では大分評価を持ち直している。すべてはマモル、卿の働きぶりによって。もういい加減胸を張ってもいいだろう。細君をこの場へ連れてきたのもその一環ということではないか」

「はい……今回の催しは聖者様の主催ですので公のものではありませんし、だからこそ余計な邪魔もなく妻を拝謁させられると愚考し……」

「過保護なことよ。“魔国一の愛妻家”という呼び名は伊達ではないな」


 ウチの旦那様そんな風に呼ばれたんですか!?


「我が妻たちは向こうの方に固まっておる。細君もそこへ案内するがいい。奥方よ、今日はそなたの晴れ舞台、焼肉を楽しむがよかろう」

「は、はい……!?」


 だから焼肉って何なのかしら?


 とりあえず魔王様への面通しが無事澄んだのは僥倖ね。この意気で何とかアスタレス様まで直進し、誼を通じてみせる!


 そして夫の地位を盤石に!

 それが四天王の妻としての務めよ!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 奥様…貴女も立派なクローニンズの仲間でしたね
[一言] 本家ゆうな嬢と同じくらい世間知らずな奥様だった!?
[良い点] やはりマモル夫妻……似た者夫婦!
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