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1029 苦労人の妻

 私はアリアス


 魔王軍四天王が一人『貪』のマモル様の妻ですわ。


 先代『貪』の四天王ラヴィリアンの娘でもあります。


 マモルちゃん……もといマモル様が四天王に抜擢されたのも、私と結婚した面が大きいですわ。

 現状、四天王の選抜基準はまだまだ家門主義が占めていますので。


 それでもマモルちゃんが四天王に選ばれたのは実力によるところだわ!

 マモルちゃんは小さい頃からお父様に仕えて一杯働いていたもの!


 その傍らで私の護衛も務めてくれて、私が魔族淑女学校に通っていた頃も毎日のように送り迎えしてくださったわ。

 当時四天王補佐のお仕事も忙しかったでしょうに、なんともマメな人だったのあの頃から。


 でもあまりに過密スケジュールじゃないかと一度、送り迎えを断ったことがあったの。

 そしたらマモルちゃん、真っ青になって……。

 ――『お嬢様のお気に障ることを何かいたしましたか?』

 ――『もしやナンパしようとした令息魔族を裏でシメたのがバレましたか?』

 って。

 あんまり深刻そうだったんで、やっぱりその後も送り迎えをお願いするようになったのよ。


 あの頃からずっと、頼れるけど可愛い人と思っていました。

 元々幼少期からの知り合いで、小さい子どもであった時には『お兄様』と慕っていたのよ。


 それがいつの間にかお互い身分にがんじがらめにされて……。

 結婚できるなんて夢にも思っていなかったわ。


 そこは結果的に、お父様が大チョンボをやらかしてくれたおかげよね。


 私のことを無理矢理魔王様と結婚させようとしたお父様は死んで地獄に落ちてしてとも思ったけれど、こうなると万々歳だわ。


 こうして私としては何から何まで望んだとおりにマモルちゃんと一緒になれて。

 長年懸念されていた跡継ぎもやっと授かって順風満帆だわ。


 何一つ欠けるものなくすべてが満ち足りているように見えるけれども。


 ……だからこそやっぱり捨て置けないことがあるの。


 先ほどもちょろっと話題に出てきた、我がお父様の大チョンボ。

 一言で言い表すと、権力争いに敗けたというか……。


 ……いえ、あれは自滅に近かったわねどちらかと言うと。


 お父様は、四天王としてさらに上のランクに行きたかったんでしょうけれど。

 そのための手段として愛娘を現魔王様に嫁がせようとしたのがね……。

 すべての失敗の始まりよね。


 魔王様にはアスタレス様というド真ん中の想い人がいたのだから。

 隙間がないんじゃ捻じ込みようがないのよ。


 それなのに諦めの悪いお父様は無理矢理アスタレス様を排除したんだもの。

 当然のように魔王様の怒りを買って、出世どころか破滅の危機よ。


 暗躍もすべて明るみに暴かれて、あばばよ。


 お父様は責任を取って処刑。

 上手く凌げてもどこぞの僻地に生涯幽閉もありうる大罪。


 私も連座は免れず、人質も兼ねてどこぞの知らないおじさんの後妻に嫁がされるのが運命であったわ。

 さすがにあの時は、お父様の娘に生まれたことを呪ったわよ。


 でもそんな運命から救ってくれたのがマモルちゃん。


 マモルちゃんは、お父様の目論見の破綻が読めていたのね。


 だからいち早く動いていたらしいの。

 まずお父様が裏で動いていたのを魔王様に報告したのがマモルちゃんだったらしいのよ。

 魔王様がすべてを見通し、電撃的な処断を行えたのも、それが一番の原因だったらしいわ。


 それだけ見たら酷い裏切りに見えるでしょうけれど、マモルちゃんの考えは違った。


 あえて自分が寝返ることで、魔王様からの手柄を確保し、それを担保にお父様の『貪』派閥が全崩壊することを防いだのよ。

 事実として、お父様が追われたあとの『貪』派閥は、魔王様への忠誠を示したマモルちゃんの預かりとなり、大粛清のちに跡形も残らない消滅は回避された。


 さらにそのあと魔王様が不在の時期があって、マモルちゃんがベルフェガミリア様と一緒に魔王軍を鎮めて難局を乗り切った。


 そのことが評価されてマモルちゃんは次の『貪』の四天王になることを許されたのよ。


 同時にお父様への処分も公職追放ののち隠居という、仕出かした罪に対してありえないほど軽く済んだ。


 それもマモルちゃんが、額を地面にこすりつけて助命嘆願したからだそうよ。


 そうマモルちゃんが先んじて寝返ったのは、すべて魔王様の心証をよくしてお父様の罪を軽くするため。

 ただ派閥を乗っ取って、自分が親玉になりたければすべての罪を旧当主に押し付ければいいのに、それでもせっかくよくなった心証を悪くしてでもお父様の助命を願い出たのよ。


 それなのに派閥の中にはマモルちゃんを悪く言う人がいたわ。

 ――『みずからの栄達のために主を裏切った』だなんて。

 それどころか私にまで言い寄る人がいて『裏切り者に無理矢理娶らされて可哀想ですね』とか言ったり、あまつさえ『オレが娶り直してあげましょうか? そして裏切り者を追放しましょう』とか言いだすのよ!


 そういうヤツは漏らさずマモルちゃんに報告して逆に潰してやったわ。


 ……そんな風にマモルちゃんは四天王になる前から、なってからもずっと苦労しているの。

 魔王様や他派閥に対しては忠誠心のあるところを最大限アピールし、派閥内からは裏切り者呼ばわりされながら立て直しに奔走してきたわ。


 それなのに文句一つ言わず魔王様のため魔国のため派閥のため、働き続けるマモルちゃんは本当に偉い人よ。

 お父様より断然四天王の資格があるわ。


 そんなマモルちゃんに対していつも私は不甲斐ないわ。


 そりゃ、私と結婚したことで『貪』の四天王になる資格を得られたけれど……。

 私の価値ってそれだけなの?


 もっともっとマモルちゃんの役に立ちたいわ。

 子どもの頃からずっと私のことを陰から守ってくれたマモルちゃんに、少しでも恩返ししないと。


 そう思っていたからここ最近になってやっと子宝に恵まれたのはホッと一息という感じよ。

 やはり結婚してから何年も経って子が出来ないと、周りが喧しいのよねえ。


 いくら貴族にとって跡取りが切実な問題だとしても、それを引き合いに出せば何を言ってもいいって思ってるヤツが多すぎるのよ!!


 私は別に一生ずっとマモルちゃんと二人きりでもよかったのに、私もマモルちゃんも行く先々で色々言われたものだわ。

 ――『アスタレス妃はもう二人目をご出産あそばしたのに』とか。

 ――『やっぱりアリアス様を、魔王妃に擁立しなくて正解だったわね』とか。


 誰も魔王妃なんて望んでないって言うのよ!!

 それでもお父様の失脚直後は、側室という意味合いで魔王様の第三妃に……という話も出たらしいから堪ったものじゃないわ。

 第二魔王妃に収まったグラシャラ様は、愛し合う魔王様アスタレス様の間に割って入れるだけの強い恋心があったからああなったわけで。


 ……正直魔王様のことが好みでも何でもない私としては、とても同じ結果を掴めそうにないわ。

 私の好みは……そう、いつも私のことを見てくれて陰ながら守ってくれる人なのよ。


 そんな状況だったからついに子宝に恵まれて、まずホッとしたってのが第一だったわ。

 マモルちゃんは心底から喜んでくれたけれど。


 そしてだからこそ私も、四天王の妻として踏み出さなければいけないと思ったの。


 聞くところによれば魔王妃にあらせられるアスタレス様グラシャラ様も同時に懐妊なさったとか。

 なんだかあっちこっちで赤ちゃんができているわね。


 お二人にご懐妊の祝いを述べ、同時に貪聖剣継承家系に第一子が誕生すること。

 直接ご報告するには充分な事柄だと思うわ。


 それを相談したら、マモルちゃんやっぱり慌て初めて……。


「いややめておかないか!? 妃殿下たちはお嬢様にどんな感情を抱いているかわからないし……!!」


 だから“お嬢様”じゃないでしょう?


 そう言ってマモルちゃん、ずっと私とアスタレス様を会わせてくれないんだから。


 結婚以来一度もよ?


 女には女の付き合いもあるわ。

 魔国を支える魔王軍四天王、その一人であるマモルちゃんの妻が、魔族の女の頂点に立つ魔王妃に拝謁しないなんて外聞が悪すぎるわ。


 たしかに私のお父様はかつて四天王であったアスタレス様と政敵同士であり、互いに失脚させ合った仇敵でもある。

 その娘である私にも悪感情を持っているかもしれないけど、それを理由にして一生会わないでいることなんてできないわ!


 悪感情のとばっちりという意味ではマモルちゃんも同じ!

 そんなマモルちゃんが毎日のように登城して、魔王様たちに謁見している大変さを思えば、私だけ安全圏に隠れているなんてダメダメよ!


 長年マモルちゃんが頑張ってきたおかげで貪聖剣の派閥も大分地位が回復して、内部もまとまってきたわ。

 今やお父様がトップに立っていた頃より規模としては大きいのよ。


 ここで私が魔王妃に拝謁して、どんな形でも繋がりを持っておけば、マモルちゃんのこれからの地位も安泰だわ!!

 少なくとも面識なしより悪いことにはならないはず!!


 だからマモルちゃん! 魔王妃様とのお茶会でも何でもいいからセッティングしておいて!

 子どもの頃からマモルちゃんに守られっぱなりの私は結局肝心なところをマモルちゃんに投げっぱなしにするのだわ。


 ……そして日にちが経って。

 さすがのマモルちゃん、魔王妃様との会見の機会をもぎ取って来たようよ。


 え?

 焼肉会?


 茶会でも何でもいいと言ったけれど、さすがにお肉を焼く会は想定の範囲外よ?

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