1028 一部は全部
焼肉パーティもたけなわ。
プラティを始めとした妊婦の皆様は、思った以上に焼肉を気に入ってくれたようでガバガバかっ食らっております。
「皿が空いたわよー! お代わりじゃんじゃん持ってきてー!!」
「腹がはち切れるまで食う! 今度いつこんな美味を食せるかわからない!!」
ミノタウロス牛が持たせてくれた百年分の肉が見る見るうちになくなっていく。
これがなくなれば、また次食えるのが本当に十年後になってしまうので本当に貴重なお肉だ。
今日のメインディッシュに相応しい。
妊婦たちがエキサイトしているのを見守りつつ、俺は煤っと下がって場所を移った。
そこには奥さんたちを連れてきた旦那さんたちが集合していた。
「皆さんお疲れ様です……」
本日はわき役に徹している旦那衆へ声をかける。
さすがに身重の奥様方を一人でよこすわけにもいかないのでな。エスコート役として旦那様たちも来てもらわなければならなかった。
そして夫婦で訪れるなら子どもたちだって必須だ。
既に長男長女が生まれている家庭は、幼い子らも伴って焼肉パーティーに出席していた。
「聖者殿、本日は素晴らしい催しに招いていただき、まことにありがたい」
最初に一声上げたのは魔王さんだった。
この辺り、さすが地上覇者の貫禄。
「どう頑張ろうと男に出産はできぬ。女性に任せるしかない仕事を任せるのは、わかっていてもどうにも肩身が狭いもの。そんな折に妻たちをねぎらうために、こんな大きな催しをする聖者様には頭が下がりますな」
なんのなんの。
皆さんだって奥さんに尽くしていますよ。
魔王さんの他にもアロワナさん、ヘンドラーくぅん、オークボにゴブ吉、ダルキッシュさんにシルバーウルフさん、アードヘッグさんなどいつものメンバーが参加している。
珍しいところだと魔族のマモルさんとか。
あとバティの旦那さんのなんて言ったっけ? オルバさん?
どうぞ楽にして、魔王さんの隣でおくつろぎください。
ところで皆さんも焼肉はお口に合いましたか?
奥さんチームのために用意したと言えど、厳密に限定というわけにもいきませんからな。
だから旦那さんチームもご相伴に預かって、焼肉パーティが執り行われている。
「いつもながら聖者殿の作り出すものは凄いですな。ただ肉を焼いただけだというのに、ここまで素晴らしい美味となる」
「肉など焼けばただ硬くなるだけのはずが、舌の上で蕩けるなど誰が予想するでしょう!」
男性陣にも焼肉はすこぶる好評だ。
中でも特に人気なのがカルビで、脂身たっぷり柔らかな食感が人気のようだ。
さらには希少部位ハラミの独特食感。タンをレモンであっさり食すのもよい。定番のロース。
ミノタウロス牛も心得たものか、しっかり部位を分けてくれていたので本当に焼肉屋で食べる気分だ。
「こんなに美味しいと酒が欲しくなってきますな!」
「たしかに! 冷たいビールで火照った口の中を冷ましたいですわ!」
やめましょう。
奥さんたちが妊娠中で飲めない傍ら旦那たちで酒盛り始めようものならヒンシュクですよ。
今日は奥さんたちをねぎらうためのイベントなんですから、我々は控えめに過ごしましょう。
「その件に関してものもーすのだー!!」
うおッ? なんだ?
いきなり挑戦的な声が上がったのでビックリして振り向くと、そこにはヴィールがいるではないか?
そんなヴィールが引き連れて、他にも農場の住人たちが列をなしている。
エルフたちやサテュロスたち、それに農場学校の生徒らも?
「一体なんだ? 何のデモ行進だ!?」
「ご主人様! ズルいのだ! おれたちには焼肉を食わせないなんて! そんな差別は撤廃してやるのだー!!」
そうだそうだー!
オレたちにも焼肉を―!!
と抗議の声が一斉に上がる!?
そんな、俺は出産を控えた妻たちの応援&感謝のために焼肉を用意したので、まず第一に彼女らに食べてもらいたいと思うのは仕方のないこと。
だがそうだな……焼肉と言えばスシゲイシャと並んでご馳走の代表選手。
それを一部で独占しようとすれば暴動が起きるのは当たり前。
独占禁止法に抵触するよな。
安心してくれ皆!
ミノタウロス牛から預かってきたお肉はまだまだたんまり、百年分ある!
農場銃の皆で食べても全然消費しきれない分あるんだから、皆で分け隔てなく無差別に、焼肉パーティとしゃれこもうではないか!
「ガキどもが十年早いわね!」
って思っていたのに誰がケンカ買うようなことを言いだした!?
プラティだ!
プラティにヴィール。
この農場に古来から伝わる好敵手カードが揃った!
「旦那様がアタシたちのために用意してくれたねぎらいのイベント! 生みの苦しみも味わったことのない小娘どもが便乗するなんていい度胸だわ!! そんな道理がまかり通るなんて思ったら甘すぎるわよい!!」
「うっせー! おめーらだってご主人様が用意してくれた料理を貪ってるだけじゃねーか! 自分の手柄みたいにふんぞり返るんじゃねー!!」
さすが長年対立し続けた名コンビ。
ケンカをやらせたら華々しさが違う。
しかし待て!
今日の企画は和気藹々とした焼肉パーティなんだ。
火事もケンカも江戸の華も必要ない!
何でもトラブルを起こせばいいというわけじゃないんだ、スローライフを満喫させてくれ!
「ふふふ……いいでしょう、じゃあ勝負と行きましょうか?」
「望むところだ、意見がぶつかり合えば勝負。非常にシンプルでわかりやすいのだ」
蛮族の風習ですけどね、それ。
どうするんだ!? せっかく穏やかに終わると思ったイベントが!?
「では早速第一問と行きましょう、これは何!?」
「サービス問題だな……それは、ロースだッ!」
んッ?
何をやっているの?
突如プラティが差し出した肉の一切れを見て、ヴィールが何か答えていく。
「くッ、正解ね! ではヴィールにはロースを食する権利を上げるわ!」
「はははははー! 小手調べにしても手ごたえがないのだ! ではいただきまーす!……もぐもぐもぐ、うめー!!」
?
二人は一体何をなさってらっしゃるのか?
まさか……。
この肉はどこの部位でしょうクイズ!?
「正解よ旦那様! お肉って部位によって様々な呼び名があるのねーって感心していたところなのよ! それを勝負に取り入れる、なかなか洒落の利いた催しだと思わない!?」
「次はこっちが攻めかかる番なのだ! ロースとはどこの部位だ!? 詳しく説明してみろ!」
「ヴィールにしてはなかなかいい問題を出すわね! ロースは牛の肩の部位よ! 筋肉質な部位で歯ごたえもよく味も濃厚! それゆえに一番基本みたいな扱いもされる部位ね! さらに希少部位としてヒレもあるわ! 魚のヒレとは違うわよ!」
「うぬぅ、一言聞いただけでここまで余計な情報を付け加えてくるとは! さすがと言っておくのだ!!」
思ったより平和そうな争いでよかった……!
戦争が回避されて助かった!
しかし指摘されてみると肉の部位名というのも不思議なものだ。
ただ単に肉というだけでも牛・豚・鳥etc.と種類があるのに、その中でもさらに部位によって様々に味も違えば好みも違う。
そんなことを考えると奥深いなと実感せざるを得ない。
モモ。
ハラミ。
タン。
サーロイン。
ザブトン。
スジ
イチボ。
切り落とし。
ググらずにどこまで正確に答えられるか!?
内臓系まで出題されたら収拾がつかなくなるな。
「ぐるほぉ……!? 効いたのだ、なかなかやるのだな!」
「それはこっちのセリフよ。さすがアタシと共に最初期から旦那様を支えヴィールだけはあるわね……、おぐッ!」
なんでクイズ合戦であんな殴られたみたいな声出すん?
よくわからない衝突を経て、二人はわかり合ったようだ。
「見直したわヴィール! アナタこそアタシと一緒に旦那様を盛り立てるパートナーに相応しいと再確認よ! 意地悪を言ってごめんなさいね!」
「こっちこそ三人目の妊娠お疲れ様なのだ! おれが焼いてやるから好きなだけ肉食いまくって栄養補給してくれ!!」
固く手を握り合う二人。
俺もよくはわからんが、ここからさらに焼肉パーティは益々和やかに進んでいきそうだ。