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102 続・王の呟き

 余は人間国の王ジェネシス十八世なり。


 ちゅうちゅう。


 魚の搾り汁美味しい。

 内陸の王都では魚は運んでいるうちに腐っちゃうから、搾って魚の味を移した汁しか献上されないのだ。


 生臭いけど美味しい。


 庶民には決して手の出ない高級品。

 まさに王侯の味だ!

 こんなものを毎日吸える王様が羨ましかろう!!


「国王陛下!! 大変! 大変でございます!!」


 どうした近侍?

 騒いだって、この魚の搾り汁は分けてやらんぞ?


「そんなクッソマズいもの命令されたって飲みませんよ! それより一大事です! 国境より急報が!!」


 急報?


「魔族が大軍を率い、我が国に向けて侵攻中とのこと!!」


 何だってえええええええええッッ!?


 何故? 何故!?

 なんでこっちから戦争仕掛けてないのに魔族の方から攻め込んでくるの!?


 何かの間違いでしょ!? お祭りの準備と見間違えたとか!?


 ……それはない?

 全員武装していたから?


 そっかー……。

 残念。


 それでは仕方ない受けて立つのだ!

 至急、我が古今無双の人族軍を出撃させよ!!


「恐れながら、軍を率いる将軍たちは領地へ帰還しています。無論、直下の手勢と共に」


 何だって!?


「なので再び召集するには時間がかかるかと……!」


 なんで勝手に帰ってんのアイツら!?

 ダメじゃん! 王様に断りなく帰ったらダメじゃん!


「お言葉ながら、陛下はたしかに軍の一時解散をお命じになっています。聖者キダンが発見されるまで魔国への侵攻は停止されると……」


 ええー?

 そうだっけ?


「そうですとも。将軍方も長く領地を離れていたので、これ幸いと全速で帰還されましたよ。自領で処理しなきゃいけない案件とか領民の訴えも溜まってるだろうって……!」


 そんなこと言ってたのアイツら?

 真面目か!?

 けっこういい領主やってるな、いい子ちゃんぶりやがって。ケッ。


 念のため聞くが、聖者キダンはまだ見つかっておらぬのだな?


「……はい。各所に放った捜索隊からも、有用な報告はなく」


 そうか。

 聖者キダンさえ我が配下となれば魔族など一瞬で皆殺しと踏んでいたのだが。

 ちっ、役立たずめ。


 しかし、だからとて我ら人族が負けることはない!


 何故なら、神に選ばれし高等種族である人族には、清浄なる天の神から与えられた加護がいくつもあるからだ!


 その中の一つ、神聖法術魔法『神聖障壁』!!


 説明しよう!

『神聖障壁』とは、我ら人間族に伝わる法術魔法の一つ。天上に君臨するゼウス神の御力を借り、魔国と人間国の国境に大障壁を作り出す魔法なのだ!!


 この障壁は神聖魔力で作り出されたバリアで、我ら人族は自由に出入りできるが、魔族どもは弾き飛ばされ、突破不可能!


 この魔法があるおかげで過去数千年、人間国は一度として魔族に侵攻を受けたことがない!

 アホの魔族どもは、我ら人族から侵攻されることはあっても、向こうから侵攻することは決してできないのだ!!


「でも、あの神聖障壁のせいで大量の自然マナが消費されて、人間国は慢性的に土地が痩せてるって説もあるんですが……!」


 煩いわ近侍!

 そんなの一説に過ぎないんだろ!


 魔族の脅威から身を守れるんなら少しぐらい不作になったところで何の問題がある!?


 とにかくアホな魔族どもは、あの『神聖障壁』で何度も侵攻失敗した過去を忘れたようだな!

 愚者は歴史から学ばぬものよ!


 よし! 今からでも集められるだけの兵を集めよ!

 障壁に阻まれすごすご引き返す魔王軍を追撃し、大打撃を与えてやるのだ!!


「国王陛下」


 うん? どうした?


「『神聖障壁』が破られました」


 ……。

 …………うん?


 どえええええええええええええええッッ!?


 なんで? なんで!? どういうこと!?

 天神ゼウスの加護である『神聖障壁』は、絶対破られないんじゃないの!?


「前線よりの報告ですと、魔軍の先頭に立つ女将軍が二人……。これは魔王軍四天王『妄』のアスタレス。『怨』のグラシャラであると確認されましたが」


 うん?


「二人の掲げた剣より放出される魔気が『神聖障壁』にぶつかり、粉微塵に打ち砕いたと……!」


 なんと、なんと……!?

 きょ、教会に連絡し、新たに『神聖障壁』を……!


「既に急使を送りましたが、『神聖障壁』は遥か数千年前に発動された大魔法。それ以降一度も途切れることなく成形され続け、維持はともかく、新たに発動し直す術式は忘れ去られてしまったと……!?」


 使えない教会どもめ!

 日頃法外な寄付金をせびっておきながら、神から与えられた術式も管理保存できなかったのか!?


 許せん!

 この件が済んだら教主も枢機卿も全員審問に掛けてやる!!


「陛下、どうやらその機会は来ぬようです」


 おうふ!?


「魔軍がもう王都の間近まで迫っております。王都に戦力なく、各領地から援軍が来るまで、とても守り切れぬでしょう」


 冷静に分析するなあ近侍。

 では、どうすればいいのだ?


「魔王より使者が参っています。それによると魔王の意思は、国家としての人間国解体。種族としての人族は、その存続を認めると」


 ぐぬぬ……。


「人間国を治める王族と、教会関係者の身柄を差し出せば、民の安全は保障する。魔族の神ハデスに誓って約定は守るということです」


 誓うんなら天神ゼウスに誓えよ。


 ……しかし。

 こうなっては是非もない。


 余とて人族の王。

 ここに至っては余にできる最後のことをしようではないか。


 余の命で民草の命が救われるなら、喜んで差し出そう。


「陛下……! 最後になってそんなカッコつけんでも……!」


 泣くでない近侍よ。


 では、せめて威儀を正して行こうではないか。

 余を殺す魔王の下へ。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 王様腐っているようだけど、ちゃんとした所も有ったのね。
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