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101 冬

 冬が来た。


 いきなりのことで俺もビックリしている。

 ある日のこと唐突に雪が降ってきて、あれよという間に吹雪いてきやがった。


 一夜明けたら一面の銀世界。


「あらかじめ収穫できる分は、全部収穫しておいてよかった……!」


 今回のMVPは、加入したばかりのエルフたちだ。


「もうすぐ冬が来るっていうのに、何また植えようとしてる!?」


 とエルロンから怒られて、急きょ一斉に刈り取り作業となった。


 どうやらこの世界、四季の移り変わりが前の世界ほどハッキリしていないらしく、本当に唐突にストーンと冬がやってくる。


 異世界からの来訪者である俺は無論のこと、俺に触れられて自意識を持ったばかりのモンスターたち、陸上での生活一年目の人魚たちも気づけずに、もう少しで作物の多くを雪でダメにしてしまうところだった。

 そんなことになったら大損害。


 収穫した作物を計算してもらうと、農場の住人が全員飢えずに冬を越せる量は充分あるという。


 何度も何度も収穫しまくったからな。

 魔法薬学で作り出したハイパー魚肥があったからとは言え、数ヶ月に一回とか、下手したら数日に一回のペースで収穫していた。


 そりゃ時間の感覚も狂うわ。


 冬の到来を予測してくれたのは、元々地上住みの中でもしっかり自然と馴染んだ生活をしていたエルフたち。

 彼女たちがいなかったら農場も壊滅していたのではないかと冷や汗だ。


 そもそもこの世界には、明確に四季の移り変わりを伝えてくれるものがない。

 あるのはせいぜい気温の変化だけ。


 思えば夏があった時期も「思い返してみたら結構暑かったなあ」と今さら気づくのみだ。

 ただ冬だけが、寒さと共に襲い来る雪の白さでこれでもかってほど冬をアピールしてくる。


「さむさむさむ……。さむッ!!」


 冬の準備なんてロクにしてこなかったので、この寒さは死活問題だ。

 皆、綿入り布団に包まって身を震わせている。


「ヴィールのヤツが見えないけどどうした?」

「自分のダンジョンに戻っていったわよ。あそこならエリアによって暖かいところがあるから」


 あの野郎!


 ともかく、エルフたちの指導で急ピッチに炭焼きが行われているから、それで暖を取るのが当面の対応だ。


 もっと本格的な防寒対策は、この冬を越してからさらに次の冬に向けて練っていくことにしよう。


「ああ~~。寒い寒い寒い」

「寒いですねえ」


 俺の両側に、プラティとガラ・ルファの二人が左右からピッタリくっついている。

 肌を重ね合わせるのが有効な防寒手段だとしても、これには別の意味が発生しそうな……!


 そこへエルフのエルロンが入室。


「聖者様ー。炭の追加できたよー…………」


 プラティ、ガラ・ルファに左右から挟まれモッチモチの俺を目撃し、エルロン、キレる。


「ぐらっふぁらーーッ!!」


 出来上がった木炭を力任せに投げつけてくる。

 痛い。


「ヒトが働いてるってのに部屋ん中でゴロゴロイチャイチャされたら誰だって腹が立つわ! 私も交ぜろ!!」

「キミの怒っているポイントはどこなのかな?」


 別に遊んでたわけじゃないよ。

 冬対策をプラティと話し合ったところ、酒蔵計画を打ち合わせに来たガラ・ルファも加わって「寒いから身を寄せ合おう」ってなっただけで。

 他意は、ないよ?


「とにかく。現在木炭の供給率はどれくらい?」

「もう充分行き渡っているぞ。木炭を焼く火鉢は各自自作してもらったから随分スムーズに進んだ」


 ここにいる子たちは一通りモノ作りに秀でているからな。

 ちなみに俺は、余っているマナメタルを叩いて伸ばし、金属製の火鉢を作った。

 本当は陶器製が欲しかったんだけど、焼く工程が必要で、その時間がないので断念した。


 今は早急に数が必要だったからな。


 他のオークやゴブリンたちも、木を材料に升みたいな火鉢を作っていたけど、やっぱり木製は火事が不安だ。


「火の始末だけは充分気を付けるように徹底させてくれ。本格的な防寒には知恵を絞っていくから」

「早めに頼むよ。私たちは引き続き木炭を作って供給体制を安定させつつ。取り扱いしやすい陶器製火鉢を量産していく」

「頼む。デザインとかに拘らなくていいから、数を頼むよ」

「デザインにも拘るよ?」


 拘るのか。

 まあ、いい。

 エルロンたちの職人気質に任せよう。


 それ以外に本格的な暖房器具というと、囲炉裏か暖炉かな。

 ウチの屋敷は和風に拘ったから、囲炉裏というのも充分いける。暖炉はレンガ積みして煙突作らなきゃいけないから面倒そうだなあ。


「でも、そこまで深刻にならなくてもいいと思うぞ」

「え?」

「皆冬を楽しんでいる」


              *    *    *


 試しに外に出てみたら、たしかに冬を満喫しているヤツらが大勢いた。


「うぇーい!」

「死ねえー!」


 ゴブリンとエルフの何人かが、庭で雪合戦に興じていた。

 無数の雪玉が飛び交う。


「よっしゃ当たれ!」

「死ね!」

「砕けろ! 割れろ!!」

「死ね!」

「死ねええーーーッ!!」


 雪合戦にしては掛け声が殺伐としている。


 雪が積もった直後に、雪合戦というゲームの存在と大まかなルールを披露したのはたしかに俺だが。

 それがこんな大ブームになっているとは……!


「皆独自にルールを解釈して、色んな技を編み出してるようだぞ」


 我が農場発、雪合戦用決闘技その一。

 二連雪玉。

 二つの雪玉をまったく同じ軌道で投げる。二球目が一球目の陰に隠れるために、相手の不意を衝くことができる。


「ただ、雪合戦は競技的に球をよければいいだけのルールだから」

「うん」

「一回避けた軌道とまったく同じに雪玉を乗せてもあんまり意味がないことがわかって。基本無数に飛び交ってるからね」

「だよね」


 雪合戦用決闘技その二。

 必殺砲丸雪玉。

 雪の中に石を入れて攻撃力アップ!


「それただの反則だよね?」

「なので発案直後に使用禁止をくらった幻の技だ」


 その三。

 必殺人間雪玉。

『最後の雪玉とは、俺自身が雪玉になることだ』という理念の下、自分諸共雪玉を飛ばす技。

 オークとかエルフとか種族はたくさんいるのに人間と銘打つのはどうかというツッコミは無粋だ。


「これ、ただ単に雪玉持ったまま相手の下まで駆け寄り、雪玉越しに殴り付けるだけの技なんだけどね」

「うん」

「しかも接近している間に集中攻撃を食らうからそこまで有効でもないという……」


 まあ、ゲームというのはそうした試行錯誤を繰り返している段階が一番楽しいものだ。

 彼らも雪合戦を試行錯誤しながら楽しんでいるということだろう。


「まあ、たしかにこんなに元気に遊んでいるなら、暖房器具も必要ないか」


 遊び終わったあとが寒くて死にそうだけどな。


「我が君!」


 黄昏ていたら、オークボから呼び止められた。

 キミはキミで何をやっておるの?


「船を拵えておりました!」

「船!?」


 オークボと配下のオークたちが示すのは、たしかに一艘の船。

 大きさ的にボート程度だ。


「雪で作物も実らないこの時期、せめて沖に出て魚を捕まえてこようと思いまして! 有志の下に作成してみました!!」


 ええ? 遠くの海へ漁をしに行こうってこと!? その船で!?

 やめとけよ転覆すると危ないぞ!


「大丈夫です! 自分で仕事を見つけることこそ有能の証。大漁で帰ってくることをお約束します!!」


 そうして自作の船? ボート? で浜辺より漕ぎ出すオークボたち。


「冬って魚獲れるの?」

「種類によるとしか」


 ただ、オークボたちの自作ボートは漕ぎ出してすぐさま崩壊してしまった。


「うわあああ~~ッ!!」


 転覆する船。オークボたちは海に投げ出され波間を泳ぎ、ずぶ濡れになって浜に戻ってくるのだった。


 沈んだ時はかなり焦ったが、さすが進化したオークたち。

 しぶとい。


 何やかやと言いつつ、皆冬を満喫しているようだ。

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