1013 皆が登れる山
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登山イベントから数日が過ぎて……。
俺は再びタ・カーオ山にやってきた。
事の経過を確認するために。
『皆さんしっかり掴まってくださいねー。では登りますよー!』
と元気いっぱいにいうのは例の臆病ドラゴン、シャンペンくん。
人間をたくさん詰め込んだ籠を抱えて、ドラゴン翼で飛翔する。
『行き先はー、タ・カーオ山中腹―。到着まで、ご乗竜の皆様は天空からの山の風景をお楽しみにくださいー』
やってるやってる。
ちゃんとリフト役をこなしておるではないか。
数日前、タ・カーオ山に住み着くシャンペンくんに、このような提案がなされた。
――『いっそのこと冒険者ギルドに協力しては?』と。
冒険者ギルドは、タ・カーオ山をで登山を楽しむイベントを恒常的に行っていこうと企画を練っている。
それにシャンペンくんが率先して協力することにより、ギルドの庇護を得ようというのだった。
『逆じゃね?』と思うことだろう。
普通だったらドラゴンの方が人の集まりギルドよりも圧倒的に強く、人の方こそが乞い願ってドラゴンの庇護に入るべき。
しかしシャンペンくんに限っては性格がこの上なく小心卑屈で、この分じゃ人間相手にもビビッて討伐されかねない。
なので冒険者ギルドとの間に共存共栄の関係を結ぶことで、とりあえず人間側からのシャンペンくんへの襲撃はご法度と取り締まることができるようになった。
人間じゃなくてドラゴンが攻めてきたら?
……腹を括るしかない時ってあるよね?
ともかく、シャンペンくんが冒険者ギルドと協力することによって得た役割はまず、ドラゴンリフト便を開設すること。
かつてヴィールが行ったように、登山客を山中腹まで移送するのだ。
そうすることによって体力的に山頂まで向かうのがキツい人たちなどにも容易に登山を楽しんでもらえるように。
さらには中腹の往復地点に駅を設け、そこからでも山の景色を楽しんでもらえるように展望台を設置。
さらには観光施設としてお土産屋や野草園も建造し、より登山客が楽しめる環境づくりを推進。
土産物屋には、ダンジョンでとれた山菜を材料にした漬物やおひたし。
ふもとの川で釣った魚を塩焼きにしたもの。さらにその焼き魚を酒に浸してエキスをたっぷり抽出したもの。
アツアツの焼き団子。
食べ物だけでなく、土産物といえば定番の派手な剣のキーホルダーもあり。
そう言った工夫をつけてタ・カーオ山は、冒険者が挑むダンジョンから一般登山客向けのやさしいハイキングコースへと転身を遂げたのだった!!
「上手いこと言ったようで何よりです」
『ああッ、聖者様!!』
シャンペンくんが俺のことを見つけてバッサバッサと翼を鳴らして接近してきた。
風圧が凄い。
『ありがとうございます! 聖者様が助けてくれたおかげで、ボク安心してこの山で暮らせています! こんなに解放感たっぷりなのは初めてです!!』
「キミが頑張ったからだよ」
まあたしかに、展望台や土産物屋を建造したのはウチのオークたちだが……。
それに、籠に乗せた人間をドラゴンが飛翔して運ぶ、その細かいやり方をレクチャーしたのはヴィールだが……。
まあウチのオークたちが建築好きなのは今に始まった話じゃないので、むしろなんか建てるとなったら呼ばれていなくても現れるヤツら。
そしてヴィールは、今や人を運ぶとなったら年季の入ったドラゴンで、飛行中いかに扱えば人に負担がかからないか、安全に適した着陸の仕方は、……など多くの有益なノウハウを蓄積している。
要するにアイツら好きでやってるので、そこまで切実に感謝してもらういわれはない。
『おかげでニンゲンの皆がボクを慕ってくれるんです! 恐れて石を投げたりしてこないんです! ビクビクしながら人前に姿を現さなくていいなんて! こんな日が来るなんて思ってもみませんでした!!』
しかしシャンペンくんは律義なヤツで、全身全霊にて感謝の意を表してくる。
シャンペンくんは、ドラゴンリフトのメイン運営の他に、ダンジョン主としてこのタ・カーオ山の観光地化に許可を出すという重要な役割も担っている。
いわば地主。
元来ダンジョンの主を名乗れるのはドラゴン化ノーライフキングしかいないため、ドラゴンにしか務まらない重要な役どころだった。
「聖者様もお越しになっていましたか」
「シルバーウルフさん」
ギルドマスターのシルバーウルフさんだ。
この人もタ・カーオ山の恒久観光地化に伴い、頻繁にここを訪れている。
突如降って起こった新企画にまた負担が増えているのではないか? と心配だったが、その表情は溌剌だ。
上手くいっていればこそ忙しくても精悍なのだろう。
「シャンペン様のおかげで順調ですよ。我ら冒険者ギルドも、新しい試みに心躍っています」
ダンジョンの観光地化は、ギルドでも長いこと可能性を探られていたらしい。
そもそも冒険者ギルドの大目的は、ダンジョンの管理。
放置しておけばモンスターが溢れ出し、周辺に被害を与えるダンジョンを抑え込むための冒険者だった。
要は、モンスターを封じ込め、人里に被害を出さない態勢さえ整えればどんな形だろうと関係なく、ギルド側も万々歳ということ。
その点、このタ・カーオ山での登山観光地化は、ダンジョン無害化の新たなる切り口であり、ギルド側も期待を寄せているという。
ダンジョン主と和解することでダンジョンの無害化を試みるのはアレキサンダーさんのところでも充分に確立された方法。
その場合、ダンジョン主に融和の意思があることが大前提になってくるのだが。
シャンペンくんが臆病であることから、そうした意思を引き出せたことが実に行幸であった。
「このタ・カーオ山の場合、ダンジョンが小規模であることからギルド主導で観光地化を進められるところがアレキサンダー様のところより有利ですな。主であるシャンペン様も協力的ですし、実に弾んでいますぞ!」
……あの、シャンペンくんが臆病なのをいいことに強引に話し進めたりしていませんよね?
念のための確認ながら。
「もちろんダンジョンゆえに依然としてモンスターは発生しますが、シャンペン様のバックアップを得て効率的に討伐し、観光客の安全性も保てています。いずれは無害化したモンスターを見学できる施設も作り、客寄せの一環にしようかと!」
モンスターを見学?
それは、動物園みたいな?
「このタ・カーオ山で固有的に発生するモンスターを看板にした、『ベニテングサル園』というのを企画してるんですが、どうでしょう!?」
……。
ま、まあいいんじゃないでしょうか?
たしかに山の上によくあるイメージはあるよ、サル園。
「名物はそれだけにとどまらないのだぁああああッッ!!」
誰だ?
唐突に唸り声を上げるのは?
ヴィールか!?
「この山の麓にラーメン屋を開き、登山客に振舞うのだ!! これでゴンこつスープの大量消費が見込めるのだ!!」
ヴィールのヤツ、それが目当てでシャンペンくんを保護したり冒険者ギルドを支援してたりしていたのか!?
下心ありありだ!!
「お山の近くに名物飲食店はつきもの! おれはここタ・カーオ山を出発点とし、世界中から愛されるラーメンチェーンを築き上げてみせるのだ! そのために現在、秘伝の味を冒険者どもに伝承中なのだ!!」
冒険者たちに店を任せるつもりか!?
だが、たしかにヴィールのヤツがまるきりお店を切り盛りするわけにはいかんしなあ。
頑張ってくれ。
たべ○グで星五つけられるようにな。
そのように着々とタ・カーオ山の観光地化が進められている。
都市部からのアクセスがよく、標高も手ごろ、その上に様々な施設が乱立してサポートも手厚い。
ライトな登山ユーザーでも安心してチャレンジできる。きっとたくさんの集客が見込めることだろう。
そんな風に期待に高まっている横で……。
「うおおおおおおおんッッ! 違うッ!! こんなのはオレが求めている登山ではないいいいいいいいッッ!!」
一人、世の流れに逆らおうとしている男がいた。
ゴールデンバットの野郎だ。
なんか知らんが悲憤の涙を流している。
「登山とは! もっと厳しい環境に身を置き、みずからの限界と向き合いながら進んでいくもののはずだ! ストイックに、孤独に! この身削り取られるような感覚に耐えて突き進んでこそ、頂上まで辿りついた時の感動がひとしおの……!」
「どうどうどうどう……。落ち着こうな、情熱の暴走はやめような……!」
登山ガチ勢のゴールデンバットには耐えがたい大衆化であるらしい。
でもさ、考えてみろよガチ勢。
こうして困難を取り除くことによって間口が広がり、多くの人々が登山を楽しんでくれればジャンルそのものが盛り上がって活性化するでしょう?
コンテンツの大きさは絶対的にユーザーの多さなんだわ。
そりゃあ不死山みたいにガチ勢が登る山も聖地だろうが、ここみたいにライトユーザー向けの入門編みたいな山も大いに存在価値があると思うけどな。
とにかくもお前の意思とは関係なしにタ・カーオ山は大衆向けライト登山スポットとして歩み始めたんだ。
許容してくれ。






