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1011 小山の小竜

 ボクの名はシャンペン。

 グリンツドラゴンのシャンペンです。


 でも他のドラゴンほど強くありません。

 勇気もありません。


 争いから離れて、他のドラゴンたちがぶつかり合うのを遠目に『早く終わらないかなあ』と恐れていた。


 かつて父上の後継を巡ってすべてのドラゴンが争っていた時も、与えられた試練なんて放ったらかしにして自分のダンジョンに引きこもっていた。


 時間が過ぎて、父上が誰か知らないドラゴンに敗れて、ソイツが新しいガイザードラゴンになったという話を風の便りに聞いても何もしなかった。


 それからしばらく、残った竜たちで新皇帝竜を認めるだか認めないだかでイザコザがあったらしいけれど、それにもボクは一切関わらずに無関係でいた。


 だって争うのが怖かったから。


 殴られたら痛いし、火を噴かれたら熱いし、そして最悪敗けたら死んじゃうかもしれないんだよ!?


 そんなの怖くて絶対無理だよ!


 戦いたくない! 戦いたくない!


 ……という感じでここ数十年ダンジョンに引きこもって過ごしていた。


 ボクが住んでいるダンジョンは、人間たちがタ・カーオ山と呼ぶ山ダンジョン。

 ドラゴンは山ダンジョンに好んで住み着くからね。


 でも普通ドラゴンならもっと大き目で豪勢なダンジョンに住みたいんだろうなって思うんだろうけれど、ボクの場合は狭い方が落ち着く。

 いらないよね別に書斎とかワインセラーとか茶室とかホームシアターとか。

 一部屋あれば住み暮らすのに困らないんだ。

 広いと掃除も大変だしね。


 それでもあえて大変なことがあるならば、よくダンジョンに入ってくるニンゲンたちのことかな?

 ボウケンシャっていうんだっけ?

 人間の中でも好き好んでダンジョンに入ってきて、生きたり死んだりする不可思議な連中だ。


 ボクから見たらなんだアイツら? と思ってしまう。


 だってニンゲンってドラゴンよりさらに弱くて脆くて、すぐ死んじゃう生物なんでしょう?

 それなのに自分から危険な場所に飛び込んでくるなんて、考えがおかしくなってるとしか思えないよ。


 冒険者たちがうろついている間、ボクはダンジョン内に作った隠し部屋に隠れてジッとしている。

 だって見つかろうものなら戦いになってしまうから。


 戦闘になればさすがにボクが勝つだろうけれど、やぶれかぶれで向かってこられたら、もしかしたら怪我ぐらいは負わされるかもしれない。

 それにこっちが反撃したとして、火のブレスを浴びて断末魔を上げて死んでいくニンゲンとか怖くて見たくもないし……。


 ということでニンゲンに見つからないように必死に隠れていた。


 ドラゴンらしくないことはわかっている。

 ボクは、ドラゴンのくせに臆病で怖がりで、あらゆるトラブルから逃げようとしている。

 他のドラゴンが見たら嘲笑ってくるか、『ドラゴン族の恥さらしめ!』と激怒することだろう。


 でも仕方ない。怖いものは怖いんだから。


 新生ガイザードラゴンを巡るいさかいもそろそろ治まっていき、あわよくばこのまま穏やかに過ごしていけると期待していた昨今。


 しかし、思いもよらない不穏さが起こった。


 不穏の契機はやはりニンゲンたち。

 ある時大人数でダンジョンに入ってきたかと思うと、物凄い勢いでモンスターを殺し始めた。


 今までこんなことはなかった。

 やはり冒険者という連中だろうか? ヤツらはこれまでも何度かボクのダンジョンに侵入してはきたが、精々ダンジョンの中に発生する資源をいくらか採取して、その際にモンスターを何匹か仕留めることしかしてこなかった。


 でも今回は、山中のモンスターを殲滅せんばかりだった。

 実際に殲滅された。


 冒険者たちはその時点で帰っていったからホッとしたけれど、すぐにまた恐ろしい推測が立って全身ゾッとした。


 もしかしてヤツらは、この山ダンジョンにボクがいることに気づいたんじゃないか?

 そして討伐しようとしている?


 今日たくさんモンスターを倒していったのは、その前準備ってことじゃないのかな?

 ダンジョンの主はある程度モンスターを統率して操ることができる。

 もしニンゲンたちがボクを倒そうとしているなら、その対抗策としてボクがモンスターをぶつけてくるというのも想像するだろう。


 というか実際そうする。

 できればモンスターたちだけでニンゲンを撃退してもらってボクは奥に避難していたいほどだ。


 しかし、その作戦はもう使えない。

 前日のうちに冒険者たちが狩り尽くしてしまったから。


 つまり今の僕には手駒がゼロ。

 ニンゲンたちは事前に、ボクの戦力を削ることに成功したんだ。


 滞留マナの凝結で新たなモンスターが生まれるにしても日数がかかる。

 先日まで山ダンジョンを満たしていた、まとまった数に戻るまではさらなる長期間が必要だろう。


 それまでボクは丸裸……。

 もしニンゲンたちが攻めてきたら、ボク自身で迎え撃たなきゃならない?


 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ッ!?

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いッ!?


 そんなことになったら余裕で泡を吹いて倒れる自信がある!


 きっと人間たちもこんな臆病なボクだからこそ、何とか倒せると思ったんじゃないかな!?

 普通なら、どう考えてもニンゲンがドラゴンを倒せるわけがない。


 しかしボクのような最弱で臆病ドラゴンならニンゲンたちも『もしかして?』と思うかもしれない。

 ボクもニンゲンたちに襲われて勝てるかどうかわからない。


 ひとまず障害を片付けておいて、次に来る時こそ本命のボクを叩きにくるという算段なのかも。


 これ以上ここに留まるのは危険なのかもしれない……!

 そう思った。


 となればやることは一つ。

 逃げる。


 この山ダンジョンから離れ姿を隠せば、ニンゲンたちも追ってくることは不可能なはずだ。


 でもその場合、ボクはもうこのダンジョンにはいられないよね?

 そしたらどうする?

 新しく住処にするダンジョンを探すのにも時間がかかるだろうし、見つけたとしても先客がいたら?


 争って奪い取るの?

 そんなことができるならフツーに人間を迎え撃つんだけど?


 そうこうして悩み迷っているうちに日にちは過ぎ、そしてニンゲンたちがやってきた!

 というか翌日!

 踏み込んできたのはニンゲンの団体さん!


 けっして少なくない人数で、二手に分かれて頂上へと上ってきている!


 頂上は、山ダンジョンにおいてもっともマナが集約する場所。

 必然主の定位置になることが多いというか、ほぼ間違いなく定位置。


 そこへ向かってきているということは標的はボクだ!

 うわああああああヤバいヤバいヤバいヤバい!

 本格的にボク危ない!


 どうする逃げる?

 しかし逃げたって先に何もないことは既にシミュレーションの結果わかりきっている。


 こうなったら……!

 戦うしかないのか!


 いいだろうやったらああッ!

 ボクだって追い詰められればやれるんだ!


 追いつめられた竜は猫をも噛むんだってことを見せてやる!

 行くぞ出陣!

 ふるわああああああああああッ!!


 よしッ! さっきも言ったが敵は二手に分かれて接近している!

 平坦な近道と、遠回りな険しい道を進んでいるヤツらだ!


 険しい方通ってるヤツは何なの? バカなの?


 しかし当然の結果として頂上により近づきつつあるのは平坦ルートを通ってきているヤツら!

 接近してきているヤツから先に叩くのがタワーディフェンスの基本! なので平坦ルートのヤツらよ覚悟!


 そしてドラゴンの翼を広げて強襲したところ……。


 ……アレ?

 なんで向こうにもドラゴンがいるの?


 うわー反撃してきた!?

 あっちのドラゴンが反撃してきた!?


 熱い熱いブレスが熱い!?

 なにでニンゲンに反攻しようとしたのにドラゴンに迎え撃たれるの!?


 しかもこのドラゴン強い!?

 誰!?


 こんな強力なドラゴンが人間と一緒に登ってくるなんて、何がどうなっているの!?

 あッ、ダメだ一瞬も支えきれない!

 負ける……!


 押し潰される……!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] シャンペン君、可愛いなw
[一言] >険しい方通ってるヤツは何なの? バカなの? バカなの。^^
[良い点] 14巻の表紙素晴らしいですね!! [気になる点] しこもこの? なんだろう……しかもこの?
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