1000 マタニティラプソディ結び:神界裁判
ナンバリング1000となりました。
記念すべき数字です。
ここまで続けられたのも皆さまのご愛読のおかげです。
本当にありがとうございます。
我、ティターン神族の王クロノス。
今日は天界に呼ばれたので『何かな?』と思いノコノコやってきた。
そしたら出迎えがやけに剣呑だった。
『本日は何のために呼ばれたのか、わかっていますよね、お父様?』
なんか私の前で青筋ピクピク立てておる女神は……。
見覚えがある。
そう、我が長女にしてオリュンポス神族の根幹に位置する神……ヘスティアではないか!
やーやー久しぶりだな元気?
髪切った?
……太った?
『太ってませんけど! 神代戦争ぶりに再会する娘に対して随分な口の利き方ですわねお父様!!』
あッ、すみません。
この怒りっぽい女神はヘスティア。
私と妻レアとの間に生まれた六神の一人で、幼い頃は実に可愛かった……かは知らん。
生まれてすぐ丸呑みにしたから。
『まったく「我が子に滅ぼされる」と予言されたからって、生まれてくるたび丸呑みにしてしまうなんて、とんでもない父親ですわ。予言通りに滅亡させられたのも自業自得ね』
お前らオリュンポス神族こそ自業自得の要素高いと思うが。
……まあ、そこはいい。
その辺ほじくり出すときりがないから。
『お父様たちティターン神族を滅ぼしてから、このヘスティアは家庭や家族の守護神としての役割を得ました。それから竈の炎を司ってもいます。名前もウェスタと改めて地上の人々の安らぎが保たれるように日々働いております』
おつかれー。
で、そんなヘスティアもといウェスタさんが、今日は私に何の用だ?
この流れだと、私を呼び出したのはお前のようだが?
私はヘパイストスくんとプラモデル談議ができると思って楽しみにしてきたのに。
『お父様がタルタロスより解放されたと聞いて嫌な予感しかしませんでしたが、それが見事に当たりました。やはりアナタは解き放ってはいけない災厄だったのです。アナタとともに数え切れぬほどの困難も自由になってしまいました』
『どういう意味だ?』
何とも心外な。
そりゃあ神々の戦争に敗けて何万年と封印された恨みもあるが、それも解放された今は特に気にしてない。
あちこち自由に出歩いて楽しいから復讐どころでもないのだ。
今やこんなに人畜無害な旧神のどこが危険だと?
パパのことを信じてくれ娘よ。
『全神話世界中もっとも父親を信用できない娘でもあるんですが……。アナタが実際、罪を犯しているのですからどうしようもありません。心当たりがないとは言わせませんよ!』
『心当たりないが?』
『ここまでシラを切るとは……! いいでしょう、お父様の罪をハッキリと告げて差し上げます!!』
ズビシと指さしてくるウェスタ。
『お父様は、先年神徳を発したでしょう! その影響で生命の営みに大きな影響が現れ、意図せぬ大発生が起こりました! 要するに子どもがたくさんできたということです!!』
ああ。
そのこと?
災厄とか言うから一体私は何をしでかしたんだろう?
意図はないが知らないうちに『オレ、なんかやっちゃいましたかね?』というような事態に陥っていたのかとビビッたが、充分に心当たりのある出来事だった。
しかし娘よ……。
『それが何か悪いのか?』
私がしたことは、地上の生物たちに恩寵を与え、子をなすように仕向けたこと。
新たな生命が誕生するのは、いつでもどこでも喜ぶべきことではないのか?
それを捕まえて罪を犯したなどと。
私はいいことをしたんだぞ? そうではないのか?
……。
もしや、私が知らないうちに『自分が正しいと信じてやまない系の悪役』になっていた、とか、そういう話か?
『いいえ、たしかに生命誕生は寿ぐべきこと。特に文明を築きし人々の懐胎出産は特に、家庭家族を竈から見守る家護神ウェスタの役目ですわ』
……家護神って座敷童みてーだな。
と思って、口に出すことはやめた。
『だったら何の文句もなかろうがよ』
『いいえありますわッ!! いいですか、今時の生命、増やすも減らすも計画的でないといけないんです! 理性に沿って生きる人類ならばなおさらのこと! 急激な人口増加は、世界にどんな影響をもたらすかわかったものじゃないんですよ!』
『増えすぎた人口を宇宙へ強制移住させたり?』
『そうそう!!』
ギャグで言ったつもりだったんだが肯定されてしまった。
それくらいヘスティア……じゃなくウェスタも余裕がないってことなんだろうか。
『……人々の暮らしが困らぬように見守ることも神の務めではあるからなあ。現在、地上を管理しているオリュンポス神族に断りなく地上に影響を及ぼしたのも、考えてみれば横紙破りか』
『お父様の聞き分けがいい……! 神代戦争以前もこれだけ聞き分けがよければ……!』
ウェスタがすすり泣いている。
そんなに?
『……それで、今は地上の生命誕生について神はどんな風に管理しているのだ?』
『生命誕生の根源を握っているのはヘラ、デメテルセポネ、アンフィトルテの三母神ですわ。それぞれが生み出した種族の生命を管理し、理から外れないように見張っていますの』
『アンフィトルテ? 誰?』
『ポセイドスの妻ですわ。お父様が封印されてからこちらに渡ってきた神です』
へー、今度ポセイドスに会わせてもらおっと。
『ただ連中は生んだら生みっぱなしの放置女どもですから、人々が育ち、生きていくのを見守るのは私の役目です。人族魔族人魚族全部ひっくるめてそうですね』
『うわー、重要ポジション』
『ですから他の連中と比べて作業量が半端じゃないんです! その上にお父様が予定外の新生児を誕生させたから処理が追い付かずに……タスクが破綻してるんですよ! どうしてくれるんですか!!』
『頑張ろ』
『気軽に言わないで! アレを見てください!!』
ウェスタが指さす先に、また別の女神がいた。
小柄で、神としての格もウェスタたちより低そうだが、悲しげにスンスンと泣いている。
『何を泣いているんだ、あの娘は……?』
『彼女の名はエレテュイア。出産を司る女神ですわ』
ほうほう、本件に関わりありそうな女神であるな。
『人々の出産の折には、必ず彼女が立ち会って誕生を見届けなければならないのです。つまり出産の数だけエレテュイアの仕事量が増える! そしてこたびのお父様の暴挙を踏まえて、どうなると思います!?』
私の与えた恵みで、一度にたくさんの新生児が生まれるから……。
エレテュイアちゃん時が来たら大忙しだねえ。
『いやぁあああああああッッ! 残業、嫌! 休日出勤、嫌ぁあああああッッ!!』
『普段は計画的に世界中の出産スケジュールを管理していますから余裕をもって動けていましたが、お父様の押し込んできた極大予定でエレテュイアのスケジュールはパンク確定なのですよ! どうしてくれるんです!?』
それはなんか、悪いことをしました……!?
おじいちゃん、ちょっとパッションだけで突き進みすぎちゃったね。一体どうしようか……!?
『こうなったら、このベビーブーム自体なかったことにする? クロノス、時間も操る権能あるから過去改変できるよ?』
『いけません! いかに神々の予定になかったといえど、既に実を結んだ生命をなきものにはできません! それに地上の、我が子を授かった人々の笑顔を見たら、なかったことになんてとてもできないではありませんか!!』
お?
オリュンポス神族とは思えぬ慈悲深いセリフ。
『それにお父様? アナタが原因で実を結んだ生命をそう簡単にキャンセルしようなんてあまりに無責任では?』
『すみません、すみません……!?』
ウェスタがあまりに怖く睨んでくるので、ガチで怖かった。
我が娘も、私の封印中第一線で働いてきて威厳も備わってきたらしい。
『とにかくお呼びだてした用件は、お父様に責任をとっていただくことです。これから人の暦で言うところの半年後ぐらいに、我がオリュンポス生命誕生部は空前の繁忙期に入ります。まさしく生い繁ることからの忙しさですよ。ホホホホホホホホホ……!!』
ウェスタの笑い声が乾いてる……!
目が据わっている。これは戦場へ向かう兵士の目の色だ。
『この動乱と言っていい状況、なんとしてでも乗り切る方向で行きますわよ。エレテュイアもいい加減腹を括りなさい! 残業手当も休日手当も充分以上に出してあげるから!』
『ひーん』
『お父様にお願いするのは、絶対的に不足するマンパワーの補填ですわ! もう充分にわかっていただけると思いますが、いまやスフィンクスの手も借りたい状況なのです! 農耕神を名乗られてるぐらいなんですから、まいた種はキッチリ収穫していただきますからね!!』
ハイッ、かしこまりましたぁ!
……でも困ったな。
農耕神であるこのクロノスは、たしかに生命の結びと散りは範囲内だが、農耕神だから対象植物メインなんだよなあ……!
発生はともかく出産は……、大分勝手も違うだろうなあ……。
どうしよ……。
……はッ!
こんな時こそ絶好の相談相手がいるではないか。
つい最近できた新しい友だち!
早速連絡を取って見よう!!






