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09 糟糠の妻

 嫁は釣るもの。

 そうしてゲットした女房、人魚のプラティ。


 まあ、ハッキリ言って押しかけ女房なのだが、彼女を加えることで我が生活はどう変わるのだろう?


 まず色々聞いてみたところ、彼女は魔法薬を作る名人なのだそうだ。


「薬学魔法は、人魚族のオリジナル魔法だから!」


 と言うことらしい。

 一度ズボンをポーン脱いで下半身マッパになり人魚形態に戻るプラティ。海に入り、一両日音沙汰なし。そして陸へ戻ってくると手に様々なそれっぽい調合器具を携えてきた。


「家から運んで来たわ。嫁入り道具って感じね!」


 フラスコや試験管、乳棒乳鉢。昔、学校の理科室で見かけて久しく記憶の彼方に薄れたものが目の前にズラリとある。

 薬の調合道具は、異世界でもそう変りないらしい。


「様々な薬効のある草や実を、魔力を込めながら調合して魔法薬が出来るのよ。完成した魔法薬にはさまざまな効果があって、魔力のない者にも使えるから重宝がられるの!」

「なるほど」


 しかし、薬が得られるというのは助かる。

 これからの生活、病気になることもあるというか、まあいつか必ずなるだろう。

 一応都から買い込んできた道具類の中に薬類はあるのだが、使えばいつかはなくなるもの、必要な時にその都度作れるというのは頼もしい。


「あら、アタシの魔法薬をそれだけのものと思われるのは心外だわ!」

「というと?」

「何でもよ」


 プラティの回答がアバウトすぎて理解が追い付かない。


「アタシの魔法薬にできないことはないの。何でも言ってみて。即座に願いをかなえてあげるから!」


 自信満々に宣言するので、俺も彼女の腕前のほどを試してみたくなった。


「そうだなあ……!」


 俺は色々考えてみた。

 今の俺にとってもっとも気になるのは、畑の野菜たちだ。

 我が手ですくすく育つこの子らが、健やかに、出来るだけ早く実ってくれたら俺はとても幸福だ。


 人間だけでなく植物にも、健康を保つための栄養剤や植物ならではの病気に打ち勝つための薬があると聞く。

 そんな薬をプラティも作れる? とやや挑発的に尋ねてみたところ……。


「できらぁ!!」


 何故かべらんめえ口調で返された。


「要は、この畑の作物を美味しく実らせればいいんでしょう。それならバ・ニシンGの魚肥が最適ね」

「ばにしんぐ? ぎょひ?」

「ちょっと待っててー」


 プラティはまたしてもズボンを脱ぎ、可愛いお尻を丸出しにしながら海へと飛び込んだ。

 人魚化は泳ぎながらやるらしい。

 そんなに急いでいるのか。


 今度は、調合器具を取りに行った時より早く戻って来た。

 小一時間といったところだろうか。

 ただ、今回は携えてきたものが驚きだった。


 滅茶苦茶大きな魚だった。


「これがバ・ニシンGよ!」


 鼻先から尾ひれまでの長さが、成人男性の身長以上あった。

 最初見た時はサメかと思って超ビビったが、どうやら違う。大きさこそアレだが、形はよく見ると魚屋で売られるような青魚に近い。

 と言うか……。


「ニシン?」

「バ・ニシンGよ!」


 プラティから詳しい説明を聞くと、魚は魚でも魚型モンスターに分類されるらしい。

 彼女はソイツを捕まえてきて、いきなり手刀でスパンと頭を落とした。

 怖い。

 それも一種の魔法らしく、プラティはテキパキと巨大魚を切り分けて、適当に細かくして大鍋に放り込んだ。

 調合道具と一緒に持ってきた大鍋で、いかにも魔女が薬を作るのに利用しそう。

 まあ実際そうなんだろうけど。


 グツグツ、グツグツとひたすら煮込む。しかもその間中プラティもブツブツ何か呪文のようなものを唱えていた。

 煮上がった魚の肉片を掬い上げると、なんか別の機器で思いっきり搾っていた。

 搾り機?

 そんなのあったっけ?


「できた! これがバ・ニシンGの魔法魚肥よ!」

「この絞り粕の方が肥料なの? 搾り汁じゃなくて?」


 そういえば前の世界で聞いたことがある。

 化学肥料が発達していなかった昔の時代は、魚を使って肥料を作っていたと。

 それがけっこう高性能でコスパもよく、それ専用の商売に携わる人が御殿を建てるぐらいに繁盛したとか。


「これを乾燥させて、細かく砕いて……。畑に撒く!」


 それらの過程に数日はかかるんだろうが、プラティは魔法か何かで瞬時に済ませた。


「これでアナタの畑も大丈夫! 育ちも早くなるわよ!」


 それは頼もしい。

 収穫の時期が待ち遠しいのは、育て手のサガのようなものだ。


 魚肥作りの作業でけっこうな時間も経ったし、今日の作業は終わりにして休むことにした。


 プラティと一緒に取り置きしておいた海藻や貝類で夕食を摂り、一緒の小屋で一緒に寝る。

 まあ、夫婦と言うからには当然なんだろうが、さすがに掘っ立て小屋に二人暮らしは無理があるな。


 男一人なら床の上に毛布一枚で寝ても全然問題ないが、女の子にそんな真似はさせられない。

 改築するなり新しく家を建てるなりしないと……、と思うが、そう思う時点で俺、プラティとの共同生活を受け入れてない?


 あと同じ屋根の下で女の子と並んで寝るとか、俺の理性が崩壊しそうなんだけど。

 した。


              *    *    *


 翌朝。


 畑の様子を窺ってみると、作物がすっかり実っていた。

 それぞれ枝や穂の先に、豊かな実をつけて。成長の最終段階へと至っていた。


「本当に成長が速くなった!?」


 しかも想像を超える速さで!

 もうすっかり収穫できそうじゃないか!

 追肥する前は、まだまだ成長の途中段階って感じだったんだけれど!


 効きすぎだろ肥料!?


「だから言ったでしょう? アタシの魔法薬は役に立つって」


 俺のあとに起きてきたプラティは、いかにも誇らしげに胸を張った。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
[一言]「した。」…んだろうな。
[良い点] 「できらぁ‼︎」 [一言] 『初夜』
[気になる点] 「した。」という行。 消し忘れなのか、それとも・・・
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