第4話 見た目によらず
ここから3話分は別キャラクター視点です。
「はぁ〜…」
なんでか知らないけどあたしが目を引いてるらしい。フードは被ってるはずなのに、なんだこのギルド。男ばっかりじゃん。そんなに珍しいかな?
「えぇっと、今んところこの3つかな」
「そう。ありがとう」
1つ目。トレント5体ほど
2つ目。ウルフ20匹。
3つ目。グランスライム1体。
ちょっと待て、1個面白いのあるぞ。
グランスライム?なんでこんなのどかな場所に上位級がぽつんといるんだ?
「この依頼の魔物だけどさ。出没地とかって確定してんの?」
「ん?あぁこいつか。こいつねぇ図体でっかいわりに移動が速くてね。おかげではっきりとした居場所は特定できないのさ。商人の馬車が狙われた被害が出てるから早いとこ倒して欲しいんだけどねぇ」
「ふぅん?じゃあ街道沿いの平原辺りで待ってれば向こうから出てくるかもしれないわけね?」
「え?まぁそうなるかな」
「んじゃついでにウルフの依頼も受けさせてよ。暇つぶしにもなるし」
「いいけど…大丈夫なの?」
「なにが?」
「なにがって…あなた……パーティは?」
「いないよ?あたし1人」
「本気で言ってる?」
「他にあたしの知り合いが周りにいるように見える?」
なにがそんなにおかしいのか。
あ…分かった。あたしのナリか。
「あなた白魔道士じゃないの?」
「やっぱこの格好のせいか。そうです白魔道士です。けどなにか問題が?」
「ないけど、あなたみたいな冒険者初めてで」
あぁ、それで周りの奴らも奇異の目であたしのこと見てんのか。
白魔道士の一人旅が珍しいのか。
「つまり依頼達成できるかどうか、あたしだけだと不安だっていうわけか…」
「正直に言ってそうよ。かなり上位の依頼なだけに失敗は極力避けてもらいたいの。うちの信用に関わってくるから」
「ふぅん。なるほどね」
「だからせめてもう1人いれば良いんだけど…」
リアネスと名札に書いてある受付はカウンター席の方に目を移した。
つられてその視線を追うと、丈の長いローブで全身覆った奴が座ってた。あたしと似た格好だ。たぶん男だと予想する。座ってるからはっきりとはしないがたぶんあたしより背が高い。いやまぁあたしより背の高い女もいっぱいいるだろうけどさ。
その男を見てリアネスは言う。
「あなたの足を引っ張らないような人なら誰でも良い?」
「ええ。あの黒っぽいローブの?」
「そう。足手まといにはならないはずよ?」
「あいつ1人連れてくだけで依頼を受けさせてくれるなら願ったり叶ったりよ」
「よしじゃあ受諾するよ。ローブ、ちょっとこっちに来て」
「ローブ?」
「そ、最近の彼の呼び名」
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「今日の依頼は、この人の護衛で」
「…………。」こく
目深に被ったフードの所為で表情を窺えない。
薄気味悪い感じだね。あたしよりフードを目深に被ってるし。
でも周りで呑んだくれてる連中と一味違うのはわかる。
いいじゃん。
「これからグランスライムとウルフを狩りにいくから、あんたはあたしの護衛、それでいいね?」
「…………。」かくん
「…………なぁこいつなんで喋らないんだ?」
「彼が話してもいいと示さない限り、それはギルドからすれば守秘義務があるわ。よかったら彼に直接聞いて?」
「直接って……」
「…………。」
「……いや。別にいいや。付いてきてくれるだけで。それじゃあな受付さん」
「気をつけてね〜」
さてどうするか。ん?
この街、こんなに人通り少なかったかな?
なんかチラホラいる奴らはこっちを見るなり小走りで去っていく。
これもしかしてあたしじゃなくて後ろのこいつか?
「…………。」かくん
「あんたって厄病神?」
「…………。」ふるふる
「ま、どうでもいいけど…」
少し長くなってきた所為でフードから覗くこの紅い髪を見て小走りに逃げていくならまだ納得できる。だというのに、こいつはいったいなんなんだか……意思の疎通ができるだけマシか。
だけどあの受付、こんな奴寄こして本当に足手まといにならないんだろうね。
街の門をくぐったあたりで良いことを思いついた。
「そうだ。勝負をしないか?」
「…………。」かくん
よしよし。なんとなくわかってきたぞ。
要するにこの仕草はあたしに対する疑問の意思表示だな。
「あの受付はあんたを足手まといじゃないって推薦してきたけど、正直あたしはあんたをまだ信用できない。そこはお互い様だろ?」
「………………。」こく
「そこでだ。あたしの受けた依頼にウルフを20匹討伐というものがある。グランスライムが出てくるまでの暇つぶしだ」
「…………。」
「これを10匹づつ受け持って、どちらが先に10匹倒し切るかを競わないか?」
「…………。」かくん
「なんか疑問か?」
「…………。」こく
「もちろんあんたが先に10匹倒したらウルフの依頼報酬は全部あんたに譲るよ」
「…………。」ふるふる
「なにか不服か?」
「…………。」ふるふる
イラッとした瞬間の出来事だ。
手を取られてた。
「なっ!?このっ」
「…………。」ふるふるふるふる
反射的に逆の手で攻撃しそうになったのを、必死に弁明するかのような首振りを見てとどまった。首を振りながらあたしの左手のひらを上に向けられた。何をする気だ?と、あたしはされるがままになっていると、その手のひらをトントンと2度突かれた。
「文字を書くってか?」
「…………。」こく
「文字書けたのかよあんた…」
『21、いた、どうする』
接続詞を知らんのかこいつは。
「なるほど。10匹倒して、はいおしまいって状況にならないかもしれないってことか」
『5、4、7、5、5』
「バラバラに来られたら困るってか?そりゃそうか。あぁ〜どうせならグランスライムが現れるまで狩りまくって数が多かった方の勝ち、なんていう風にしたいんだけど、狩りすぎるのも環境に影響がでるからなぁ」
街からだいぶ離れた平原に辿りついた。
遠目にでも点々とウルフが見える。
背の高い草むらにも何匹かいるみたいだ。
珍しい。山に生息するような生き物なのに。
草原でテリトリーを作ってる。
「あぁ。けっこういるね。たしかに20じゃ効かないなこれは」
「…………。」こく
「じゃあさっ!」ザクッ
とあたしは杖を地面に突き立てた。
人目も少ないから、ここで自分のフードを取っ払う。
いまさら気づいたけど、街中でフードで顔を覆ってまで隠して歩く2人組がいたら、そりゃ誰だって気味悪がって逃げ出すわ。
「よーいドンでここからスタートして10体狩ってこの杖を取った方の勝ち、ってのは?」
「…………。」ふるふる
ローブはあっちこっちにいるウルフを指差す。
「いっぱいいるから10匹ちょっきしだけ狩って退くのは、他のウルフを引き連れてきちまうかもしれないから危険か?」
「……………。」こくこく
「じゃあキリのいいとこまで倒したら戻ってくる。綺麗に10匹倒せたらその時点で勝ちってのは?」
「…………。」こく
しかし頷かれた後、力いっぱいズビシッ!とあたしの杖を指差された。
「………杖なしでどう戦うのかって?」
「…………。」こくこく
あたしすげえな!?なんとなくこいつの言わんとしてることが分かるわ。
そんなあたしは、にやりとしながら杖と同じ長さの『細剣』を抜く。
「…………。」かくん
「さてね。あたしの本業は『どれ』でしょう?」
「……………。」
「あんたが勝ったらあたしの本業。あたしが勝ったらあんたの声の秘密教えてもらうからね!よーいドン!!」
「…………!」
不意打ちくらい大目に見てくれよ。だってあたしは『白魔道士』なんだからさ。
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「ほら!6、7匹目!」
一閃で2匹同時に切り裂いてやったところで周りに余裕が出来た。
ウルフの奴らは基本群れで行動するが、いくつかの群れに別れて暮らしている。この点々と集まってるウルフたちはまさにその例だろう。
1番杖に近いところのウルフの群れは全部あたしが頂いた。それでも7匹。あと3匹狩る必要がある。そこでふとローブが視界に入った。
あいつ!2番目に近かった群れをもう全部倒してる。しかもすでに3番目に近い群れのところへ向かっていた。
お互いに狩った群れの数はほぼ同数だろう。だけど杖からの移動距離が違う。ましてや不意打ちでスタートしたのにあたしの方が遅れてる?
ローブの倒したウルフを見れば、皆綺麗に首を一太刀だけ切ってその命を終わらせている。
無駄に戦う労力を割いていないからあたしより早いのか。あたしの倒したウルフと比べれば一目瞭然だった。そのウルフの亡骸には多数の傷が走っている。
負けてられない。
あたしはすぐに4番目に近いウルフの群れに向かっていった。
そういえば首を一太刀ってことはあのナリで魔法使いじゃないのか?
なんて考えているところで、
お!ちょうどいい!
あたしが向かってるところの群れちょうど3匹だ。それに対してローブが向かった方は5匹。これはもしや勝てるぞ?
「ほらかかってこいやあ!」
わざわざ自分から相手の元までいく必要もない。声をあげて呼んでやった。
すると狙い通り3匹はこちらに気づいて向かってきた。
たわいもない。先頭切って飛びかかってきたウルフの頭をカウンター気味に刎ね飛ばす。
「さぁてもうあと2匹だ」
残りのウルフたちは仲間が一瞬にしてやられたのを見て慎重になってしまった。あたしを挟んだ位置取りで同時に襲いかかってくるつもりだろう。
甘いねえ犬っころども。
そんなに離れてていいのかな?
懐から、匙を少しだけ長くした大きさのワンドを取り出し左手に構える。
「クイックキャスト!ウィンドカッター」
簡略詠唱に奴らも反応できず、はさみ打ちを狙ってたうちの1匹をこれで片付けた。
右手に細剣。左手にワンド。ナリは白魔道士だけど使ったのは黒魔法。
さてどうするワンちゃん。
尻尾巻いて逃げるかい?
《あおおおおおぉぉぉぉぉぉぉん!!!》
あ……やば……
ザザザザザザザザザザザザ
うわあああああ周りのウルフたちが一斉にこっち来たああ!
「油断したよくそぉ!」ザシュッ
未だ吠え続けていたウルフはその場で首を落とし、あたしは猛ダッシュで杖の位置まで戻りだした。
見回せばどうやらローブの奴もトバッチリを受けたようで杖の方に向かってる。
杖との距離はお互い同じくらいか。
だけどどちらにせよ遠い。これなら余裕で群れに追いつかれる。振り返ればまた20匹ほどこちらに向かって駆けてきていた。
あたしだけに20匹だ。ローブの方の奴らを加えればその倍にはなるだろう。
なんでこいつらこんな平原まで生息域広げてんだよ。普通山にいるような魔物だろこいつら。
と、あたしは誰にぶつけるわけでもない今さらな言い訳をつらつらと並べる。
「ローブ!さすがにこの数1人ずつじゃ捌けない。2人で一旦まとまろう!」
「…………。」
分かんない!お互い走ってるから首振ってんのか振ってないのか、はたまた聞こえてないのか。それでも意図は察してくれたのか、あたしの方にローブは寄ってきた。互いに杖を挟んだ位置の群れに向かわなかったのが功を奏した。
あたしはローブの奴と背中合わせになって細剣を構える。周りはすっかりウルフの群れに囲まれてしまった。