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異世界人の忘れ物  作者: ナカG
第1章 ゼルグランの人々
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第1話 駆け出し少女

この物語は主人公と接する人々の視点で描写しておりますので、読みづらいかもしれません。あくまで主人公はローブ姿の男です。

やっとです。夢にまで見た冒険者の日々がすぐそこまで近づいてきました。剣術指南所の後継を蹴ってまでこの街へ飛び出してきたんです。目指すはSランク冒険者。目標は高く持たないといけません。


街に入る前に門番と一悶着あったものの、父さんから貰った手紙を見せたらなんとか通せてもらえました。それにしてもあの門番、手紙を見てからの態度が随分違った気がするのは気のせいでしょうか。


なんてことを考えてるうちに目的の場所に到着しました。


ここが大都市ゼルグランの冒険者ギルド。

さすが大都市にあるだけあって建物も大きいです。そしてまだ中に入ってもいないのにこの圧迫感。相当手練れの冒険者たちが集ってる証拠でしょう。


そこへ突如、罵声と歓声と共にギルドの中から人が1人吹っ飛んできました。わたしは入り口の前に立っていざ!と心決めた瞬間の出来事でしたので、その方共々ギルド前の通りに吹っ飛ばされてしまいました。


「二度とその面うちに見せるんじゃないよ!あら?あらあらあら大変。だれか!ヒーラーがいたら手を貸しておくれ!」


こうしてわたし、アイビーの冒険者の日々が幕を開けたのです。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ひそひそと話し声が聞こえます。



『だって!まさかこんなに小さい女の子がいるなんて思わないじゃないさ』

『運良くヒーラーのいるパーティがいてくれて助かったな』

『なぁにこっちも仕事がなくて暇してたとこだ。あのままだったら呑んだくれになって腕が鈍ってたとこだぜ?』

『おいおい本番で使えなくなったとかは勘弁してくれよダズ』

『わあってるよアルス。そいじゃあかみさん、約束の依頼料確かにいただいてくぜ』

『かみさんはよしとくれ。まだあたしの王子様は来てくれてないんだから』

『そんなこと言ってると乗り遅れ…』

『依頼料は払ったよ!とっとと次の仕事見つけて外行きな!』

『おぉこわいこわい』

『そうだ、改めてリアさん。さっきのはスカッとしたぜ』

『そうそう。やっぱリアさんは素敵だ』

『褒めたって何も出ないよ。ほら。シッシッ』

『ちぇ〜』

『ははは!』



楽しそうな雰囲気は伝わってきました。あれ?指南所にこんな声の人たちいたでしょうか?


「ん…………んぅ……」

「おや。目を覚ましたかい?」


あたりを見回すとそこは見覚えのない寝室だった。ベッドの横には20になったかならないかくらいのサバサバ系な朱い髪の女の人が座ってた。


「あの、ここは?」

「ここはギルドの客間。あんた、うちのギルドの前にいて巻き添え食っちまったろ?」

「巻き添え?」

「……そんなに強く頭を打ったのかい?」


ギルド……あっ!そうだ。たしか入り口から急に誰かが吹っ飛んできて…。


「思い出したかい?すまん!あれあたしがやっちまったんだ。まさかあんたみたいな女の子がうちの前にいるなんて思ってなくてさ」

「い、いえそんな……避けられなかったわたしが未熟だっただけで……」

「ふむ。ところでさ、あんたの名前は?」

「え?あ、アイビーです」

「………………娘さんか……」

「え?」

「あぁいやこっちの話。さてアイビーさん、1つ聞いておこうか?ここへは何しに?ギルドへの依頼かい?」

「え…っと、あの手紙が……あれ?手紙が!?」


ふと目の前の女性がひらひらと父様の手紙を揺らしているのに気がついた。


「あんたの父親の言葉はいいんだよ。あたしはアイビーに聞いてるんだ」

「父様を知ってるの?」

「知ってるともさ。あんたの父親も冒険者だったからね。何度かこの街へ来てたこともあるよ」

「父さんも冒険者だったんだ!」

「その反応……もしかして内緒だったかな。それにしてもまさかあたしに丸投げしてくるとは」


やれやれといったていでため息をつくお姉さん。お姉さん?いや、お姉さんでしょう。 父様の知り合いらしいですけど…


「まぁこの手紙を読めばあんたがここへ何しに来たかなんて考えなくても分かんだよね。散々あんたの父親と話あったことかもしれないけどもう一度聞かせ…」

「冒険者になりに来ました!」

「…………ふふん。そうかい。よっし!今日からそれはあんたの証だ!」


と言って渡されたのは四角いカードでした。


「これは、ギルドの……え?あたし受付に何も」

「あんたが産まれる前からこのカードは作成済みさ。まぁ名前を記したのはさっきだけど…。」


しげしげとカードを見るとたしかにわたしの名前が書かれていました。


「産まれたのが女の子だって聞いてたから使うことはないだろうと思ってたけど、やっぱ親子は似るもんなんだね」

「このカードを父様が?」

「そうさ。産まれてきた子が冒険者を目指す時の為に作ってくれって、まったく気が早すぎるっての」


お姉さんはわたしをジッと見つめて言いました。


「けど時が経つのも早い。今まさにその時はきたんだ。喜びな。今日からあんたは冒険者の仲間入りだ!」


胸の鼓動が高鳴ってます。そしてお姉さんにそっと手を差し出されました。。


「ようこそ。冒険者の世界へ」


喜びもつかの間。差し出されたその手を両手で取ってブンブンしたくだりはここでは省略します。


・・・・・


「というわけで!新人冒険者のアイビーだ!みんな仲良くしてやってくれ!」

『うおおおお!!アイビーちゃあああん!!』

『こっち手え振ってくれえ!!』

『おじさん達と一緒に祝いの酒…」


スパカーン!とわたしの後ろから木のジョッキが飛んでって、わたしを誘ってくれてた人の頭にいい音を立てて命中しました。

振り返ればリアさんが何か投げたあとの体勢を立て直してるところでした。


「あんたらの仲良くってのは下心しかないのかい!!」

「あ…あはは……」


まぁ、わたしも女だからギルドに行けばこんなノリになるだろうな、とは思っていました。

予想どおりすぎて少し頭が痛いです。

でも活気が良いのは良いことです。おかげで心なしか緊張していたのもすっかりどこかへいっていました。


「さてさてさ〜て、時間もまだあるし1つ簡単な依頼でも受けてみる?」

「はい!お願いします!」


さっそく初めての依頼です。しかしわたしは新人。いきなり魔物を狩ったりすることは望みません。地道にコツコツといきます。


「そしたら、採取の依頼かな。アイビーなら熟せるだろうから2つ一気にやっちゃうか」

「はい…え?良いんですか?」

「いいのいいの。ここの全権あたしが握ってるんだし。でもちょっと森が近いかなぁ?」


街へ来るときは街道を馬車の相乗りでやってきたから魔物に遭遇することはありませんでした。でも普通に街の外で行動していれば魔物と出会わない方が珍しいくらいです。それが森の近くとなればなおさら当たり前な世界。


「ん〜。あの人の娘だからその剣を使う腕はそこそこあるんだろうけど、やっぱり初めての依頼で1人じゃ心配だな。誰か!暇な奴いたらこの子に手え貸してやってくれないか?」


『俺俺!俺やる!俺!』

『アイビーちゃん!おじさん達が魔物から守ってあげるよぉ!』

『バカ野郎お前!アイビーちゃんの今後を考えたら自分で戦えないと危険だろ!?ということでアイビーちゃん!俺たちが手取り足取』


スパカーン!


「うぅん困ったね。せっかくだから日のあるうちに1つくらい依頼をクリアさせたいんだけど、昼間っから酒に浸ってる所為で男共はあんなだし、あたしが付いてってもいいんだけど今日このあと外せない用事があるし……」

「いえ、気にしないでください。今日は冒険者になれただけで満足で」

「そんなこと言ってここいらの連中みたいになられたらあんたの父親に合わす顔がないんだよ」


『『うへへ〜い!』』


「うへへいじゃないってのこの呑んだくれ共」


食い気味に遮られてはわたしは何も言えませんでした。そして何というかリアさんの言葉には説得力がありました。


受付越しにいるリアさんはギルドの名簿のようなものを引っ張りだしてきて難しい顔をしながらそれをめくっていきます。


特に断ることも出来ず手持ち無沙汰になったわたしはさっき貰ったばかりのカード眺めていました。


ふと、ギルドの中が静かになりました。

まるでさっきまでの喧騒が嘘みたいに。

そんな静けさの中に響くコツコツとした足音。


何ごとかと振り返ったそこには人が1人、わたしのすぐ後ろに立っていました。

というか、高い。父様より遥かに背の高い人が…………人なのでしょうか?

もう長いローブにすっぽりなうえ顔もフードで隠してるから分かりません。


わたしが立ちすくみあわあわ言ってる後ろから助け舟が来てくれました。


「ああ!あんた久々だねぇ。元気してた?」


どうやらリアさんの知り合いの方らしい。驚きました。ギガース族かと思いました。


「でも待てよ……あんたがここに帰ってくるってことは……」

「…………。」

「だよねぇ……」


え!?今この人なにか喋りましたか?

真ん前で見てたけど、少しユラユラ揺れただけです。


「あいにく、まだその手の依頼は届いてないね」


なんでしょう。今までご機嫌だった周りの冒険者さんたちが一様にこの人を睨んでる気がします。


「…………依頼が来るまであんた暇だよね?」


はい。嫌な予感。

そしてまたユラユラと揺れてるローブの人。


「したらこの新人さんと依頼こなして来てよ。この子について行くって依頼はあたしが出すから」

「…………。」こく

「オッケー!したら任せたよ」

「………………。」こく


流れるように話が纏まってしまいました。


「リ、リアさん!?」

「というわけでアイビー。この兄ちゃんなら特になんもないと思うから安心して行っといで」


さっきと違う意味で不安なんですけど!?


「おっと、時間だ。じゃあアイビー。依頼達成の報告はあたしが帰ってきてから聞くからそれまで頑張って、と言ってもあんまり時間はかからないとは思うけどとにかく頑張れ」

「えっと……え〜……」

「あたしが帰ってくるのは夜かな。それまでに終わって帰ってきちゃってたら、飯はやってるからお腹空いたらなんか食べてさっきの部屋で休んでていいから」

「はい。……いえあの……」

「じゃあ行ってくるわ」

『『はぁーい!いってらっしゃい姐御!』』

「その呼び方はやめてって言ってるでしょうが!!」


うそぉ〜…………。

リアさんどこかへ出かけちゃいました。



「………………。」

「…………その……よろしくお願いします」


もはやリアさんの助け舟が泥製でないことを祈るばかりでした。

1,2,3話のあとの4,5,6話はまた別のキャラクター視点のお話になります。

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