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私は嫁になりきりたい  作者: 幾田多理香
2/2

私はヒロインを嫁にしたい

 自分が恋愛RPGの女主人公に転生してしまったと気づいたのは、物語が始まる時、つまり高校の入学式の最中だった。

 どことなく聞き覚えのある学校名、見覚えのある校門、記憶に引っかかる入学式。

 普段なら速攻居眠りをきめている式の最中に頭をひねっていると、ふと斜め前に見えた明るい茶色のふわふわとした頭が目に入って、全てを思い出した。


 私は俺だった!


 今まで感じたことのない衝撃が頭の天辺からつま先へ奔る。

 ずっと感じてきた違和感、私は女の子のはずなのにどこか女の子らしくない方がしっくり来た15年。それもそのはず、どの男キャラよりも男らしい主人公(女)である松川聖子とは私のことだったのだ。

 そう思った途端、全てのことがしっくりとはまったように感じられた。

 お人形遊びよりもチャンバラごっこが好きだったり、着飾ることは嫌いじゃなくても過剰なものは好まなかったり、魔法少女より戦隊ヒーローが好きだったり…。なお、前世の記憶によると魔法少女も嫌いでは無かった模様だがそんな事はどうでもいい。

 壇上で続く校長の話を聞き流しながら、前世の「俺くん」が大好きだったRPGの主人公、松川聖子と松之院聖、その片割れに自分が転生したのだという事実を噛みしめる。

 そう、「俺くん」はそのゲーム、ティンクルストライカーズ!のヒロインを愛していた。


 聖きゅんなら抱ける。


 TS!の男主人公である松之院聖は、とても可愛らしい男の子だった。男の娘ではない、まっとうな少年だった。だがそれがいい。

 別に「俺くん」はホモではなかったのだが、聖きゅんの可愛さは性別とかそんなの関係ねぇと多くの人間をイケない道へ踏み外させた超人気キャラだ。ネットや即売会ではあられもない聖きゅんの二次創作が溢れ、幾多あるカップリングでは9割9分右側に表記され、半裸の抱きまくらが公式で発売された程。「俺くん」も例外ではなくその諸々に手を出しており、聖きゅんがアンアン言ってるならなんでも良いとばかりに腐った薄い本の列にも毎年二回並んだものだ。

 TS!は最初に男女どちらかの主人公を選択して開始するのだが、どちらを選んでも相方であるもう一人の主人公とのエンディングを見ることが出来、この二人の組み合わせの時の聖きゅんが一番かわいいと評判だった。

 そして今、俺もとい私は女主人公・松川聖子。これはもう、聖きゅんを嫁にするしか無いでしょう。

 そうしてゲームの攻略を思い出そうとしているうちに、入学式は終わってしまった。


 手洗いに行き、自分が女で有ること自体には違和感を覚えず、日常生活には特に問題は無さそうだという確認をしてから校舎裏へ向かう。

 確かゲームの最初は入学式の後に校舎裏の伝説の木ちっくな大木の下で聖きゅんに会い、どちらかを召喚しようとした魔法陣によってふたりとも異世界に飛ばされる、という話だったはずだ。

 自分が主人公に転生したと言うことは聖子こそが勇者で、聖きゅんに会わなければ巻き込まずに済むのかもしれないが、そんな事をしたら聖きゅんを他の男女に取られてしまう。それに聖きゅんが勇者だったとしたら、彼を一人で危険な世界へ行かせる事になってしまう。それだけは避けたかった。


 校舎裏に有ったのは、画面の向うに見ていた時よりも立派に見える大きな木だった。

 広く高く枝を伸ばし、青く茂った葉がいっぱいの陽光を受け止めるその下に、柔らかい茶色の頭が有った。

 あまり高くない身長に、どこか華奢さを感じさせる長い手足。風にかき回されるふわふわの茶色い髪の毛を抑えた手を下ろして上げた顔には、きらきら輝く焦げ茶の瞳がはまっていた。


 気がついた時には駆け出していた。


 逸らされることのない視線を交わしながら、彼の足元に光る魔法陣を無視して、華奢で、それでも男の子なのだと理解できる薄く筋肉に包まれた体を抱きしめた。

 細くて吸い付きたくなる首元に顔を埋めると、ふわりと桜の香りがした。


「大丈夫、聖きゅんは私が守ってやる」



 校舎裏の景色が遠くなるのを見ながら、抱きしめる体と、ゆるく抱きしめ返される腕だけを感じていた。

この後は、お互いしか目に入らないバカップル勇者がファンタジー世界で魔王を倒しに行く珍道中になると思います。

主にヒロインの中の人の残念っぷりが書きたかった。反省はしてません。

次話投稿は未定です。完結済みにチェック入れ忘れてたので修正しました。

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