出発
翌々日の早朝、まだ日が完全に昇り切らない薄暗い中、ハルカ達は第一防壁の外側にある騎獣の繋ぎ場に集まっていた。彼女達の他にも何組かのハンターが出発準備を進めている。シュトラスの世話係も忙しそうに鞍の装着や羽のブラッシングを行っていた。
「そろったみてえだな。それじゃあ紹介しておく」
アルゴが全員を見渡すと、口を開いた。
「ヴェチカは知ってるな。その隣がうちの新戦力、ハルカだ。見た目からは想像できねぇ程、強えから鍛えて貰え。あと、戦闘以外の常識はさっぱりだからお前らがフォローするように」
「あのねえ!…えと、ハルカです。よろしくね」
初対面の人間にその紹介は無いだろうと思いながらも、反論もできない。しかたなくハルカは微笑みながら挨拶をした。
「こいつらはうちに入りたての若手だ。だが、まあ、それなりに腕はある。ほら!全員挨拶!」
アルゴが軍の士官のように、並んだ三人に号令する。
「はい!マルコットです。よろしくお願いします」
「うす!ランドです。お願いします!」
「はい。ブラハです。よろしくです」
彼らが元気よく声を張り上げる。三人ともまだ若い。少年から少し大人になったくらいの雰囲気だ。ランドとブラハには獣耳があるので獣人、もしくはハーフなのだろう。街を歩いていても、それほど獣人を見かけない事からも、ハンター、とりわけシルバーロアは獣人の比率が高いのだという事がわかる。
「ん?そういや、最近いつもヴェチカにくっついてる使い魔はどうした?」
「ここだよ」
ヴェチカが疑問を口にしたアルゴに持っていた杖を見せる。
「ああ、ニアはどうしてもシュトラスが怖がるので杖の中でお留守番、かな。何かあればすぐ出せるしね」
「へ~、アースリングの遺産でもアーティファクト級だな、それは」
感心したようにアルゴが呟いた。
(アーティファクト級か…)
ハルカが現在悩んでるのはその点だった。一度試してみたが、ニアを杖から再び呼び出すにはエネルギーブレットが必要だった。そして、これは自動で補填されたりしない。ゲームで言うなら有料アイテムなのだろう。ニアを自在に使うには、何らかの手段を用いて補充する必要があった。
(戦闘時には、さらにエネルギーブレットが必要になるし…現在あと5発。余裕があるうちにどこかで相談しないとな~)
アーティファクト級というなら、そう簡単にはいかないかもしれない。誰に頼むのかも悩みどころだった。
そうこうしているうちに、もう一人、壮年の男がその場に姿を現した。
「ようやく来たか」
「すまんな。ちょっと急用が入ってしまってな」
軽く上げた右腕がカチャリと小さな音を立てる。ギルドマスターのゼオニスだった。
「あなたがハルカさんですか。この街のギルドマスター・ゼオニスです。よろしく」
アルゴと話す時とは違う、少し余所行きの顔でゼオニスがハルカに向かって右手を差し出す。
「よ、よろしくお願いします」
ハルカは恐る恐る差し出された右手を握った。
「アルゴから聞いていますよ。凄腕だそうで」
「えっと、恐縮です」
自分よりも強そうな人間に褒められると、さすがに少々居心地が悪い。
「聞くところによると、そんな腕に見合った武器が無いとか…アルゴに頼まれましてね、こちらを持ってきました」
ゼオニスが腰につけたアイテムケースから一振りの剣を取り出した。美しい細工がなされた鞘に収まった姿は装飾品のようにも見える。
「どうぞ、手に取ってみてください」
その剣がハルカに差し出された。ハルカは言われるままに手に取り、すっと鞘から剣を抜いた。
スラリと長い剣だった。分類としてはエストックあたりになるだろう。よく手入れされた剣身にはうっすらと刃紋が見える。その刃紋は日本刀に現れる波ようなものではなく、どちらかといえばダマスカス鋼製のナイフに現れるものに似ていた。
「これは…良い剣ですね…剣身に僅かな歪みも無い。グリップやガードの装飾も、持った時のバランスを考えられて施されているようです」
ハルカは剣に見惚れながら言った。刀剣オタクの地が少し出ている。
「ちょっと振ってみてもらえませんか?」
ゼオニスが先ほどとは違う、鋭い目つきでハルカを促した。
ハルカは真剣な目で剣を上段に構えると、すっと下まで振り下ろした。そこから上に切り返し、数歩の足捌きを経て左右へと剣を振る。これを瞬速でこなせば飛燕という技となる。彼女が多用する技の一つだった。
「…ほう」
ゼオニスが感心して息を吹いた。アルゴが入れ込むのも分かる。これなら確かにファーラットも剣を打つ可能性が高い。
「噂に違わない腕のようです。その剣はお貸ししましょう」
手を叩きながらゼオニスはハルカに声をかけた。
「いいんですか!?」
思わず喜びの声を上げる。ハルカにとっては現実となったこの世界で初めて手にする名剣だ。使えるなら剣オタクとしても言う事はない。
「ええ。ですが、あくまで貸すだけですよ。貸すだけ!」
妙に「貸す」の部分に力が入っている。なんとなく血の涙も見えそうだ。
「わ、わかってます。ええ…」
ゼオニスのすごい迫力に、ハルカは思わず剣を握りしめて後ずさった。
「あんた忙しいんじゃないのか?そろそろギルドに帰ったらどうだ?」
アルゴが呆れながらゼオニスを追い払おうと声をかける。
「ん?ああ、そうだった。そろそろ失礼しよう。ハルカさんに、それからヴェチカも。気を付けて行って来てください」
「うん。ゼオのおじさんもお仕事頑張ってね」
「ああ。ありがとう」
ヴェチカの言葉にさすがのゼオニスもにっこりと微笑む。そしてそのまま門の方へと歩き出した。
「助かったぜ」
すれ違いざまにアルゴがゼオニスに軽く礼を言う。少し笑ったゼオニスは、素早くアルゴに寄ると短く耳打ちした。
「厄介な問題が起きてる。お前に指名依頼だ」
聞いたアルゴは朝から憂鬱な表情をする羽目になる。ここで言ってきたのは絶対に嫌がらせだと確信していた。
「すげ~っす!振りが見えなかったっす」
「姐さんって呼んでいいですか?」
「すごい技でした。尊敬します」
ハルカは三人の少年たちに囲まれていた。彼女の剣技は彼らのハートをがっちりキャッチしたらしい。純真な目を輝かせながら褒められると悪い気はしない。
「ありがとね」
気恥ずかし気にハルカは礼を言った。
「お前らいいからそろそろ出発しろ!ヴェチカの採取する時間が無くなっちまうだろうが!」
浮足立っている三人にアルゴが怒声を上げる。
「「「了解です!」」」
三人はそろって返事をすると、自分の割り当てられたシュトラスに走り寄り、急いで跨った。
ハルカとヴェチカも二人でちょっと大きめのシュトラスに騎乗する。ハルカの前で小さなヴェチカが手綱を持つさまは少し微笑ましい。ハルカにとっては恥ずかしい事だが、この際仕方なかった。
「向こうで時間を見つけて奴らにちょっくら稽古つけてやってくれ」
アルゴがシュトラスの上のハルカを見上げながら言った。
「うん。わかった」
「じゃあ、気を付けて行ってこい!」
アルゴのその言葉を合図にシュトラスが走り出す。その姿はすぐに木々の間に隠れ、見えなくなった。
ゲーム時代のハルカのラフを描いてみました。
興味ある方はどうぞ。
http://15901.mitemin.net/i173070/




