先生なんて嫌いだ
字数が少ない分、じっくり読んでみてください。
こんな悪夢を見ている。
『えーと、あれ、なんてったっけ? あの丸くて白いあの……、あれ。ちょっとあのそんな感じの。具体的にいうとあの……丸いの』
僕は学校のせんせいだ。黒板にこんなことを書きつけ、教室にいるこどもたちに、これをテーマに作文を書けと言う。始めの合図だとばかりに僕は手をたたいた。
こどもたちはぶつくさと何やら僕に聞こえるようで聞こえないようなことをぼやきながらも、机に向かい始める。鉛筆を動かすスピードはこどもによってまちまちだ。気まぐれで、誰がどのくらいの手際の良さなのかを僕は確かめようと思った。しかし、すぐにどうでも良くなった。基本的にはどの生徒も何も書けないようだ。
ただ教壇の上に立っていても所在無いものだから、教室中をぶらぶらと歩き回ることにした。こどもたちからは見回りをしているせんせいのように見えるだろう。
机も椅子もまだ新しい。ロッカーも立派だ。床もあまりに綺麗で、少しの芥が落ちていようものなら、とても目立ってしまう。現に教室の後ろの方まで行ったときに、床に違和感があった。かがんでそれを拾ってみると、消しゴムのかすだった。
目を見張り、僕はその近くの机のこどもの紙を見た。まだ書き終わるには程遠いといったところだが、三、四行の文章が書かれていた。内容までは詳しく見なかったものの、後でこども全員分の作文を集めた時に見れば良いだろう。――それにしても、あんなテーマでよく作文なんて書けるものだ。僕なら書けない。
ふと、教室前方の壁を見上げた。黒板の上には額縁にクラス目標なるものが書いてあるはずだ。その内容がとんと思い出せないので、見て確かめようとした。が、逆光のせいでよく見えない。最後に掃除したのはいつだったっけ。
僕は教壇の上にスタスタと戻って行く。教卓の裏に立って、
「お前らー、あと十五分だー。さっさと書き上げろー」
こうしてハッパをかければ、なんだかんだで書き上がるのだ。ふわぁ、と僕はあくびをした。不謹慎なのかもしれないが、どうせここにいるのはこどもたちだけだ。誰も咎めやしない。残りの時間をボーっと過ごしていると、終業のチャイムが鳴った。
後ろから前のこどもへと作文が回ってきた。紙の束をざっと見てみる。ほとんどのこどもたちが、行間をあけ、大きめの字で書いていた。これでは大した字数にはならない。作文を書くというノルマは達成しているので、どうでも良いといえばどうでも良いが――。
早く休み時間にさせろとこどもたちが視線で物語ってくるので、日直に号令をかけさせ、僕はこの教室から出て行った。
ほかの時間はほかの場所でこんなことをやらなければならない。
――誰か、この悪夢から目覚めさせてくれないものだろうか。
この作品の主題は、半分はタイトル通りです。もう半分は…………。