第8章
また依頼を受けることになった。
「今度はコカトリスの卵が欲しいんだ。コカトリス自体は倒しても構わない」
「分かりました」
「コカトリスって石化する光線を目から撃つとか……」
「よくご存知ですね」
「その点は抜かりないぞ。これを持っていくといい」
そう言われ渡されたのは人の顔ほどの鏡だった。
「ありがとうございます」
「行ってきます」
「まて、場所分かるのか?」
「そうですよ。先に場所を聞きましょう」
「ここから半日歩いたところにある森の中に住んでいるとの事だ」
「分かりました、行ってきますね」
森の中を半日ほど歩いただろうか。木の上にコカトリスの卵を発見した。しかし、
コカトリスも発見してしまった。
「ギャア、グギャアア」
叫び声を上げながらつついてくるコカトリスの攻撃を避け、攻撃する機会を伺った。
しかしそれは杞憂に終わったようだ。目から石化する光線を撃ってきた。
待っていたかのようにエリュニスが鏡を掲げた。ルシェットはしゃがみこんで目を
瞑った。
「ギェェェェ」
光線は鏡によって跳ね返され、コカトリスは石化してしまった。
エリュニスが木の上に登り卵を持つと下に降りた。
そのまま帰ると思いきや、ぐぅとお腹がなったようだ。
そういえば依頼を受けたまま何も口にしていない事に気が付き、干し肉とビスケットの簡易的な食事を用意した。依頼を受けたまま食事をすることは少なかったかなと思いながらビスケットをかじるとほのかな甘さが疲れを癒してくれた。
食べ終わったら後は帰るだけだった。重い腰を上げ、卵を抱え街の方へと戻った。
「持ってきましたよ、卵」
「ご苦労さん、これは報酬だ」
「結構たくさんありますね」
「なんでも貴族からの依頼らしくてな、それで報酬も多いんだ。そうだこれを届け
てくれるか?」
「卵をですか?」
「そうだ、駄賃くらいはもらえるかもしれないぞ」
「やります」
「エルフード一家っていう貴族からの依頼だ。ここから高級住宅地へ行き、青い
屋根が目印だ」
「分かりました。行ってきますね」
「……行ってきます」
高級住宅地へ入り、青い屋根を頼りに探すと程なくしてエルフードの家は見つか
った。2回ノックすると中から人が出てきた。
「……まぁ、あなた達が依頼を受けてくれたの。中へどうぞ」
「お邪魔します」
中へ入ると程なくしてメイドが紅茶を用意してくれた。メイドに卵を渡すと2人は席に着いた。
「私ね、コカトリスの卵で作った料理を食べてみたかったの」
そういう彼女は金髪で緑の瞳をしていた。ドレスを着ていて綺麗でどこから見て
も貴族という感じだ。
「紅茶、美味しいです。砂糖を入れなくても甘い香りがしますね」
「……美味しい」
「林檎のフレーバーティーなの。口に合ってよかったわ。後はこれ、お駄賃よ。受け取って」
そう言って袋に入った硬貨を受け取った。ずしりと重く、お駄賃にしては多すぎるといった印象だ。
「すみません。こんなに沢山もらってしまって」
「いいのよ。はした金だし」
どうやら貴族だと金銭感覚がずれているらしい。
「ではこれで失礼します」
「待って!」
「どうかしました?」
「私、庶民の者と話すのが初めてなの。だから、話し相手になってくれる?」
「いいですよ、冒険の話くらいしか話すことがないですが」
「冒険の話! それでもいいのよ。ドキドキするわ」
「そうだ、自己紹介が遅れましたね。僕はエリュニスです。後ろにいる彼女はルシェ
ットといいます」
「……ルシェットです。よろしくお願いします」
「私はリリアンよ。2人ともよろしく」
「では失礼しますね。さようならリリアンさん」
「……さようなら」
貸住宅へと戻ってきた2人は余ったメルカの実の使い方に困惑していたが、とりあえずジュースにして1日1杯づつ飲む事にする。ルシェットだけでなく、エリュニスも一緒に飲むことになっていた。
「まさか本当に効果があるなんて……」
「でも魔力が増えたのは嘘じゃない」
「そうですね。毎日飲みましょう」
そう言ってジュースを飲んだ2人は夕食をまだ食べていない事に気がついた。
「何か作りましょうか」
「……手伝う」
「ありがとうございます。何を作りましょうか」
「卵料理が食べたい……」
「ではオムライスにしましょう」
ピラフ部を作り上に卵を被せる。その上にケチャップを乗せた。
店で作られているものとは随分かけ離れているオムライスだがなんとか完成したようだ。
「できましたよ」
「美味しそう……いただきます」
オムライスを口に運ぶと卵がふわっとはしていなく、どちらかというとパサついた食感がし、ピラフ部はニンニクとバターの風味がした。口の中がパサパサした感じを水で洗い流すように飲んだ。
食べ終わった後は皿洗いをし、風呂に入り眠るだけになったということで寝巻きをエ
リュニスが取り出した。以前に買ってそのままだったのを思い出したのだ。
「ルシェットさん、これ寝巻きです。」
「ありがとう……」
先にルシェットが風呂に入ることになった。とは言っても正確にはシャワーだが。シャンプーを髪の毛に付け、髪を洗うと石鹸を体中につけると洗い流した。
風呂から出たルシェットは寝巻きを着た。ひらひらしている部分が多く、少しドレスに近いものだ。
ルシェットが寝巻きを着たところをエリュニスにみせると彼は似合うと言ってくれた。
少し気恥ずかしいような感じがする。だがそれもすぐに慣れるだろうと解釈をした。
寝巻きの披露も終え、後は寝るだけになった。