第6章
「蜂狩り!?」
依頼所で2人はびっくりした表情を見せていた。
「そ、前に野苺を取ってきてって言っただろ。実はあの後蜂が
異常に成長してしまってな。モンスター化してしまったんだ」
「それは、それは……」
「成長したやつだけ警戒心が強いみたいでな、ジャイアント
ビーと呼んでいるが、野苺を取ろうにも苦労しているというわ
けなんだ」
「じゃあ、ジャイアントビーだけ倒せれば他に蜂の巣を攻撃し
ないで済むというわけですね」
「まぁ、そういうことだな」
「それならなんとかなりそうですね。出発しましょう」
「行ってきます……」
街を出た2人は森の方に2時間ほど歩くと野苺の群生地にたど
り着いた。
「たしかこの場所のはずでした」
「……うん」
野苺を吟味する真似ごとをしながら蜂の巣を探すと。蜂の巣の
正面に数匹のジャイアントビーが発見された。
「……ファイアー!」
一発だけ魔法を打ってその後逃げるふりをしながらジャイアン
トビーだけをおびき寄せる。
「……ライトニング」
次々と退治する脇からジャイアントビーが襲ってくる。回復薬
を作ってきて正解だと2人は思った。
「……あ」
マナ切れを起こしたルシェットがへたりと座り込む。そのまま
バッグの中をあさりマナ回復薬を取り出すとぐびりと飲んだ。
その後立ち上がると魔法の詠唱を再開した。
ジャイアントビー達を退治すると、疲れたのか2人とも座り込
んでしまった。
「……疲れた……」
「そうですね、流石に疲れました。報酬を多めに貰わないと割り
に合いません」
「怪我ない?」
「大丈夫ですよ。ルシェットさんは大丈夫ですか」
「平気……」
「さあ、そろそろ戻りましょうか」
「待って……。野苺を採取していく」
「それもそうですね。せっかく来たんですし採取していきましょう」
籠の中に一杯になるまで野苺を詰めていき、その後街に戻った。
「ただいま……」
「ただいま戻りました」
「何だ、野苺も採取してきたのか」
「そうですが……売ります?」
「じゃあ蜂狩りの分と野苺の分まとめて報酬だ」
「ありがとうございます」
「さて、これからどうしましょうか」
「お腹すいた……」
「では貸住宅へ戻りますか。何か作りますよ」
2人は貸住宅へと戻った。
「さてと、何を作りますか」
「甘いの食べたい……」
「ではパンケーキを作りましょう」
「パンケーキ?」
「フライパンで作るケーキみたいなものですよ」
そう言いながらボウルに小麦粉、砂糖、卵、ミルク、ベーキングパウダー
を入れた後混ぜてからフライパンに生地を流し込み、周りがプツプツと
泡のようなものができるとひっくり返し焼けたものに、バターを載せ
蜂蜜をかけた。
「できましたよ」
「いい匂い……いただきます」
ナイフを入れ切り分けるとフォークを刺し口元へと運ぶ。素朴だがバ
ターの香りと蜂蜜の甘さが癖になり、気づけば完食していた。
「美味しかった……ごちそうさま」
「それはよかったです」
「エリュニスは食べたの?」
「ええ、いただきましたよ」
そう言ってエリュニスは微笑んだ。
ああ、そうだ。いつもこの笑顔にやられてしまう。ルシェットはエリュニス
の柔らかで優しい笑顔に弱かった。何か言おうとしても笑顔を向けられると
忘れてしまう。
「どうかしました?」
「あの……何でもないです」
そう言ってベッドに顔をうずめた。最近はベッドで横になることが多いなと
我ながら思う。
けれど満腹感が先に襲ってきてその後眠気が来た。ベッドで横になるうちに
気づけば寝ていた。
「何か言いたいことがあったんでしょうか……」
そんなエリュニスの言葉もルシェットには気づかないようだった。
翌朝。2人は魔法の練習をしていた。
「……はぁ、疲れた……」
「お疲れ様です」
「私にもっとマナがあれば……」
「そうですね……噂ではメルカの実を食べ続けて魔法を使えるようになった
人がいるそうですが……」
「それだ、メルカの実かぁ」
「結構高いんですがマナが増えることを考えればやってみても良さそうですね」
「明日買う?」
「そうですね、明日買いに行きましょう」
翌日2人はメルカの実を買いに来ていた。
「これをたくさんください」
「はいよ」
「このくらいあれば十分ですね」
買い物袋の中を覗き込んだエリュニスはそう言った。
「……うん」
そして2人は貸し住宅へと戻った。
「いただきます」
籠に山と積まれたメルカの実を見てルシェットは言った。これを1人で食べるの
かと思うと気が重くなる。けれどそうもいってられない。総合的なマナの量が増
えるとなれば、嬉しいとしか言い様がない。
メルカの皮をむき、実を食べると甘酸っぱい味が口中に広がった。またメルカの
実にかじりつく。とにかくたくさん食べなければ効果はないとのことだ。
「……う、もう限界……」
3つ食べた時点で限界を迎えてしまった。少ないと思うが、彼女は普通の食事でも
半分が限界だ。それを思うとよく食べたものだと感じた。
「残りはまた後で食べましょう」
これから数日1日3食メルカの実を食べなければいけないと思うとルシェットはう
んざりしそうだと思った。
しかし我慢して食べ続け、昼間は魔法の練習をし、食事はメルカの実というメニ
ューが数日続いた。
2週間たっただろうか。普段は魔法を10回でマナ切れを起こしてしまうのだが、
11回魔法を出すことに成功した。
「あ、いつもより1回多い……」
「おめでとうございます」
次の日も11回魔法を出すことに成功した。少しづつだが成長していくのが嬉しい。