第5章
セヴェルと別れたあと2人は貸し住宅へと戻った。
着いたとたん2人はベッドに顔をうずめた。相当疲れが溜まっていたのだろ
う、そのまま寝てしまうほどだった。
翌朝、だらだらと日々を過ごす。あの時起こった絶体絶命のことなんてなか
ったかのようだ。けれど、このゆったりとした時間がひどく幸せだとエリュ
ニスは感じた。
ずっとこのまま過ごしていたい。それはルシェットも同じようで、なんだか
安心した気分になっていた。
「今日はゆっくり過ごしましょう。買い物とか欲しいものはありますか?」
「……特にないかも……。でも、魔力を回復するポーションをたくさん作
れたら、便利かな……」
「確かこのポーションはメルカの実を絞ってジュース状にした物を煮詰めて
作ったものだと思いますね」
「ここだと調合できないけど、前に住んでいたところならきっと……できる
はず」
「では、メルカの実を買いに行きましょう」
「うん……」
街を出た二人はメルカの実を買いに出かけた。量が多く、重い所を我慢して
歩く。しばらく歩いた後、ルシェットが住んでいたと言われる小屋に着いた。
「お邪魔します」
「……帰ってきた」
「で、メルカの実を絞っておけばいいんでしたっけ」
「ここじゃなくて奥の部屋に大きな壺があるから、そこに絞っておいて」
「はい。それにしても随分大きな壺ですね」
「調合用に使ってたから……」
メルカの皮をむき実を絞る。数が多いからこれだけでも一苦労だ。絞り終え
た後壺の下にあるかまどに火をつける。火をつけたら壺の中をかき混ぜる。
焦げないように注意してかき混ぜてると段々ジュースの色が濃くなりかさも
減る。ジュースのかさが半分になったら火を止め、ポーションの空き瓶に詰
める。
「出来た……」
「これがマナポーションなんですね」
「ついでに体力回復ポーションもつくろう」
「え、今からですか?」
「……駄目?」
「いいですよ。材料がないんでしたっけ」
「そう。だから材料選びから」
小屋の外に出た2人は採集用の籠を背中に背負い、薬草を採りに出かけた。
「たしか、これでしたよね」
「うん。葉がギザギザになってるのが薬草」
籠の中に薬草を入れていく。籠の中が一杯になったところで小屋へと戻った。
小屋へと戻った2人は調合を始める前に昼食を取ろうということになった。
昼食はクラッカーと干し肉だった。口の中がモサモサになってきたところに
水を流し込む。口の中がさっぱりとした所で、調合の方に移ることにした。
茎を取り除いた薬草をちぎって洗った壺の中に入れていく。またかまどに火
をつけ、煮詰めていく。柔くなった薬草を乳鉢に移しすり潰す。それを繰り
返し最後に漉して、試験管に移して体力回復のポーションが完成した。
「完成……」
「ちょっと苦そうですね」
「良薬口に苦し?」
「そうですね。すみませんでした」
ポーションをカバンの中に入れていく。その後は貸住宅へと戻った2人だった。
貸住宅へ戻った2人はだらだらとした日々を送っていた。ずっとこの時が終
わらなければいいとエリュニスは思った。
その夜。どうにも寝付けなくてエリュニスは酒場へと向かった。
「いらっしゃい、何を飲むかね」
「ジントニックを1杯お願いします。あとナッツを」
「あいよ」
しばらくしてから注文したものが出てきた。ナッツをつまみながら、酒に口を
つける。
「美味しいですね」
「そりゃよかったなぁ」
さっぱりとした酒の味は頭をすっきりさせてくれる。ごくごくと飲んでおかわ
りを頼んだ。
「そういや例の子はどうしたんだ?」
「ぐっすり寝ているので置いてきました」
「ちょっと酷くないか? 次に来るときには連れて来いよ」
「ええ、そうしますね」
酒場から貸住宅へと戻ったエリュニスは眠りについた。
次の日。2人は買い物へと向かっていた。
まずは洋服屋へと向かう。少女の寝巻きを買うためだった。今までずっと寝巻
きがないままだったので可哀想に思って買った。
次に食料品を多めに買っていく。手作りのものだとルシェットも手伝ってくれる。
色々な料理や食べ物があるということをルシェットに教えたかった。
貸住宅へと戻った2人は料理をしていた。
「今日は何作るの?」
「そうですね……ペペロンチーノでも作ろうかと」
ペペロンチーノは材料がシンプルなので料理の腕が問われるメニューだが、材
料が少なくても作れるし、金がなくても食べられるので重宝する。
スライスしたニンニクの香りをオリーブオイルに移して、パスタの茹で汁をソ
ースに入れ、細かく混ぜて乳化させる。そこに茹でたパスタを入れて混ぜ合わ
せる。器に盛り付けて完成した。
「いただきます」
「……いただきます」
パスタを口にしたエリュニスはそこで少し止まってしまった。
「……どうしたの、エリュニス」
「いえ、やっぱりペペロンチーノは作るのが大変そうだと思って」
「……でも、美味しいよ」
「ありがとうございます、ルシェットさん。夜になったら酒場へと連れていっ
てもいいですか?」
「酒場?」
「酒を楽しむ場所ですよ。ルシェットさんには少し酒が早いですが、ちゃんと
ノンアルコールのカクテルを用意してると思っていますよ」
「……お酒、飲んでみたい」
「駄目ですよ、もう少し経ってからですね」
「エリュニスは酒飲めるの?」
「飲めますよ。こう見えても成人してますし」
「エリュニスの歳いくつ?」
「21歳ですよ。ルシェットさんは16歳でしたっけ」
「うん……、酒場楽しみ」
「それは良かったです」
そして夜になり、2人は酒場へと向かっていた。
「いらっしゃい。お、エリュニス例の子を連れて来てくれたのか」
「僕はソルティードッグを。彼女にはノンアルコールカクテルを」
「わかったよ」
しばらく経って、ソルティードッグとノンアルコールカクテルが運ばれてきた。
「これがノンアルコールカクテル……」
「シャーリー・テンプルって言うんだ。甘くて飲みやすいカクテルだと思うぞ」
口に含むと甘く、後味がさっぱりとしている。ルシェットはこのカクテルを好き
になった。
エリュニスの方を見ると彼は酒を飲んでいるようだった。酒を楽しみながら飲んで
いると思った。
「シャーリー・テンプルっていうの、おかわり」
「はい。今作るからな」
またしばらく経ちシャーリー・テンプルが運ばれてきた。受け取ってぐいっと飲んだ。
「ご馳走さまです」
代金を机の上に置いて、2人は酒場を後にした。