第4章
しばらくの間のんびりと過ごしていた2人だったが、依頼を受けることに決めた。
「今度のは護衛任務だ。エリュニス、お前を指定しているな」
「その相手って……」
「エリュニスは私が指名したの。アイシャっていうのよろしくね」
「ああ、はい……」
じろじろとルシェットを見たあとそう言った。
「それにしても……、随分地味な子ね。ねぇ、私のほうがいいでしょ?」
「……あのアイシャさん、腕を組まれると困ります」
「別にいいじゃない」
「腕を組まれるといざという時に守ることができなくなります」
「……ちぇ、仕方ないか」
「ここから北に2、3日ほど乗合馬車で行ったところに町がある。途中で魔物が
出るかもしれないが、運がよければ出くわさずに済むだろう」
「分かりました。じゃ、乗合馬車に乗りますよ」
「……はい」
「私、エリュニスの隣がいいなぁ」
「別に構いませんが」
エリュニスの隣にアイシャ。正面にルシェットという席順で座った。
しばらく走っただろうか。急に乗合馬車が止まった。
「うわぁぁ。助けてくれー」
敵のようだ。敵は緑色をしたグミ状の物質に近く、いわゆるスライムというもの
だった。ただ他のスライムと違う点は魔法でしか倒せないということだ。
「いやーん、ベトベトしてて気持ちわるーい。エリュニス助けてーー」
「……コールド!」
「ライトニング!」
消化液を吐き出し続けるスライムに魔法を連発した2人はスライムの群れを
追い払ったということで、乗客に感謝されたのだった。
「きゃーーー! エリュニスかっこいいーー」
そういうとアイシャはエリュニスに抱きついた。とうの本人はニコニコしながら
も若干嫌そうな顔をしていた。
「……私も頑張ったのに……」
「あなたには聞いてないし。ねぇエリュニス今度デートしてよ」
「……困ります。僕はルシェットさんを見守る役目があるのです」
「えーーっ」
2、3日ほどそんな調子で乗合馬車は進み、無事に町へ到着した。
「じゃあね、エリュニス」
「さようなら、アイシャさん」
帰りも乗合馬車に乗る2人だった。行きと違う点はエリュニスの隣にルシェット
が座っていることだった。
帰って来れた時には2人とも長い乗合馬車の道でヘトヘトだった。
「おお、帰ってきたか。ご苦労さん」
「……背中と腰が痛かったですよ……」
「……疲れた……」
早々と貸し住宅へと向かう2人だった。
着いたところで「んーーーっ」と言いそうなほど、背中と腕のストレッチをして
いたエリュニスと目が合う。ルシェットも同じようにストレッチをする。
その後ボスッと音を鳴らしてベッドに顔をうずめたルシェットだった。
エリュニスは紅茶を淹れているようだ。ほどなくしていい香りが部屋いっぱいに
広がってゆく。
「いい香り……」
紅茶の香りに惹きつけられたのかベッドから起きだした。
林檎の香りがする紅茶に口を付けた2人は香りを楽しんでいるようだ。
「これでお茶菓子でもあれば完璧ですね」
「……お茶菓子って何?」
「えっと、ビスケットやチョコレート、スコーン等の菓子のことですよ」
「美味しいの?」
「ええ、美味しいですよ。そうだ、明日買いに行きましょう」
「うん」
翌日2人は茶菓子を買いにきていた。店に入るとバターの良い香りが鼻をくすぐ
る。
商品を入れるための籠を取ると、クッキーやビスケット、パウンドケーキ等の菓
子を次々と入れていった。
「これでお願いします」
「はーい。ありがとうございます」
沢山買った2人は貸住宅へと戻った。
早速紅茶を入れる。いい香りが広がり、クッキーと一緒に紅茶を飲む。口の中で
クッキーがホロリと溶けて美味しかった。
「紅茶、おかわりしますか?」
「うん、する」
聞いてからエリュニスはポットからカップに2人分の紅茶を注いだ。2杯目は
ミルクを入れてミルクティーにする。味がまたストレートティーの時と違い、
まろやかで美味しい。2人は紅茶とクッキーを堪能していた。
翌日2人は依頼所に来ていた。
「今日は綿花を取ったところに狼の群れがいるから退治してきて欲しいとのことだ」
「数はいくつですか?」
「そうだな、30匹はいると思うが」
「30匹もいたんじゃ勝ち目はないですね」
「そういうと思ってな。おーい、セヴェル。出番だぞー」
「よう。エリュニスとルシェットじゃないか」
「今度は喧嘩しないようにな」
「分かってますよ」
「言われなくても分かってるさ」
「では握手でもして……」
「それはいらない」
「残念です」
「……早く出発しよ?」
「ええ、そうですね」
半日ほど歩いただろうか、綿花がある場所に着いた。狼の群れが見える。30匹は
いるという事だったが、実際は50匹はいると感じた。
「おいおい、話が違うじゃないか」
「これは……少し困りましたね」
「……たくさんいる……。これだとマナがもたない」
「ワオーン……!」
狼の遠吠えに合わせて狼達が一斉に襲い掛かってきた。
「……せいっ!」
「……はっ!」
「……エアスラッシュ!」
襲いかかってくる狼達をセヴェルとエリュニスがなぎ払い、ルシェットは詠唱を続
ける。しかし魔法も10体目でマナが尽きてしまい、へたりと地面に座り込んでし
まった。
「ルシェット、座り込んでる場合か!」
「大丈夫ですか、ルシェットさん」
2人に言われ、立ち上がる。スタッフを持ち、狼にバシンと叩きつける。
「……きゃっ! ……いたた」
「これだとキリがないな」
しかもルシェットをかばいながら攻撃する2人だったが段々それも苦痛になってきた。
ついにルシェットが倒れてしまった。次にエリュニスが倒れ、セヴェルも倒れてしま
った。
もう駄目かと絶対絶命になってきたとき、ルシェットのつけているネックレスが光り
だした。ネックレスの光は3人を包み込んでみるみるうちに怪我を治し始めたのだ。
「……これは……?」
「なんとか助かったようだな」
「……あ、マナも回復してる……」
回復した勢いで残りの狼を退治する3人だった。20匹ほど退治しただろうか、やっ
と狼達を全滅させた。
「……ふぅーー、なんとかなったな」
「一時はどうなることかと思いましたよ」
「このペンダントのおかげ……」
そういうとルシェットはペンダントを握り締めた。
「そのペンダント狙われるな。なくさないようにしろよ」
「僕も気をつけておきますね。街で裏道はあまり歩かないようにしないと」
「……もう帰ろう?」
「そうですね」
「こりゃ、報酬を多めに貰わないと割に合わないな」
「どういう事だ、話が違うじゃないか」
「はて、何の事かな?」
「しらばっくれるな! あんたが30匹いると言ってたが実際は50匹ほどいたん
だぞ」
「ああ、悪い悪い。しかし、よく無事で帰って来れたな」
「それはその……」
「回復薬をたくさん持っていったので助かったんです。ね、セヴェルくん」
「そういうことだ」
後で回復薬を買い込みしようとエリュニスは思った。
「で報酬よこせ。多めにもらっても悪かねぇよな?」
「はいはい。これでどうだ?」
「サンキュー。これを3等分か」
報酬を3等分した2人は、セヴェルと別れた。