第2章
呪文の詠唱ばかりやっていた頃、
頼んでおいたローブが出来上がり、取りに行った時である。
「……はぁ……」
「……どうかしたんですか?」
「何でもないわよ。それにしてもよく似合っているわ」
「本当ですか? ……嬉しい」
「じゃあ僕らはこれで」
「……そろそろですか」
「……どうしたの、エリュニス」
「あ、ああ。そろそろ依頼を受けようかと思いまして」
洋服屋を出た2人は依頼所に向かった。
ここでクエストを受けることができるというわけだ。
「すいません、依頼を受けたいのですが」
「……ああ、はいこれ。薬草をとってきてほしいというやつだ」
「分かりました」
依頼所を出た2人はある場所へ向かっていった。ルシェットが
住んでいた小屋だ。
「……ついてきて」
「ああ、はい……」
小屋へつくとルシェットは中に入り、やがて籠を持って小屋から
出てきた。
ルシェットは慣れた様子で森の中へと入っていく。それを慌てて
エリュニスが追いかけた。
「……これが薬草」
「分かりました。一緒に採りましょう」
そう言いながらギザギザのついた葉を採取してゆく。これが薬草
なんだろうとエリュニスは思った。
しばらく採取に没頭すると籠の中の薬草が一杯になってきた。
それとお腹が減ってきたので、ここで昼食にした。
昼食は乾燥果物と乾パンだった。黙々と食べながら合間に水を飲
む。口の中の水分が吸い取られるのだろう、水がなければ食べる
のは難しそうだ。
昼食を食べ終わったところで、依頼所に向かった。
「……はい、依頼されていたものです」
「確かに。……どれ、十分な量だな。」
「ルシェットさん、戻りましょうか」
2人は貸住宅へと戻った。中に入った直後にルシェットが倒れる
ようにベッドへと顔をうずめた。
(……無理をさせすぎたんでしょうか……)
そう思いながらお茶を淹れると、一口飲んだ。お茶を飲みながら
ゆっくりとしていると、やがて夜になってしまったのでエリュニス
も寝た。
翌日2人はまた依頼所に向かっていた。
「今日は野苺を採ってきてほしい。蜂に気をつけてな」
「分かりました」
野苺なんてものは野生でしか手に入れられないものだ。それに群がる
野生の動物も多い。若干危険がある依頼だ。
2人は依頼所を出て森の方へ2時間ほど歩いていた。野苺が沢山ある
場所へたどり着くと黙々と採取した。蜂が数匹頭上を舞った。蜂を刺
激しないように採取を続ける。籠の中が野苺で一杯になったので、戻
ることにした。
「依頼されていた野苺です」
「……おお、蜂には刺されなかったか。量も十分だな」
2人は依頼所を出て、貸住宅へと向かった。中に入って紅茶を入れた。
「ルシェットさんも飲みますか?」
「……うん、そうする。いい匂い……」
2人揃って紅茶を飲んだ。渋めの味とは裏腹に甘い香りが鼻をくすぐる。
夜ご飯を2人で作ることになった。今日はポトフだ。パンの代わりに
芋を多めに入れることにした。
「……美味しい」
「体が温まりますね」
それから風呂に入った後、2人は寝た。
「今日の依頼は……毒消し草を採ってきてほしいとのことだ。量はそん
なにいらないそうだがなるべく早くな」
「分かりました」
また2人は小屋の近くまで来ていた。この辺は様々な薬草があり、種類
もたくさんあるが、間違える事がないように慎重に採取しなくてはなら
ない。
「……これが毒消し草」
そう言いながらルシェットは丸みのある葉っぱをエリュニスに見せた。
「へぇ……」
そう言うとエリュニスは採取を続けた。籠の中に3分の1ほど溜まった
ところで切り上げて、依頼所に向かう。
「はい、毒消し草です」
「……おお、意外と早くて助かったよ」
2人は依頼所を出て街の中を見て回った。ついでにエリュニスは干し果
物等の乾燥させた食物を買いあさっていた。カンテラ等の道具も買って
いた。
「……欲しい物とかありますか?」
「ないよ」
そう言ってペンダント状に加工された透明な石を握り締めた。よほど大事
なものだということが見て取れる。
「……そうだ、本を返しに行かないとなりません」
「……ああ、練習に使った本か」
とのことなので2人は図書館へと向かった。本を返すと、今度は本屋に
向かった。
「……この本を1冊もらえますか」
「……エリュニス、それ……」
手にとったのは練習に使った本と全く同じ本だった。魔道書の入門には手
頃でありながら一通りの種類が書いてある。
「……もっと練習しなくちゃ」
「練習もいいですが体を壊さない程度にしてくださいね。あとルシェット
さんは回復魔法は全くといっていいほど苦手なようですね」
翌日。2人はまた依頼所に来ていた。
「今度は討伐任務だ。ここから半日ほど歩いたところに狼がいるからそれ
を退治してきてほしい」
「狼の数は何匹なんです? あまり多いとこちらも受けられませんよ」
「さあ、5~6匹ほどかな」
「それなら大丈夫ですね」
「……私も頑張る……」
2人は依頼所を出て目的の場所へと向かった。確かに狼が威嚇してくる中
にエリュニスは腰に結わえたショートソードを手にとった。ルシェットも
スタッフを握り直した。
狼が襲ってくるところをショートソードでたたっ斬る。ルシェットは詠唱
を始めた。
「ファイヤー!」
狼の体が焦げる。あまりいい匂いではない香りを発しながら狼は絶命した。
それを繰り返しているうちに、狼をすべて退治したようだ。
「……ふうっ。後は依頼所に報告するだけですね」
そして2人は依頼所に行った。
「倒してきましたよ、狼」
「ご苦労だったな。お疲れさん」
「今度の討伐依頼はかなり危険があるぞ、そこでだ。もう1人……つまり
合計で3人で討伐に向かうことになるぞ」
「その1人って……」
「……よう、俺だ」
出てきた人物は、浅黒い肌に赤茶色の髪と眼が印象的な人物だった。二本
の短剣を腰にぶら下げていた。後はウェストポーチに食料やら鍵を開ける
ときに使う針金などの小物類が入っていた。
「セヴェル君じゃないですか」
「……やけに詳しいじゃねぇか。ルシェットに変な事してないだろうな」
「してませんよ。疑うことは何も」
「……どうでもいいが、仲良くしろよ。仲間割れしてたんじゃパーティは
意味をなさないも同じだからな」
「はっ。この俺が、エリュニスと仲良くしろときたか」
「まぁそう言わずに握手でもして仲良くしましょう」
そういうとエリュニスは右手を差し出した。セヴェルはその手をバシッと
振り払った。
「……喧嘩、駄目……」
「とのことですよ」
「チッ……。ルシェットに言われたんじゃ仕方ないな」
「なんとか大丈夫そうだな。依頼内容だがコボルトがいるから退治してき
てほしいてところだ。
今度はコボルトのリーダーがいて、そいつらを従えているらしい。20匹
は従えているから注意しろよ」
「コボルトのリーダー……」
「どうやらかなり知能がいいらしく、両足でたって人間の真似事をしてい
るらしい。
場所はここから1日歩いたところに洞窟がありその奥にリーダーがいるか
ら退治してこいよ」
「じゃ、行ってきますね」
「気をつけてな」
1日ほど歩いたところで乾パンと干し肉の夕食を取ることにした。
もそもそと空腹を満たすために黙々と食べる。その後はテントを敷き、
その中に入って寝た。
翌日ルシェット達3人は洞窟の中に入った。先頭をセヴェル、次にエリ
ュニス、最後にルシェットという順番で入っていった。
「あぁ、そうそうルシェットさん」
「何?」
「魔法は数回ほどコボルトのリーダーの時の為に取っておいてくださいね」
「……了解」
中に入ると、番をしていたコボルトに遭遇してしまった。
セヴェルが二本の短剣を持ち、ズバッと軽く二回切りつけると、コボルト
は倒れてしまった。
「……流石ですね」
「褒めても何も出ないぞ」
更に奥に進むと大広場へと到達した。数匹のコボルトがに感づかれてしま
った。しかしセヴェルはそれより先に攻撃を開始している。
残りをエリュニスがショートソードで切りつけた。
大広場に続々とコボルト達が集まってくる。10匹程度いるだろうか。
「……これは、少し厄介ですね」
「……チッ。数だけは立派なものだな」
俗に言う囲まれたと言うものだ。セヴェルは短剣を握り直し、ルシェット
は詠唱を開始した。
「……ファイヤー……」
コボルトに向かって杖を突きつけルシェットは魔法を使った。それに続い
てエリュニスとセヴェルは残りのコボルト達を片付けていく。
「……痛っ!……」
どうやらエリュニスが怪我をしたようだ。コボルト達は全員やっつけたよ
うだが、エリュニスの左腕からは血が出ている。
「……大丈夫?」
「ああ、このくらいはヒールで治るから問題ないですよ。その前に消毒を
しないと駄目ですけどね」
そう言いながらエリュニスはウェストポーチに入っていた消毒薬を取り出
した。
「……ちょっとしみるかも」
ルシェットが消毒薬をコットンに含ませ、エリュニスの左腕にある傷口に
塗りつけた。その後エリュニスはヒールの魔法を使うとみるみるうちに
傷口が塞がった。
「次はボスか……」
とセヴェルが言った。彼の視線の先には1本道がある。これだけマップの
作りがシンプルだといっそ清々しい。
「おい、そろそろ行くぞ」
「あ、はい」
「……うん」
長く続く1本道を進んでいく。ここから大広間に移動したんだろうと思っ
た。
「着いたぞ」
彼の言う通り、コボルトのリーダーがいた。肉をかじりながら右手には
酒を持っていた。
「ハァッ!!」
セヴェルが素早く切りつける。エリュニスも続く。ルシェットは詠唱を
開始した。
「……コールド……」
大きな氷塊がコボルトのリーダーの頭に落ちる。その後、セヴェルが切
りつけるとコボルトのリーダーは倒れてしまった。
「……ふぅ、それにしても……」
「……随分贅沢してたんですね」
セヴェルとエリュニスの後ろを見ると大量の金貨や宝石類が落ちていた。
「後で三等分な」
「分かっていますよ」
そのへんに落ちてた革袋にセヴェルが金貨や宝石などを詰めていく。エ
リュニスとルシェットもそれを手伝う。
革袋は複数枚あったので手分けして入れていく。
「さて、帰るか」
「そうですね」
また丸一日かけて帰るのはややしんどいものがあったが、金貨や宝石の
重みと知ればそれも苦ではなくなっていた。
「ただいま……」
「おう、お疲れさんその包みは?」
「コボルトのリーダーがたくさん持っていたんだ。さて、三等分するか」
「ええ、いいですよ」
その場で包みを開け三等分を始めた三人に周りはやや引いていたが、金貨
の量に驚いていた。
「じゃあな」
「はい、また」
「……セヴェル、さよなら」
手を振りながらセヴェルと別れた二人だった。




