第12章
「エルフですか……」
依頼所に来た2人に依頼されたクエストはエルフ族
について調べてきてほしいとの事だった。それも図
書館で調べた情報だけでは物足りず、実際にエルフ
族の住んでいる森まで行き、調べて来て欲しいとの
ことだった。
「……分かった」
「エルフ族の奴らは人間族……つまり俺らを格下に
見ていることが多い。だが誠意をもって話しかけれ
ば、こちらの要求も聞いてくれるだろう」
「では行ってきますね」
エルフ族の森はここ近辺の森とは違って、1日では
たどり着けないところにあり、到着するのに3日は
かかった。途中でご飯兼休憩をしても、疲れがたま
っているようだ。
「大丈夫ですか?」
「……平気……」
体力のあるエリュニスとは違い、ルシェットは相当
疲労の色を隠せないようだ。何度も休憩を挟みなが
ら、エルフ族の住む森に少しづつ向かっていった。
「……止まれ!」
突然前方から声をかけられた。前を見ると弓を構え
たエルフが立ち止まっている。
「我らエルフの森になんのようだ?」
「実は僕達は依頼でエルフについて調べているんです」
「……ふん。まぁそういうことなら通してもいいが、
少しでも妙な気を起こさないことだな」
「分かりました。では通りましょう」
2人はエルフの森の中を歩いて行った。普通の森とは
少しだけ雰囲気が違うらしく魔物が出てくる気配はない
ようだ。それもエルフ達が見回りを行っているせいだろ
う。
歩いていくと少し開けた場所に出た。木の上に住居を作
っているところが多く、あまり下には降りてこないようだ。
エリュニスは一つ一つチェックをしながらメモをとってい
る。奥の方にひときわ大きな家が建っていた。おそらくそ
こがエルフの長の家なのだろう。2人はエルフの長がいる
であろう家の中に入っていった。
「失礼します」
「……お邪魔します……」
「話は聞いているぞ。エルフ族に関して調べているそう
じゃないか」
「そうですが……良くご存知ですね」
「門番のエルフが教えてくれたのだ」
そう言われ2人はああ……と頷いた。
「そんなことより、我らエルフのことがもっと知りたいの
であろう? 食事を用意させるから少し待っておれ」
「いいのですか?」
「エルフが何を食べて、どのように眠るかと知りたいのだ
ろう? 狩りに関しては明日教えよう」
「ありがとうございます」
しばらく経ってから食事が運ばれてきた。茸と肉を串焼き
にしたものや蒸した芋、果物などが盛り付けられている。
「いただきます」
「……いただきます……」
2人して口をつけたが異変に気がついたようだ。塩味も感
じられない……。
エリュニスはこの事をメモに書き綴っていた。ルシェット
は薄味に慣れているため無味でも特に対した障害ではない
らしい。エリュニスは無味に苦戦しているようだった。
食事を終えたあとは風呂に入る事になったが泉に浸かり、
体を洗うことになった。先にエリュニスが入り、その後
ルシェットが入る。石鹸もなかったので持参してきてい
たものを使った。
風呂に入ったあとは寝るだけだ。大きな葉っぱを何枚にも
重ねてある場所がある。どうやらそこで寝るらしいので寝た。
翌日。2人は果物だけという軽い朝食の後、狩りの見学に
来ていた。エルフが弓を構え、その後鳥に向かって撃った。
「ギャアアアアアアア」
見事命中し、鳥が地面に落ちると拾い上げ持ち村の方へ戻
っていった。
「帰ってきたようだな」
「今日の収穫はこんなものか」
「羽をもいで丸焼きにしよう。ハーブがまだあっただろう」
「そうするか。おや、お前たちまだいたのか」
「先程からずっといましたよ。色々と世話になりました」
そういい2人はエルフの森を後にした。
「ただいま戻りました」
「よくやったな。エルフのことは分かったのか?」
「ええ、メモを取っていたので」
そう言ってメモ帳を見せると依頼所の主人の顔色が変わった。
「レポートに書いて依頼主に見せれば完璧だな」
「ええ、ではレポートにまとめますね。依頼主はなんていう
名前ですか?」
「ミリスという名の女だ。緑の髪でいつも白衣を着ているのが
特徴だ。図書館にいつもいるから見つかるだろう」
「分かりました、では失礼しますね」
2人は貸住宅へと戻ってきていた。早速エリュニスはメモを片
手にレポートを書き始めていた。
「紅茶でも淹れようか」
なにかの役に立ちたくてルシェットは言葉にしていた。
「ありがとうございます。では頂きますね」
エリュニスの了承を貰い、ルシェットは紅茶を淹れる準備をした。
だがエリュニスが紅茶を淹れることを見ていたものの実際に淹れ
る事は初体験だ。
記憶を元に淹れてみる。ティーカップ1杯につきティースプーン
1杯、2人分だから2杯淹れることになる。ティーポットに湯と
茶葉を入れ蓋をし3分間放置する。その後茶こしで茶葉を取り除
いて完成だ。
「出来た……。はいエリュニス、紅茶」
「ありがとうございます」
「……どう?」
「美味しいですよ」
エリュニスの事だから不味くても美味しいというだろう、と思い
つつ自分の分に口をつけるとやや濃かったが美味しかった。
紅茶を飲みながら、ビスケットや干し果物をつまむ。ご飯を作る
のも惜しいのか、簡易的な食事になってしまっていた。しばらく
の間カリカリと文字を書く音だけが響く。書く音が消えたと思っ
たら、エリュニスが大きく背伸びをしていた。
「肩でも叩こうか」
「そんな、悪いですよ」
「いつも、私の方が世話になってるから」
「じゃ、お願いしますね」
しばらくの間トントンと肩を叩く音が聞こえる。
「ありがとうございました。もういいですよ」
肩を叩くのを止めるとまたカリカリと文字を書く音が聞こえた。
しばらくすると文字を書く音が消えた。今度は背伸びではなく、
レポートが完成したようだ。ふと硝子ごしに空を見ると辺りは
すっかり暗くなっていた。
「レポートを届けるのは明日にしましょう」
「先にお風呂入ってるから」
「分かりました」
風呂に入ることさえ疲れているようで、エリュニスはベッドに
横になったまま眠ってしまった。
「エリュニス、起きて」
「うん……もう少し……」
「今日レポートを届けるんでしょ?」
「はっ……。そうでした」
レポートの言葉にがばっと身を起こしたエリュニスは昨日風呂
に入ってないことに気がついた。
「シャワー浴びてきますね」
シャワーを浴びると頭もすっきりするようだ。石鹸を使い身体
を洗い、ついでに髪の毛も洗った。
「エリュニス、朝ごはん」
シャワー室から出たエリュニスをルシェットが出迎える。朝ご
はんの方は簡単にシリアルだった。
ボリボリと音を立てながら無言で咀嚼する。シンプルながら、
噛むたびに味が出てくるシリアルは素朴な美味しさだった。
朝ご飯を済ませた2人は図書館に来ていた。情報を元にミリス
という女を探すと直ぐに見つかった。
「あら、あなたは……」
「僕らは依頼所の所で依頼を受けて、あなたを探していました。
これはエルフ族に関してのレポートです」
そう言うとミリスの緑の瞳がキラキラと輝いた。
「まぁ、そうなの! 待っていたのよ、そのレポートを」
「ミ、ミリスさん……?」
「あぁ、ごめんなさいね。つい興奮してしまって……」
「いえ、いいんですよ」
「さぁ、そのレポートを早くこちらに……」
「分かりました。はい、これがそのレポートです」
レポートを受け取った途端、ミリスの瞳がより一層輝きだした。
「ありがとう! はい、これ報酬ね。 うふふ、エルフ族につい
てかぁ。どんな種族かゾクゾクするわぁ」
「では僕らはこれで」
とはいいつつもエリュニス達には図書館の本を読み尽くすという
課題が残っているため図書館に一緒にいる事実は変わらない。
時折ペラリと本を捲る音が響く。2人が本を読んでいるとき、ぐ
ぅとお腹の音が鳴った。時計を見ると11時30分と指していた。
「一旦戻りましょうか」
「うん、お腹すいた」
貸し住宅へと戻った2人は早速昼ごはんを作っていた。パンに炙った
干し肉とチーズ、トマトを挟んだサンドイッチを作り食べた。
また図書館に戻り、本を読む。2人が本を読み始めてどのくらい経っ
ただろうか。2ヶ月は経っただろうなと思っていたところで残り数冊
となり、終わりが間近に迫ってきた。
「……ふぅ。これで全部読み終わりましたね」
「疲れた……」
とうとう全部の本を読み終えた2人は、依頼所に向かうことにした。
資金的な面でもこれ以上のんびりとしていられないほど切羽詰ってい
たからだ。




