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家族が増える前に家族が増えた

 おはようございます。くまです。

 たしか、他にもお名前はあった気がするんだけど、奥様も旦那君も「くまくん」って呼ぶから、この家でくまといえば僕のことになる。


 クマの朝は早いです。

 時計の針さんがまだ横になっている頃から起き出してお手伝いをはじめる。

 旦那君はお休みの日以外は居ないことが多いし、奥様はいつもリビングか台所にいる。

 寝室はぼく一人の部屋ということになるけど、荷物とかは勝手におかれているし、たまに気配もする。

 たぶん、ぼくが可愛いから奥様が見に来てるんだろうと思う。

 ベッドから降りようかなと思って下を覗き込むのだけど、ちょっと高くて怖いのではしごを探す。はしごは見つけたこと無いけど、毛布とかシーツが床まで届いていればそれを伝って降りられるはず。ベッドの崖から見下ろして見つからないので角を曲がって右へ。ないから角を右へ。まだ右へ。もう一回右へ。右へ。ぐるぐる探しているうちに眠くなるのでちょっと休憩。


「くまく~ん、お昼だよ。朝昼ごはん食べちゃうよ?」


 なんか奥様の声がした。


「たべるー。食べますー。だから下まで連れてってー」


 大きな声で呼ぶと、奥様が来て抱っこで連れてってくれる。はしごは無くていいや。


 最近、両方の前足をばんざいして抱っこして貰う事になったのだけど、前みたいに飛び着いちゃいけない事になったらしい。奥様のお腹がおっきくなってきたかららしいのだけど、旦那君と一緒にダイエットした方がいいと思うよ。ぼくは……クマはふとってた方が可愛いから、このままで。


 朝ごはんには小皿にはちみつを入れたものを貰う。お昼ごはんもおやつも晩ごはんも同じだけど、飽きません。主食は飽きないって旦那君も言ってた。

 むかし、焼いたパンにはちみつ塗ると美味しいよ? って言ってパンに乗せて貰ったこともあるのだけど、しみしみになったパンをちゅーちゅしてたらなぜか怒られた。染み込んじゃうパンより、染み込まないお皿で食べたほうが絶対美味しいのに。


 奥様がお昼ごはんと言い張るお食事が終わると(朝起きてすぐのごはんは『朝ごはん』なのだけど、奥様はいつも間違う)ぼくはお仕事の手伝いをする。


「みかん、むく?」

「ううん。いらない~」


 お仕事、終わり。

 みかん剥くお仕事が無かったので、ゆーえんちにいく。

 ゆーえんちっていう楽しい場所があって、そこにはグルグル回る乗り物や、水びたしになる乗り物があるらしい、奥様にむかし聞いた。それを聞いて思ったのだけど、たぶんおうちにもその乗り物はあると思った。

 だから、お風呂場の隣に置いてある「せんたっきー」という乗り物に籠の中のタオルや服をポイポイ入れてから入る。


「いいよー?」


 そう声をかけると、奥様が粉を掛けてボタンを押してくれる。手がべたべたになったらきれいにしなさいって言われたので、気が向いたらせんたっきーに乗る事にしている。終わったらしばらくベランダでゆうがに日光浴。ぽかぽかになったり、雨が降ってきたら奥様を呼ぶ。

 ハンモックに乗って、雲とかを眺めながらフワフワうとうと。


『おなかへりました!』

「だれ?」


 ハンモックの上から周りを見回すけど、誰も居ない。

 ベランダの外をきょろきょろしていると、どうやら隣の空き地から声がするみたい。とりあえず奥様を呼んでみる。




「で? なんでこんな大事な時期に犬なんて拾って来てるのかな?」


 ネクタイを解きながら頭をモミモミする旦那君。今日は珍しく早く帰ってきたみたい。

 椅子に座る奥様と、奥様の膝に座るぼく。そして奥様の足元に胸を張ってお座りするチョコレート色したふわふわした子。犬っていうらしい。


「拾ったのはくま君だよ。わたしはお風呂に入れてご飯上げただけ。おうち帰りなさいって言ったんだけど」

『ぜひ一宿一飯のご恩を返したいです! あとあしたのご飯も欲しいです!』

「ここに居たいって」


 今度はぼくの頭をモミモミしてくる。あ、やめて、形変わっちゃう。


「野生で生きていく方法なら少しは教えてあげられるけど……一番楽なのは誰かに拾って貰って温かい家の中に住む事だね。ふわふわをキープするのが勝利のカギだよ」

『あのブオーッ! っていうあったかい風、気持ち良かったです!』

「ドライヤーさん気に入ったみたい。ぼくコンセントさせるよ!」


 旦那君はなんか頭抱えて座り込んじゃった。


「妊娠中に動物を飼うってどうなのよ。母体に良くないってのはいろいろ本見て勉強したじゃん。いや、でも、これから命が生まれる家で目の前の小さな命を見捨てる事は出来なかったんだよな。それもわかる。誰か飼ってくれる人を探そう」


 なんか旦那君が変な事言い始めた。この子、誰か飼うの?


「あー。仲良くなったって言うダケじゃだめなのかな」

「ダメに決まってるじゃん。ヒトとして責任はしっかり持たないと」


 なんかヒトとしてって言う所でニヤニヤする旦那君だけど、ぼくヒトじゃなくてくまです。


「ぼくはくまです」

『わう。ぼくはいぬです!』

「なんか会話が成立しているみたい。こいつなんて言ってんだろうね?」

「ぼくはいぬです、だって」


 また困り始める旦那君に、ちょっと質問。


「ねーね、人とクマってどこが違うの?」


考えて動いて言葉が喋れたら、だいたいヒトとしておっけーですと教えてくれる奥様と、今度こそ戸籍かなぁ? と首を捻りっぱなしの旦那君。あんまり捩じると取れちゃうよ?


『せんきょけんならあります! こせきはわかんないです!』


 選挙権ってぼくも多分持ってないんだけど、この子、隣の空き地の猫会議に混ぜてもらってるらしい。君犬なんだよね?


 だけど、それを奥様に伝えたら、いつもの方法で決める事になった。


「この子、うちの子になるといいなって思うヒトー?」

「ちゃんと面倒みるなら」

「自分の事は自分でしてね?」

『その案に一票を投じます!』


 ぼくが前足を上げながらそう聞くと、みんなが賛成してくれたみたい。

 この子が手伝ってくれると、ベッドから降りられると思うんだ!

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