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昔々お爺さんとお婆さんが幸せに暮らしましたとさ

突っ込み、その他お気軽にどうぞ。

「むかーしむかしの事です」


 隣でニマニマしてる奥さんを視界に入れないようにしつつ、今日のお話が始まる。


『きのう?』

「いや、もっと昔」

『ママさんのプリン、床に落とした日くらい?』

「それ三日前じゃん。すく買い直しにいったし。もっともーっと昔だよ」

『百年?』

「そうそう、それくらい」

『大正時代だね!』


 年代特定しないの、昔って言ったら昔! と叫びたくなるのをグッと堪えて話を進める。


「時は大正四年の事でした。あるところ三陸海岸沿いの犬須磨巣という村におなかを空かせた一匹の蟹がおりました」

『たらば? それともすべすべまんじゅうがに?』


 二人と一体での晩ご飯を終えて風呂にも入り、翌日の朝に出すゴミを纏めたり回覧板の確認をしたりなどの生活の雑用を終わらせると、お話の時間。これが最近の我が家のサイクルだ。

 子供の頃に聞き覚えた昔話などを記憶を頼りに語ってみると、なかなか細かいところを覚えていなくて驚いたりもする。

 金太郎はクマと相撲とる以外に何したんだっけ。おむすびを転がしてお礼してくれるのは誰だっけ。狸を執拗に追い詰めるウサギは通りすがりのウサギであってる?


 思い出せないところをアドリブで埋めながらエンディングを目指すのは、遊びとしてもなかなか面白い。

 我が家の……喋るし踊るしベタも塗ってトーンも貼れると自称するクマがチャチャをいれるので、昔話を語る難易度が上がるのも、まぁ練習にもなるだろうし。

 ちらりとクマの向こうの奥さんの少し膨らんだお腹を見て、胎教にもなってくれると嬉しいなぁなどと思う。


 そう、あと数ヶ月もするとウチには家族が増えるのだ!

 クマは子熊が増えると信じている様子だが、エコーではシッポも毛皮もない俺に似た子供であると確定している。この子のために今から絵本読み聞かせの練習をしている、という事なのだ。クマの好奇心による、天然の妨害を受けながら。


「毛蟹のカニンガムは、毎日200mlの水を掛けながら語りかけました。早く芽を出せ柿の種…」

『チョコの掛かった奴も芽がでるかな?』

「じゃ、チョコ柿の木を育てようか。早く芽を出せチョコの柿~」


 歌うように水をかける仕草を繰り返すと、クマがキャッキャと喜ぶ。赤ちゃんもこの位喜んでくれるかな。


 みるみる大きくなったチョコ柿は蟹のハサミが届かないほど背が高くなり、たくさんの実を付けた。よし、ラスボス登場だ。


「高ーいところに実がなったので、木登り出来ない蟹さんでは柿が取れません、その時!」

『ぼく木登りできるよ。イスの背もたれのとこにもね、きのう登れたんだ』

「すごいね、でもイスに登ったらダメだよ。それでその時」

『テレビの上に登ったら、手に綿がいっぱいついた』

「掃除サボっててゴメン。その綿は汚いから手を洗ってね。その時」


 その時、窓の外を赤い光が照らすと、サイレンの音が通っていった。ウーウー!カンッ!カンッ!子供たちのヒーロー、消防車。


「あ、わかった。柿はたかーい所でしょ? はしご消防車なら届く?」


 はーい、と手を挙げたクマが、クキッと上半身ごと顔を傾けて尋ねてくる。

 働く車との不意の遭遇にテンションが上がったのか、プラスチックの目をキラキラさせて覗き込むクマが可愛かったので、俺はこう答えた。


「その時、はしご消防車が現れて柿の木にグーンとはしごを伸ばした。蟹さんは喜んではしごを横歩きで登り、チョコの掛かった柿をチョキンチョキンと……」

「ぷはっはは!」


 奥さんの腹筋が限界を越えたらしい。

 昔話はそのまま、めでたしめでたしという事になった。

 猿による被害者が出ることもなく、ウス達復讐者のパーティメンバーは出番すらなく終わった。蟹はお腹いっぱいに柿を食べ、遊びに来た猿にも柿を振る舞い、種はまた植えた。


「今日もアナザーエンドになっちゃったねぇ」

「消防車通らなければ順調だったと思うよ」

「どうだろな。昨日の灰被りパーティと同じくらい脱線してたと思うよ」


 奥さんとゴロゴロしながら反省会を開催する。クマは消防車の活躍に満足したのか大の字になって眠っている。


「しかし絵本の読み聞かせとか難しいな。記憶で話すんじゃなくて絵本見せながらだと、絵で惹き付けられる分妨害が少ないのかな」


 俺が出産後の読み聞かせの不安を真剣に打ち明けると、奥さんはますます笑い転げた。


「産まれてから数年はクマ君みたいな突っ込みしないから。お話出来るようになるまでの期間で、沢山経験値たまるから大丈夫だよ」

「あ、そうか。赤ちゃんは直ぐには喋らないんだ。赤子役のくまがよく話すから、つい」

「あっははは」


 子供が生まれた後は、クマが長男として寝かしつけや読み聞かせに参戦し、さらなる混沌を招くことになるのだが、それはまた別の話。

ほとんど実話だったりします。

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