第七話
井上さんのことが気になる。特に授業中は気になって仕方ない。友人が寝ているのを見つけた時に、先生に怒られるだろうかとはらはらするやつを何倍にもした感じに落ち着かない。先生がどういうわけか煙草の気配を感じてしまうのではないか。そうなった時のことを想像すると、想像の中で俺は呆然としてしまう。
喫煙者の処分はどうなるのだろう。退学になるのだろうか。煙草を吸っているのを知っている以上、井上さんをかばってあげたい。
「中村君」
名前を呼ばれれば、考え込んでいても気付くものだ。
「はい?」とすぐに顔を上げる。
しかしその前に先生がどういう話をしていたのかは全く耳に入っていなかった。
「えっと、何でしょう」
「何でしょう、じゃなくて。この問題の答えを聞いてるの」
黒板を指差す。よく見れば問題が五つ書かれてあって、上から二つ目までは答えも書かれていた。
「ああ、はい」
慌てて立ち上がる。答える時は立たないと注意してくる先生なのである。井上さんの方をちらりと見ると、にやけていた。汚名返上の言葉を思い浮かべながら問題を見る。黒板のスペースの都合か、計算はそこまで複雑ではなかった。それでも考えながら答えなくてはならず、たどたどしくなってしまう。ずっと立ったままというのは何だか恥ずかしい。
「はい正解」
それが着席の許可である。ほっとして腰掛けたら勢いがよすぎて、だん、と椅子が音を立てた。それは咎められずに済む。それにしても酷い目に逢った。他人のことを気にしている場合ではなかったのだ。