第五話
机の隅。筆立てとして使っているクッキーの空き缶の横でシュレッダーが暇そうにハンドルを上に向けている。中には七分目まで紙くずが積もっている。ここ数週間溜めた成果だ。今すぐにでも紙をセットしてハンドルを回したいのだが、テスト前だから捨てられる物が無い。
いらない紙なら何でもシュレッダーで切る。高校生の身分でそれを気にするのも変なのかもしれないが、個人情報が漏れないように買ったものだった。自分のことを赤の他人に知られたくない、という気持ちはあるにはあるのだが、ハンドルを回していくうちに紙の中の情報が読み取れなくなっていく様を見ているうちに、その楽しさを味わいたいという気持ちの方が強くなっていた。
直前まで学校からのプリントだったりコンビニのレシートだったりした物が、黒い模様のある緩衝材になって透明な容器の中に溜まっていく。蓋を開けて触れてみる。紙の毛玉を掻き混ぜる。これも好きだ。容器に溜まった紙くずは非常にふわふわとしている。床にこぼれてしまわないように気を付けながら手を動かす。死ぬっていうのはシュレッダーにかけられることなのだと思う。細長くなった一つを取ってみて、刃にやられずに残った文字を見ても、それが元々は何の紙でどのような文章の一部であったのか、思い出せない。きっと死んだ人はこういうものになる。
テストが終わって結果が戻ってきたら、一気にごみが増える。問題用紙に解答用紙、配られた勉強用のプリント。模範解答を配る先生もいる。楽しみだ。
楽しみを増やしながら勉強をするためにノートに書いたことをルーズリーフに写していく。凝視して覚えようとするよりも筆を動かしながらの方がより正確に記憶できるのではないか。それにテストの日はノートではなくこちらを持っていけば荷物も少なくなる。考えれば考える程、理にかなっているように思えてくる。気分がいい。
そういえば。体育の時間になぜだか調子がよくていつもより体が軽いと感じていると、このままでいると何かにつまづいて転ぶのではないかと想像してしまうのだが、それみたく井上さんのことが気になった。順調であることを意識してしまうと駄目だ。時計を見る。後三十分で昨日外に出た時間になる。公園に行かなくてはならないように感じた。