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夜になる  作者: 近藤近道
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第三話

 井上さんに話しかけようと思ったのだが周りに人のいる時に、煙草吸ってるの、と聞くのは可哀想だ。一人になるのを待つことにしたのだが意外と人から千切れない。

 放課後になって帰るところを尾行している。彼女の隣に友人はいないのだが、帰宅しようという連中で道は溢れている。制服姿の中に混じってしまって見失いそうだ。そうならないように、常に視界の真ん中に彼女を置いておく。尾行しようと判断した時からこちらに気付かれないように距離を取っているのだが、思えば教室を出た時に話しかけて当たり障りの無い話をしていればよかったのかもしれない。

 話しかけられたのは電車の中だった。

「井上さんも同じ電車だったんだ」

 隣に座って、どこで降りるのか聞いたら、俺と同じ駅だった。

「嘘、俺もそこ。じゃあ家近いのかな。え、でも小中学校違ったよね?」

「私最近こっちに引っ越してきたから」

「なるほどね」

 やっぱりあの公園の人は井上さんだったのだ。彼女の口からそうだと聞きたいのだが、電車の中では駄目だ。話題といえば、

「テスト勉強してる?」くらいのものだった。

「あんまりする気起きなくて、数学と英語くらいしかやってないんだよね」

 彼女の周りではそれくらいやっていて普通なのだろうか。レベルが違う。彼女は「中村君は?」と聞いてくる。

「まあ、俺も同じくらいだよ。やる気出なくて」

 単語帳を作っただけでは張り合えない。

「そっか。よかった」

 よくない。

「そういや井上さんはさ、受験勉強っていつからする予定なの」

「え」

「将太とか智成とかがさテスト勉強全然してないって言うんだけどさ、実は影でしっかりやってるっていうことありそうでしょ。全然してないって言われる方は、周りが何もしてないなら遊んでもいいや、って気分になるわけじゃん。それで蓋を開けてみたら勉強してないのは自分だけだったってなったら凄く嫌じゃん」

 中間や期末ならともかく、受験勉強でも遅れを取ったらやばいことになるかもしれない。将太や智成はずっと遊んでいそうだが、計画的な誰かはもう始めているかもしれないのだ。

 そんなことを俺はべらべらと喋ろうとしていた。今まで話したことの無い女子に、一方的に喋り続けるなんて滑稽だ。急いで醜くない中村武明に切り替えて、

「とにかく井上さんとかはどういう予定なのかなって」と言う。不自然なのは承知している。早く煙草のことを突きつけてしまいたい。

「皆がどうするのかはわかんないけど」

「うん」

「やっぱり今年の夏休みからやり始めないと駄目なのかな」

「俺もそう考えてた。来年の夏休みじゃ多分手遅れだもんな」

 冬休みや春休みは短すぎて何かを始めるという感じではなかった。休みでない時は尚更そうだ。二年の夏休みが丁度いい。

「そうだよね。とりあえず苦手なところを潰してみる予定」

「予定」

 最後に付け加えられた単語を切り抜く。

「それはつまりやらないということなのでは?」

「やる気はあるってこと」

 彼女が口を開く度、鼻があからさまに動かないように気を配りながら空気を吸引してみる。煙草を吸っている人の口は臭うらしい。しかし鼻は何もキャッチしない。臭いが証拠になると思ったのだけど、もしそれでわかるようならとっくに先生たちにばれている。素人が思い付くことには対策済みなのだ。機を待つしかない。


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