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夜になる  作者: 近藤近道
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第十三話

 運動しなければ。そう思って、登校途中に走ってみた。時間を作りジャージなどを着て走るのは面倒なので、登下校の最中や井上さんと公園で会う時に走ることにしたのである。もう朝でも日が差していると暑い時期だ。駅に着くまでに汗をかいてしまった。ハンカチで周到に拭いてから駅に入る。

 走っておきながら、運動をしたところで寿命が延びると思っていなかった。過ぎた時間がたどり着く場所はシュレッダーの刃であり、何をして過ごしたとしてもそこでずたずたにされて現在から切り離される。寒いくらいに冷やされた車内で背中の汗が引いていくのを感じながら、どんなことをしたって無駄なのだと強く思った。じゃあ煙草を吸うか。そう問いかけてみるが、やはり吸いたくないと直感が告げる。自分の考えていることがよくわからない。ひねくれ過ぎて、自分でもわからなくなるくらいにひねくれてしまっているのかもしれなかった。

 電車から降りた俺はわからないという気持ちに突き動かされるようにして走るのであった。何も考えたくなかったので道路を足で叩くように思い切り走った。自分の他に歩いている人の視線が気になったが迷っているうちに足は全力で抜き去っていく。そうなるともう止まるわけにはいかない。すぐにばてたが結局学校に着くまで走り続けた。

 酷く汗をかいて、人のいない下駄箱でまた汗を拭わなければならなかった。教室は冷えている。早くに来る人が冷房を付けるので、うちのクラスは一日中涼しいのである。ずっと教室の中にいたいと思うのだが今日は終業式なので全校集会のために校庭に出なければならない。校長先生の話が長いという印象は無い。ほとんど上の空で聞いているせいでそう感じるかもしれないが、それよりも休暇中の注意とか生活態度とかそれぞれの話に一人ずつ担当の先生がいて、いちいちマイクの前に立つ先生が変わるせいで式が長くなるように感じていた。

 そうだ。先生が変わる度にきちんと整列していないとか言われて、それで時間が掛かるのだ。

 それを、だらしないやつがいるものだ、と思ってぼうっとしていたら「ちゃんと並べ」と担任から怒られたことも一緒に思い出した。ちゃんと並んでいたつもりだったのだがいつの間にそうでなくなっていたのだろう。実は俺以外の全員がずれていたのではないか。

 天候は崩れず、頭と首が熱されていくのに意識は向いて、先生方の話はろくに耳に入ってこなかった。それでもマイクの前に立つ人が変わる度に朝考えていたことを思い出す。そして「ちゃんと並べ」と言われそうになって、慌てて横にずれる。俺がずれたのか列がずれたのか。真相は太陽の暑さに隠されてしまった。ちゃんと並ぶと目の前の男子の頭が見えるだけで非常につまらない。背の順だと前後の男子とはあまり親しくなく、話すこともできない。もし俺が知らないうちにずれていたのだとしたら、退屈な後頭部ではなく井上さんの様子をうかがうためだったりするのではないか。井上さんを見ていた記憶はなかったのだが、もっともらしい理由だった。

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