第十話
数学のテストの平均点は六十二点だった。俺の点数は六十点で、計算ミスで二点の問題を一つ間違えていた。
悔しさのあまり将太と智成に「おい聞いてくれ」と報告したくなったのだが、そうする前に俺の席へ来た将太が
「なあ、本当に夏休み三人で釣りに行こうぜ」と言って、話題は釣りになってしまった。
「やるなら俺釣竿買うわ」と智成。
「マジかよ。俺も買おうと思ってたんだ。いいの探そうぜ」
「買うのはお前の自由だけどさ、どうせすぐ飽きるんだから買わない方がいいんじゃねえの」
盛り上がるのは結構だが、俺まで買わされるのは御免だし、だからといってはぶられるのも嫌だ。智成の説得を試みる。
「飽きるかもしれないけどさ、でもまた再燃した時に持ってると便利じゃん」
「あんの、再燃」
「昔のゲームやりたくなる時とかあるだろ」
将太が「ああ、あるな」と頷く。
「釣竿持ってれば、そのうちまたやりたくなるって」
「そういうもんかね」
手遅れだったみたいだ。冷ますなら前に釣りの話題が出た時でないと駄目だったか。
「それにな、ルアーなんか面白いやつが色々あってな。それ集めるだけでも楽しそうだぞ」
「とにかくさ、武明もやろうぜ、釣り」
「レンタルとかできんのかな。まあ見てるだけでいいか」
釣ろうと意気込んだら上手くいかなかった時悔しくなるし、釣りというのは初回から上手くいくようなものでもないだろう。
「見てるだけかよ」
「釣った魚食ってもいいなら食う」
「お前ねえ、そういうのは自分で釣ったからこそ旨いもんなんだぞ」
「そんじゃあレンタルできる所探してくれな。食える所だとさらにいい」
「しょうがねえなあ」
どうせまともな計画が立たず、無かったことになるに違いない。
「ところでさ、お前ら夏休み受験勉強とかしないの」
釣りの話なんかするので気になって聞いたら、すぐさま将太が、
「したくねえなあ」と言った。俺だってしたくない。




