ⅡのⅨ
大好きな友とのお別れ。
その先にあるのはなんでしょうか・・・。
大好きと伝えるのは難しくて簡単。
梅雨時の雨は、涼しくならない。それがうざったい・・・と、教室から空を見て思う自分。
「元気、かな?」
一人で小さく呟いたその言葉に、涙がたまりそうになるのをこらえる。泣いたら君が悲しむだけだろうから。・・・どうか今日も、君が元気にいますように。そう、空に願ってまぶたを下ろした。あの日は梅雨前だったね。空にはひとつ、空気を読まない小さな雲が浮かんでいた。
久々に遊ぶ約束をしたので、服装が変ではないか心配しながら、待ち合わせ場所の駅へ向かっていた。待ち合わせ時間の11時には余裕があったが、心に余裕はなかった。この道をずっと行けば、駅に着く。お気に入りのハイカットのスニーカーを履いた足を少し、早く動かす。駅がどんどん近づく。駅の前にある時計の下に集合のはずだが、彼女はまだいなかった。まあ、5分も早く来てしまったのなら仕方ないだろう。だが、彼女は直ぐに来た。
「朝陽!!おまたせー!!」
自分の名前を呼ぶ方へ体を向ける。その先にいるのは、薄いピンクのワンピースに白いカーディガンを羽織った彼女。
「全然待ってないよ、胡桃」
一番親しい友達、胡桃。小学生後半頃からできる、女子特有のグループ。ある5人組があるのだが、その中の2人があたしと胡桃だ。そのメンバーの中でも仲がいいあたしたち。あとの3人は結構喧嘩したり、仲直りをしたりの関係。あたしたちはそういうことを避けるタイプだ。
「そうなの?取り敢えずさ、映画、早く見に行こう!!」
元気いっぱいの胡桃に手を掴まれ、そのまま駅に連れて行かれる。この駅から3つ先の駅で降り、乗り換えてさらに1つ先の駅で改札口を出た。大きなショッピングモールには映画館もある。建物の中に入り、映画館に直行した。今日見ようとしている映画は、ある小さな町にいる2人の子供のお話。
「えっとー、これだ!!あの、『2人の小さな町での約束』で中学生が2人です。」
胡桃は店員さんにvサインを送りながら、購入しようとしている。口を挟むと起こるので(何でかは知らないけど)、近くで見守る。
「席はココの2席でお願いします。」
「ハイ、えっと・・・お会計は2000円になります。」
店員さんの声であたしと胡桃は財布から1000円札を出して、渡した。チケットを受け取り、その場を後にした。映画は1時間半後に始まるらしいので、それまでに昼食を食べることにした。某ハンバーガーチェーン店でそれぞれ注文し、40分ほど喋ったり食べたりして過ごした。
「あ、プリクラ撮ろう!!」
その声で再び手を掴まれて、次はゲームセンターに連行された。そこでプリクラを撮ったり、太鼓のゲームをして、30分がすぎた。胡桃が太鼓のゲームで完敗して、落ち込んでいたのは面白かった。プリクラは後で見て欲しいと、胡桃に没収されてしまった。
「そろそろ映画館行って、ポップコーンとか飲み物買おう。」
あたしの声に胡桃は首を縦に振って、再びあたしの手を掴んで連行していった。ポップコーンは2人で1つを購入することにした。
「醤油バターのMサイズを1つ。」
あたしは店員さんに注文して、その間に胡桃は飲み物を悩んでいた。毎回のことながら、遅い。優柔不断なら家で決めてきちゃえば、とあたしが言ったら駄目!!と怒られた。当日の気分によって変えるらしい。
「オレンジジュース!!つめたーい!」
結局毎回オレンジジュースを注文するところが面白い。あたしは炭酸飲料のグレープだ。映画は面白かった。特に、隣りで泣いている胡桃が。終わったあとも少し鼻が詰まっていたようで、グズッと音がした。その後、少しお店を見たりして、ショッピングモールを出た。そして、最初の待ち合わせ場所に戻ってきた。
「胡桃、このあとはどうするの?」
「・・・・・・。」
無視をされた。俯いているその姿は、何かを悩んでいるように見えた。胡桃の綺麗な黒いボブの髪の一房がスルリ、と重力によってながれた。
「どうしたの?相談なら聞こうか?胡桃?」
「・・・朝陽。公園に行かない?」
少し涙目で、何か悩んだ表情の彼女はボソリと、あたしに言った。何故か、嫌な予感がする。でも、首を縦に振るしかなかった。・・・横に振る理由が無かったから。公園はあたしと胡桃の家のちょうど中心あたりにある。ベンチしかない公園。コンクリートで出来ている公園で、珍しく子供がいなかった。ベンチに腰を下ろしたとき、胡桃が自分から口を開いた。
「あと・・・5日」
何が?そう言いたかったけれど、口に出されることなく心で思うだけだった。胡桃が言葉を続けたから。
「ウチが学校に来なくなるまで、あと5日。」
何も言えない。声なんて存在しなかったように、あたしは固まってしまった。聞き返すことすらできず、ただ目を大きく開くだけ。口は小さく開くだけで音を発しない。いや、発せない。
「ウチね、病気なんだって。白血病。大変な病気らしいの。まさか自分がなるなんてね。」
らしいの、って人事みたいに言う胡桃。実感がわかないからなのか、認めたくないからなのかは分からない。ただ、綺麗なその瞳から涙を溢れ出していることだけ、よくわかった。同じものが自分の頬にも流れてるなんて、気づきもしなかった。でも、鼻がツンとした。
「みんなにも・・・3人にも言わなくちゃね!!ッグズ・・・朝陽には、言いたかったの。いっぱいお世話になって、迷惑かけて、振り回したから。」
時々、鼻を鳴らしながら胡桃が丁寧に話す。ポタリ、涙が顎から落ちた。胡桃はそんなの気づかずに続ける。
「朝陽は、流されないでしょう?周りからの声に、目に。だから・・・大好きだった。今はもっと好きだけどね。」
照れたように言う彼女は、儚く見える。そんな彼女に声をかける。
「あと・・・5日、どうしたい?」
「・・・笑って、泣いて、馬鹿なことして、最後はやっぱり笑いたいな!!」
またグズッと鼻がなった胡桃。・・・その日は胡桃がなかなか泣き止まないので、家まで送った。中から出てきた胡桃のお母さんは、胡桃に似た儚い表情をあたしに見せて、微笑んだ。それの意味はなんとなく理解できた。
胡桃がお別れしたのは、それから本当に5日後だった。あの3人は前日に病気のことをきいた。そして、やっぱり泣いた。
「朝陽ー、明日さ、お見舞い行かない?」
最近は喧嘩していない3人。その中の1人である莉奈があたしの机の前にたって、尋ねてきた。背が高いので、少し威圧感がある。
「・・・行く。」
Dear 胡桃
今日も生きていますよね、もちろん。
明日、会いにいくから、待っててよ?
From 朝陽
いかがでしたか?
ここまでのお付き合い、感謝致します。
ここでひとつ、お知らせです。(大したものではありませんが、多分)
朝陽は無口な訳ではありません。私の力不足でそう感じた方もいらしたと思います。でも、彼女はそういうわけではなく、空気を読むだけです。
胡桃ちゃんがどうなったかは、みなさんのご想像でお任せいたします。ハッピーエンドか、その反対か。




