第三章「沖縄へ…」
12月25日
午前6時10分
「6時15、羽田発那覇着、ANA991便をお乗りのお客様は至急、59番ゲートにお越しください。」
早朝の静けさを破る場内アナウンス。
外はまだ薄暗い。月明かりも、星すらない朝の闇。
出発ロビーのソファーに身を沈めていた優太は、飛び起きた。
ついに来た。沖縄に行く日が。
興奮を抑えきれず、ソファーから立ち上がり、思わず叫ぶ。
「ごほん!」
ロビーで、見回りをしている警備員に、わざとらしい咳をされて、すいませんと頭を下げる。ちょっと情けないなと優太は思った。
「あはは」
誰かが、笑い声をあげている。
もう一度警備員が、わざとらしい咳をした。
だが、その人は、警備員を一瞥して近付いてきた。
すごくデカい…
「相変わらず、その叫ぶ癖治んないのな。」
やや、しゃがれた声の、同年代の男が、大仰に肩をすくめて話かけてきた。
「あ…」
よぉ、と軽く手を挙げて、挨拶をしてきた。
「正紀!」
正紀は、高校時代の親友だ。違う大学に行ってから、あまり連絡をとらなかったが、こんなところで逢うとは思わなかった。
「ひさしぶりだな優太!由紀ちゃん、元気か?」
正紀はそう言って、あたりを見回した。
「あれ?由紀ちゃんは一緒じゃないのか?」
「実は…」
あまり話したくなかったが、話さない訳にも行かない。
「…なるほどね。それで、今から沖縄行くわけか…」
正紀は、いつになく神妙な顔つきで、言った。
優太は、黙って頷いた。
「6時15分、羽田発那覇行き、ANA991便にご搭乗のお客様は至急、59番ゲートに、お越しください。」
時刻は12分を廻っていた。
「やべ!」
優太は急いで59番ゲートに急いだ。正紀も急ぐ。
「あれ?正紀も沖縄いくの?」
「まぁな。実家が沖縄でよぉ。あっちで年越すんだよ。」
あぁ、そういえば、沖縄が実家とか言ってたな。
二人は、大急ぎで、飛行機に乗りこんだ。
ぐんぐん陸から遠ざかっている。東京の街並みが、遥か下だ。東京は、灰色の暗い空に反応できていないかのように、ポツポツとしか、灯りが点っていなかった。
気温は氷点下58度。鳥も凍りそうだ。
そんなことを知ってか知らずか優太は、朝早く起きて、寝不足の疲労をとるべく、眠りに就こうとしていた。
騒がしい正紀は席が離れているため、着くまでは、静かだろう。
東京の摩天楼達を見下ろしながら、ゆっくり暗闇の世界に浸かっていった。