第二章「決意と決行」
これより先に、地名などを表現するところがあり、著作権法などに係らないように地名の名を変えている場合が御座いますので、予め、御了承下さい。
駅には、6時47分に着いた。
切符を買い、駅のフォームに、滑りこむ。
時刻表の電光掲示板には、
「6時50分、普通、羽田空港行き」
と刻んである。
これに乗って行けば、たどり着くはずだ。
ただ……。
間に合うのか…?
羽田空港までに行ける時刻などは、特に頭に入れていなかった。
まさかこうなるとは、思ってなかったから。
いまさらながら、時刻表とかを買っておけば良かったと思った。絶対、買わないけど。
一瞬、間に合わなかった時の事を考えた。
そうすると、不思議と潮が引いていくように、熱が冷めていく。
…そうだよ、なんでこんな急いでるんだ?意味ないじゃないか。また、別の人を探せばいいだろうに。
「違う!」
心の中の悪魔を振り払った。
もう、迷わない。
心の中で、彼は深く、本当に深く、刻みこんだ。
電車が、闇を切り裂いて迫ってくる。
電車内は、混んでいた。クリスマス・イブで、帰郷する人が大半を占めているのだろう。
凄く狭い。
体も…、心も…。
7時41分に、羽田空港駅に着いた。
時間は走れば、まだ間に合うはずだ。
彼は全速力で、羽田空港第二ターミナルへ向かう階段を駆け上がった。間に合わなかった…………。
いや、後ろ姿に叫べただけでも間に合ったと、言えるだろう……。
彼女はすでに入場ゲートで荷物検査をしていた。
叫んだ。違うかもしれないのに。反応はない…。
もう一度叫んだ。確実に彼女に聞こえただろう。何人もの人が振り向いたから。
でも、彼女は振り向いてくれなかった。ただ、彼女が一瞬笑ったように感じたのは気のせいなのか…
「…バカ…だよな……」
彼は心の中で、そう自分を責めた。
そうだよ、振り向く筈がない。あんな事言えば、傷つくのは解っていたのに…。
『ごめん…、やっぱり行けないよ。今を捨てられない。』
すべてを消し去った一言が頭に浮かんだ。
あのとき、ついて行けば良かったんだ。後悔先に立たずとはこのことだな、と笑った。強がりだ。
また涙と共に、軽いおえつが、零れ落ちた。数人が振り向き、すぐ、別の方を向いた。
悔しかった。悲しかった。
そうだよ、僕は彼女がいなきゃ、何もできないんだ。
心の中のどこかが弾け飛ぶ音がした。
彼女の居ない、毎日を考えたら。
…追いかけよう。もう、先のことは考えない。そうだ、彼女を追うんだ。
自分に負けられなかった。
そうだ、戦うんだ。こんな風に、熱くなったのはいつだっただろうか…。
「さて……。」
彼女が行くところは解っていたのが唯一の救いだった。
あちらでの生活に馴染むために色々な所を観光すると言っていたのを覚えている。
なら、片端から、観光地を廻るだけだ。
沖縄の観光地で有名と言えば、
「首里山城」
「沖縄美海水族館」
「しらゆりの塔」
くらいか…。
あと、千座毛とかいう所にいきたいとかいっていたから、そこに行く可能性もある。
「兎に角、明日に備えて、早く帰ろう。」
彼は、羽田空港第二ターミナルの出発ロビーから、外に出た。
外はクリスマス・イブの風に吹かれて、雪が綺麗に踊っていた。
イブの奇跡…
そんな言葉がよく似合う美しさだった。
空は、まだ少し明るい。
待ってろよ。いや、彼女は待ってないかもしれない。
でも、追いかける。ほかでもない、自分のために………。
そうさ、自分のために………行くんだ。
「由紀」
の…、僕の大好きな女の子に、会いに………。
彼は、
「優太」
は、雪の絨毯を踏みしめて、駅へと向かった。腕時計は、午後10時を刻んでいた。
「そうさ、すべては、明日だ………。
優太は呟いた。